眩しき日食。
どちらかと言えば、いま逆境。
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【47】逆光
いつか見たむなしい夢をメモってたおかげで、そのシーンばかりが反芻される。
セーラー服姿の脚のない少女。
自分をいじめた少女たちをユンボでひいた。
楽しい歌を歌おうよ。
もっとためになる言葉を。
このいたたまれない嬉しい心にポジティブの雨を注ぎなよ。
私たちは素敵な空っぽ言葉で占われたいのだ。
誰か行く末を確約してよ。
あなたはこんな人なんだと私の手足を打ち抜いといてよ。
きっとそれで安心するんだろう。
あらがいながらも絡め取られるんだろう。
そうゆう快感を選んだんだろう。
見えない道がこわすぎて。
だってそこには私の憎しみが立っている。
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【46】こんな夢を見た
タイムマシーンに乗ってあなたの未来を見てきました。
あなたは次の地震で大変な身体的被害に見舞われます。
それを避けたければ、1回目の揺れで必ず、屋外に逃げてください。それが難しければ、すぐに、頑丈な柱のそばや、頑丈な机の下に逃げてください。躊躇してはだめです。
そして、余震が落ち着くまでは、決して家に入ってはいけません。
他の誰かの事ではありません。あなたに言っています。これを聞いている、これを読んでいる、そこのあなたです。
必ず、必ず、すぐに、屋外に逃げてくだい。
必ずです。
と、全世界中の人に、タイムマシーンに乗ってないけど、言って回ったら、ちょっとは誰かが救われるだろうか。
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【45】タイムマシーン
特別な夜といえば、俺にとってはあの日の事だ。
俺は一度、宇宙人にさらわれた事がある。
今の若い人は知らないかもしれないが、80年代はよく宇宙人が地球に降臨していた。
どうゆう理由なのかその頃の宇宙人たちは、地球人が放牧している家畜の内臓を血液も残さず綺麗さっぱり抜き取ったり、麦畑にミステリーなサークルを作ったり、空中から砂を出現させたり、スプーンを曲げたりして、地球のゴシップ番組を賑わせていた。
挙句の果てに運転操作をあやまって宇宙船をアメリカくんだりに墜落させてしまい、干からびた遺体となって米軍に極秘物扱いされたりしていた。あれは他の宇宙人たちも焦っただろう。遺体を奪還しようとして人間に化けた遺族宇宙人がアメリカ国内に潜入し、スパイ映画さながらの大活劇を繰り広げたらしいが、それはまた別の話だ。
そんな宇宙人時代のある寒い夜のこと、俺は飲み歩いた友人たちと別れ、ひとり帰り道を歩いていた。そのさなか、ヤツと遭遇した。
最初は閃光だった。
月のない夜、周囲は田舎道で街灯も少ない。気配を感じて、暗い道に落としていた視線をふっと上げたその瞬間、いきなりの光彩と風圧に俺は尻もちをついて、したたか尾てい骨を打った。まばゆい光は強烈に俺を包み込み、その光の激しい圧力で俺は気を失った。
気がつくとそこは金属光沢のある室内で、先程よりもやわらいだ光の中心に桃色の星のようなものが立っているのが見えた。ここは、宇宙船の中か?
「ハバリガニ、カリブ、ンダニ」
30cmほどの大きさの桃色が喋った。それは噂に聞くような脳の中に直接話しかけてくるものではなく、はっきり空気が振動して耳に伝わる声だった。
意味がわからず目を見開いて黙っていると、クィーンチュイーンザワーーッというような、ラジオのチューニング的な音をさせ、桃色がまた喋った。
「ようこそ、ようこそ、私はパトリックです」
俺はさらに驚いて口をパクパクさせた。日本語を喋っている! そして、、そうか、こいつは、、、ヒトデだったのか!(※注)
「私は地球の皆さんのことをよく知るためにはるばる宇宙からやってきました」
慇懃にパトリックは言う。
「偶然ではありますがあなたと今夜遭遇することができて大変うれしいです。ぜひ私達の知見のために、あなたの経験を共有させて頂きたいと思います」
「な、何をさせるつもりだ?」
俺はこわごわ聞く。
「あなたは何もする必要がありません。ただ、あなたの首の後ろに小さなチップを埋め込ませてもらいたいのです。それがあなたの行動を逐一私達に伝えます。血圧や心拍数、血液組成も分かるので、異常があればあなたにご報告しますよ」
「えっ、それは、病気の兆候があれば教えてくれるということ?」
「ほっとけば治るような軽いものでしたらお知らせしませんが、命に関わるものでしたら、チップを入れさせてもらったお礼として、ご連絡さしあげます」
そんなわけで、俺の首の後ろには監視用のチップが埋め込まれている。指で触るとそこだけもっこり盛り上がっていて、糸の端のような感触が未だに残ったままだ。下手くそか。
何か大病の気配があればパトリックが知らせてくれるという事にはなったが、一体全体、どうしてそんな事を信じたのか我ながら分からない。ヤツは口からでまかせを言ったのかもしれないじゃないか。一種異様な神秘体験の中、俺はあの夜、イヤに従順になっていた。
ちなみにあのとき打ち付けた尾てい骨は折れていて、命には関わらないが大変な苦痛を味わった。
さらに激しく情けないのは、あいつ俺の後頭部に、大々的に宇宙人である自分の証拠を残していきやがった。悔しくてならない。
ミステリーサークルだ。
これが俺の特別な夜の記憶のすべてだ。
※注 アメリカのアニメ『スポンジ・ボブ』に出てくるキャラクターの、ピンクのヒトデの名前がパトリック・スター
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【44】特別な夜
月の海は20個ほどあるという。
地球から見てこれらの海は暗く見え、いかにもそこに宇宙の闇を映す水面があるように思えるけど、実はその暗さの理由は黒い玄武岩にあるらしい。
月ができたばかりの頃、周囲には惑星になりたかったけどなれなかった小さな星がたくさんあった。微惑星と言って、それらの星が引力に引き寄せられて月に落ち、できたのが直径数百kmという大きなクレーター。
巨大クレーターは何億年もかけていくつも生まれ、星の落下が落ち着いた頃、その穴の底から玄武岩質のマグマが噴出した。噴き出たマグマはやがて冷め、玄武岩は暗い平らな海になった。
昨日、月面探査機SLIMが降り立ったのは「神酒の海」の近くにある、「SHIOLI」という白く小さなクレーターだ。太陽電池がうまく働かないSLIMがこの後どうゆう動きをするか分からないんだけど、やがてSLIMは海の底に到達するかなぁと夢想している。
45億年前に月は地球から引きはがされて、地球人は月の底の夢を見た。そこは自分の住処・地球の記憶を持っていて、忘れ去られた過去を私たちに見せてくれる。
風や雨や生き物たち、もしくは地中に埋没していくプレートなんかのせいで形を変えていく地球と違い、数億年の過去をとどめおく、お月様の海の底。
今日また人類のロマンが一歩おずおずと歩を進めて、地球の成り立ち、月の構造、宇宙の歴史、それらを紐解く足がかりに触れる。海の底は記憶と繋がっていて、私達をまたロマンに突き落とす。
余談だけど、クレーター「SHIOLI」は、SLIMが歴史のターニングポイントに挟まれる「栞」となりますようにという願いを込めて名付けられたらしい。その詩情にうっとりしながら、海の底の夢を今日は見ようと思う。
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【43】海の底