【青い風】
「あっつーい!!」
『ちゃんと水飲んでる?』
「飲んでるよーーけど暑いのーー」
プール掃除中、彼女はそう嘆く。
「…あ、そうだ」
ニヤリと笑って何処かへ行ってしまった。
(何してるんだか)
ブラシで床を磨く。
次の瞬間、
背中にバッサァ!と水がかかった。
『冷た!!!!』
後ろを振り返ると、ホースを持った彼女がいた。
「えへへ、やり〜」
『…やったなー!?』
俺もバケツを持って参戦する。
お互い子供みたいにキャーキャー叫ぶ。
プールも空も、一面青に染め上がった気がした。
そんな夏の日のお話。
【遠くへ行きたい】
「ねぇ待ってよ」
『離して、もう見たくもない』
「俺が悪かった。俺変わるから」
『…私は』
『嫌な事だって怖かったけどちゃんと伝えた』
『そう言う不満は誰にだってあると思うから』
『その事にちゃんと向き合って話し合って欲しかった』
『俺だって、お前だって、ばっかり』
『言い訳じゃなくて、改善しようとは思わなかった?』
『好きだから我慢してきたけど』
『昔の想い出が、私の気持ちを押し込めてたみたい』
『残念だけど』
『私の事を大事にしてくれない人には用は無いの』
『どれだけ伝えても話しても、向き合ってくれなかった』
『男って、気づくのが今更すぎるのよね』
『一刻も早く、貴方のことを忘れたい』
そんな女のお話。
【クリスタル】
「綺麗…」
ガラスケース越しにうっとりする男性客。
『いかがなさいましたか?』
「ああ、すみません」
「このネックレスがとても綺麗で…」
彼が見ていたのは、アメジストのネックレスらしい。
『どなたかにプレゼントなさるんですか?』
「…はい。彼女の誕生日のお祝いにいいなって」
「まぁ、あと半年先ですけど…」
へにゃっと彼は笑う。
「出来たらでいいんですけど…」
「僕が買いに来るまで取っておくことって…」
『可能ですよ』
半年前から悩んで決めたプレゼントなんて、
彼女さんはきっと喜んでくれるはずです。
思わずそう言いたくなった。
そんな場面のお話。
【夏の匂い】
登校中の湿度高めの生臭い空気の匂い。
学校の付けたてクーラーのカビっぽい匂い。
体育後の汗と制汗剤の混ざった教室の匂い。
虫除けスプレーのツンとした匂い。
夏は嫌な匂いが多い。
けど
放課後、皆んなで寄った海の潮の匂い。
この匂いだけはなんか好きなんだよね。
そんな思い出のお話。
【カーテン】
「結婚式にはやっぱりドレスよね」
「真っ白い綺麗なウエディングドレス」
『着てみたいの?』
「着せてくれるんでしょ?」
『…もちろん』
私がそう言うと、彼女はふふっと笑った。
正直、確証は無かった。
この世の中が、私たちの事を受け入れてくれるのか。
白いレースのカーテンに身を包む彼女の姿が、
私には恋しくて痛くてたまらなかった。
そんな2人のお話。