【これで最後】
「ほら、お姉ちゃんにばいばいしようね」
『なんで?ばいばいなの?』
「そう、お姉ちゃんにはもう会えなくなっちゃうの」
『とおくにいっちゃうの?』
「体はここだけど、心はもうお空に行っちゃったの」
『ふーん』
その後、父がお姉ちゃんの体に蓋をした。
父の顔は汗と涙でいっぱいで、
母の身体は微かに震えていたのを覚えている。
『おねえちゃんはここでおねんねするの?』
「そうよ」
『だったらぼくがおねえちゃんをおこしてあげる!』
その瞬間、お姉ちゃんを埋める父の手が止まった。
母も血相を変えている。
そんな純粋無垢で何も知らない僕のお話。
【君の名前を呼んだ日】
人の名前を呼ぶ時って、どんな時だろうか。
自分に気づいてもらう時?
自分をちゃんと見てもらう時?
話す相手を限定する時?
抽象的だけど、まだまだいっぱいあると思う。
名前を呼んだ人は、その人と向き合おうとしている。
けど、呼ばれた人はそんな事しなくてもいいみたい。
だって何度読んでも、何度叫んでも、
あの日、君は立ち止まって振り向いてくれなかった。
私の何がダメだったのかな。
そんな呼び止める為に君の名前を呼んだ私のお話。
【やさしい雨音】
「あれ、もうこんな時間…」
ふと、勉強する手を止めて顔を上げる。
没頭し過ぎて、いつの間にか空が暗くなっていた。
「そろそろ家に帰らなきゃ…」
荷物をまとめて図書館を出る。
街灯を頼りにしばらく歩いていると、
ポツ、ポツ、と雨が降ってきた。
「げ…傘持ってないんだけどなぁ」
走り出した私に雨が降りかかる。
少しほてった私の顔を、冷たい雨が冷やしてくれる。
街は静かで、歩くたびに水の跳ねる音が聞こえる。
パチャ、ポツ、ザバ、ピチャ、
響き渡る雨音。
私の足はいつの間にか、走るのをやめていた。
「雨は嫌いなんだけどな…」
そんなちょっぴり嘘をついた私のお話。
【歌】
僕は歌が好きだ。
辛い時、落ち込んでいる時、
唯一味方になって慰めてくれる。
ドライブ中は、一緒になって盛り上がる。
気分によって、いろんな歌を聞く。
歌は、その時に欲しい言葉をメロディに乗せてくれる。
1人で、2人で、皆んなで、
あの時こんな歌聴いたな〜
今日は一緒に歌って忘れちゃお!
そんなふうに記憶になって、想い出になって、
ゆっくり、着実に、僕の人生に絡んでくる。
いつの間にか、とても身近な物になっている。
そんな歌が好きな僕のお話。
【そっと包み込んで】
「ねーねー」
『ん?』
「そっち行って、一緒に寝てもいい?」
『しょうがないなぁ、おいで』
「えへへ、やった〜」
彼の隣に寝転び、目を見つめた。
『どうしたの?』
「んーん、なんでもない」
顔を布団に埋めながら、彼の腕を腰に回した。
「寒いからこうして寝たい、」
『じゃあもうちょっとこっちおいで』
彼のしっかりした腕が私の身体を引き寄せる。
そっと包んで、でも離さなくて。
さりげない幸せを感じられた。
そんな私の彼氏のお話。