ゲニウス・ロキ
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【57】この場所で
誰もがみんな、自分の生活の一部始終を記録・再生できる時代がやってきた。
自分の体験、記憶を脳みそから直接アウトプットし、正確にヴァーチャル追体験させるサービスが開始されたのだ。
意識が認識しなかったあれこれも、出力をあげて見ることが出来るので、その時感じられなかった、音、匂い、温度、湿度、風、空気の振動も、再構成されて追体験できる。
そのサービスは人気を博し、利用者は世界中に広がった。しかし恐ろしいことに、使った人々が次々に自殺する事態に発展した。
記憶を再確認し、自分の思っていた出来事と事実との違いに、激しいショックを受ける人が続出したのだ。
「あの時、断崖で足を踏み外した息子は息も絶え絶えに小さく助けを求めたのに、それを聞き漏らした私は彼を殺してしまった」
「暗闇で私を襲った見知らぬ男のかすかな声を拡大してみたら、それは実の父親のものだった」
「赤ちゃんを渡した笑顔の素敵なベビーシッターは、連続殺人の指名手配犯と同じ顔をしていた」
「あんなに私に愛をくれた夫、私が別室にいる間の彼の声を拡大してみると、私を保険金殺害する相談の電話を他の女としていた」
人はみな、正確な情報だけでは生きていないし、自分の見たこと、聞いたこと、感じたことの正確性を疑えない。
思いもよらず辛いことが発覚したり、もしくは辛いことの原因が自分にあったと知ってしまった時、暗い穴がぽっかりと口を開けて待っていたことに人は突然気づく。
誰もがみんな、踏み外す深淵をすぐ足元にいつも従えている。
さあ、見てみて。
あなたの深淵は、どんなふうにあなたを待っている?
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【56】誰もがみんな
ダニエル・キイスの『アルジャーノンに花束を』の花束は哀しい。
1950年代のアメリカ。
知的障害を持つチャーリイは素直で親切な心の青年。友達たちのように賢くなりたかった彼は、知能を向上させる脳手術を受け、元は68だったIQを185まで上げることに成功する。天才だ。
でも、賢くなればなるほど、今まで知らなくてすんでいた辛い事実に気づいていく。友達だと思っていた仕事仲間は実は自分を嘲笑っていた。知能の低さゆえに自分は母から捨てられた。信頼していた教授たちにとって、自分はただの実験道具だった。
自分より先に脳手術を受けたハツカネズミのアルジャーノンは、向上させた知能をやがて失い、正気をなくして死んでいく。それを見たチャーリイは自分がこれからどうなっていくかを知る。
衰えゆく知能の中で、彼は報告書に書き記す。
「どうかついでがあったら、うらにわのアルジャーノンのおはかに花束をそなえてやってください」
アルジャーノンの運命に自身の運命を重ねて
アルジャーノンへの哀惜がそのまま自分自身を突き刺して
花束はまるで哀しみの結晶みたいだ。
憐れみ、哀しみ、鎮魂、今まで生を精一杯いき抜いた事への慰撫、その尊厳への祝福、はなむけ、、
華やかな分だけ、哀しみが滲む花束は切ない。
この文章書こうとして忘れていたあらすじを調べて改めて慟哭。。
映像化もいろいろされてるようで、強い力を持った本はいつになっても読み返されていくんだな。
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【55】花束
たまたま入ったカフェの壁に『地下鉄のザジ』の笑顔のポスターが貼られていた。1960年代のフランス英語。水色の背景に、すきっぱのおかっぱ少女ザジの、ニカッと笑った顔がのっていてとてもキュート。ポスターはオレンジ背景にイラストのバージョンもあるけど、ここに貼ってあるザジは写真の笑顔だ。
7歳はなれた姉が映画好きで、部屋に映画雑誌をよく置いていた。私はその紙面でこのタイトルを知ったんだと思うけど、昔はネット検索もなく、レンタルビデオも田舎ではマイナー作品は置いてなく、観てみたいと思いながらも今まで来てしまった。
このポスターのザジは若いころの姉にそっくりで、見るたび笑える。実際の姉はどういうわけかいつも押し殺したような表情で写真に写ってるので、別の世界線の姉を見てるようではある。
でも、大人になって酒に酔った姉の笑顔はこんな感じ。何のしがらみもなく、屈託もなく、今この瞬間だけの感情で笑っているいい笑顔。
カフェに一緒に入った私の彼氏は私の姉を知ってるので、彼もポスターを見て笑った。そっくりだから。
自分の背後のポスターを振り返って見て「似てる!」と私に顔を戻したその顔も笑顔で、パシャっと撮ったらいい笑顔が2つ並んだいい写真ができた。
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【54】スマイル
DとかCとかしか押さえられないけど、
ギタリストになるのが夢です。
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【53】どこにも書けないこと(かろうじてF)