お父さんがいて、お母さんがいて
君がいて、ボクがいた。
ボクら生まれた時から一緒で
毎日毎日じゃれ合って
最初はね、ふたりとも何も分からない赤ちゃんみたいなもんだった。
だけど、じきにボクの方が君を守らなきゃって思えてきたんだ。
君は危なっかしくフラフラ歩くし
ボクの方が足が速いし。
それがいつしか君はお兄ちゃんみたいになって
ボクは小型犬だから軽々と君に抱きかかえられるようになって
それでもボクは君を守りたかったよ。
痛いことからも辛いことからも君を。
しばらくして
お父さんとお母さんは大きな声でケンカすることが増えた。
悲しい君を慰めたくて
ボクはクンクン君の膝小僧に鼻を押し当てたけど
ずっと一緒にいられると思ってたんだ。
ずっと一緒に。
でもある朝、君はお母さんに連れられていった。
ボクはお父さんとしばらくここに住んでたけど
今度お父さんもこの家を出る事になったよ。
次の家は犬を飼えないんだってさ。
ボクはどうなるか分からないよ。
君に会いたいよ。
君に会いたいよ。
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【42】君に会いたくて
『「退化」の進化学―ヒトにのこる進化の足跡』という本を読んでいる。ブルーバックス。
この本によると、長い進化の過程で使われなくなって消えていった器官、今では機能してないけどかろうじて残っている器官、あるいは形を変えてほかの機能を持つようになった器官が、私達の体には無数に残っているらしい。
それらはまるで、地球の各地で発掘される化石のように、今までの人類進化の歴史遺産として、私達に過去を教えてくれる。
体を切り開いて解剖してみたらまぁ見えなくもないわけだけど、これって「閉ざされた日記」みたいじゃない? と思いました。終わり。
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【41】閉ざされた日記
彼をどうしてやろうかな。
煮ちゃおうかな。焼いちゃおうかな。
美味しく刺身にしようかな。
釣った魚にエサをやらないって言うじゃん。
そりゃそうだよ。
だってこっちが食べるんだから。
彼をどうしてやろうかな。
彼をどうしてやろうかな。
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【40】どうして
「ずっとこのまま」を「とりこのまま」と見間違えた。まったく似てない。でも、同じようなもんか。
ずっと変わらず現在の状態のままでありたい、と願うのも、何かに囚われた自分の、もしくはあなたの、もしくは皆の状態を変えたくない、と願うのも、実はそんなに違っちゃいない。
この執着の呪縛から離れたくないよ。私の気持ちを冷めさせないで。あなたが私に注ぐ魔法に溺れたままでいたい。私にかけられた甘い呪いをとかないで。
あなたも私に囚われて、この関係性は永遠に続き、愛は変わらず、憎しみも変わらず、私から離れられることはなく、閉じ込められたガラス瓶の中で、窒息しても構わない。
あなたはここを出ようともがくけど、私を裏切るのは許さない。私を傷つけるのは私を愛してない証。その代償を払わなくてはいけない。
愛は終わらないでしょ。あなたは出て行かないでしよ。私を抱きしめたまま、あなたは朽ちていくでしょ。それでも別に大丈夫。愛が永遠ならば。
変わらない事をのぞむ私と、変わっていこうとしてる私を想像したとき、出てくる妄想がこんなひどい有り様で、私はとても息苦しくなる。
でも病んだそんな感情に灼かれながら、私はとても幸せそう。
ずっと変わらず、ずっと変わらず、繰り返すクソみたいな愛情におびやかされたまま、永遠を生きましょう。あなたを愛してる。
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【39】ずっとこのまま
言葉を知る私ふわふわと宙を飛びながら、止めようにも止められず勝手気侭にイメクラごっこ。
縛り付けられたあたしは、いいかげん感じるの嫌になって、冷たい地面で硬直中。
私たち、お互いに相手を殺そうと、刺すたび自分を確認しようとする。
誰かが自分達を占ってくれるのを、心踊らせて待っている。
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「時間が私を追いこす」という表現と、「私が時間を追いこす」という表現が同じ意味になるのはなぜだろう。どちらも時間がかっ飛んでいく風情。
私と時間は一心同体でありながら分離しているようだ。私と体たちの関係に同じく。
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生体時計がアクビをするので、正確な時刻が分からない。
時間が私と一心同体ならば、時計だって私と同様なものの筈なのに。
やけになって飲み込んだスウォッチが、調子はずれの周期で時をきざむ。トントントン、ツーツーツー、トントントン。ピーターパンが殺しに来るよ。
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【38】20歳