荒城

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9/12/2025, 11:53:31 AM

【台風が過ぎ去って】

台風が過ぎ去った。
まだ風は強く、雲が速いスピードで流れているのが見て取れるが、青い空が広がっている。
昨夜、激しく窓を叩いた嵐が嘘のようだ。
ニュースも、台風一過と被害の様子を伝えている。
幸い、このあたりは大した被害もなく、わが家では朝顔の鉢が倒れた程度で済んだ。
僕は勉強机に目をやった。
何も書かれていない真っ白なドリルが朝日を照り返している。
目論見は外れ、警報は解除された。

9/12/2025, 9:17:46 AM

【ひとりきり】

「もてなしが行き届かなくてすまない、今この家には私一人きりなものでね」
博士はそう言うと、来客にソファをすすめた。
「博士、お茶をお淹れしましょう」
博士の最高傑作であるアンドロイドの『彼』はそう答えた。
「ああ、ありがとう」
ほどなく、彼は博士と来客に温かな紅茶を届け、下がった。

来客が帰ったのち、博士は彼に聞いた。
「私は一人ではなかったね、つい言い訳に一人と言ってしまったよ。だが、君がいた」
「博士は掃除機や冷蔵庫も一人、と数えるのですか? 私はそれらと同じ機械にすぎません。博士はこの家にひとりきり、で、何も間違いはありません」
「……うむ」
博士はそう答えると、目を伏せ、冷めた紅茶を口にした。
「ですが、掃除機や冷蔵庫、皆が博士と共に暮らしている、と考えるのもある視点では正しいかと。ですので、私を数えていただくならば、博士の家には、たくさんの家族がいる、とこれからはお答えするのがよろしいかと思います」
彼がそう言うと、博士は顔をほころばせた。
「ああ、そうだねぇ。君は良いことを言う」
「つきましては、家中の家電全てに名前を付けましょう」
「えっ? 全て?」
「はい、まずは冷蔵庫から」
そう言うと、彼は博士をキッチンへいざなった。

9/11/2025, 12:50:27 AM

【Red,Green,Blue】短歌

赤緑青空の下一面に
咲く赤い花の名を調べる

9/10/2025, 7:55:45 AM

【フィルター】短歌

君の声君の姿しか見えない夜
「好き」のフィルター通すみたいに

9/9/2025, 8:04:32 AM

【仲間になれなくて】

「かわいいー!」
バズっているぬいぐるみの画像を見ながら、高い声が飛ぶ。
内臓が飛び出たり、ファスナーのような雑な縫い目があったり、血のような染みがあったり。
かわいいのに「グロい」部分のあるぬいぐるみのシリーズが流行っていた。
私はそっと目をそらす。みんなの手前言えないが、正直、これは苦手だ。
「ねえこれ、みんなでオソロでつけようよー!」
「いいね、修学旅行とか文化祭とかこれつけて回ろうよ!」
(えっ、いやだ──)
「えっ、嫌だ」
由紀奈はきっぱりと言った。私の声が出たのかと、心臓が高鳴った。
「だってグロいじゃん」
ええー、と声が出て、空気がしらける。
「そろそろ移動だし、行かね?」
私はうなずいて、由紀奈のあとに続いた。
「だって、グロいと思ったんだもん」
由紀奈はつぶやいた。そうか。由紀奈も、後悔したりするんだ。
「私も、あれはグロいなって思ったよ」
そう言うと、由紀奈は笑った。
「だよねぇ?」
仲間にはなれなくても、友達ができた。

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