【ひとりきり】
「もてなしが行き届かなくてすまない、今この家には私一人きりなものでね」
博士はそう言うと、来客にソファをすすめた。
「博士、お茶をお淹れしましょう」
博士の最高傑作であるアンドロイドの『彼』はそう答えた。
「ああ、ありがとう」
ほどなく、彼は博士と来客に温かな紅茶を届け、下がった。
来客が帰ったのち、博士は彼に聞いた。
「私は一人ではなかったね、つい言い訳に一人と言ってしまったよ。だが、君がいた」
「博士は掃除機や冷蔵庫も一人、と数えるのですか? 私はそれらと同じ機械にすぎません。博士はこの家にひとりきり、で、何も間違いはありません」
「……うむ」
博士はそう答えると、目を伏せ、冷めた紅茶を口にした。
「ですが、掃除機や冷蔵庫、皆が博士と共に暮らしている、と考えるのもある視点では正しいかと。ですので、私を数えていただくならば、博士の家には、たくさんの家族がいる、とこれからはお答えするのがよろしいかと思います」
彼がそう言うと、博士は顔をほころばせた。
「ああ、そうだねぇ。君は良いことを言う」
「つきましては、家中の家電全てに名前を付けましょう」
「えっ? 全て?」
「はい、まずは冷蔵庫から」
そう言うと、彼は博士をキッチンへいざなった。
9/12/2025, 9:17:46 AM