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1/24/2026, 5:01:22 PM


逆光

スマホの中の、昔の写真ファイルを表示する。
指を右から左にスワイプしていくと、次々写真が流れていく。
色々撮ったが、とりわけ多いのは海の写真だ。
海と、彼女の写真。
ここの近所で、2人で遊びにいくといえばここだった。場所が同じだからどれも似たようなのばかりだし、ほとんどの写真は逆光して顔が暗くなってしまっているけれど。
それでも、どの写真でも、
彼女の笑顔ははっきり写っていた。
服がほぼ真っ黒な写真でも、
あの太陽のような、まぶしく、まばゆい――
ふいに外から聞こえた音に顔をあげる。
どうやらただの家の前を通る足音だったようだが、顔をあげたせいで現実が見えてしまった。
自然光だけで照らされる、誰もいない散らかった部屋。
まだ山積みの底が見える段ボール箱、そこに入れるべき荷物と整理するべき書類。
大きくため息をついた。

彼女が死んでどのくらいだろうか。

信じられないことに、カレンダーを見る限りでは一週間も経っていないらしい。
ある時突然倒れたかと思えば、すぐ緊急入院する事になった彼女。
持病の話は聞いていたが、こういう事になるのはまだずっと先だと思っていた。
自分も彼女も、まだ若かったから。
自分は時間がある日全てで彼女に会いに行った。
少しでも会う時間が大きくなるように、できるだけ彼女が寂しくないように。
でもきっと寂しかったのは自分だったのだろう。今思えば、お見舞いのたびに手も震えていたかもしれない。
怖かった、このまま永遠に離れ離れなんじゃないかって。

その日はいつもの時間より少し遅れた。少し仕事が長引いたんだ。
病院に向かう途中、電話がかかってきた。番号を確認する前から血の気が引いて、冷たい汗が額を濡らした。
その嫌な予感は当たった。

話を聞いた後、電話を切った後、そして病室についてすぐは、思ったよりも冷静でいられた。
もっと取り乱すと思ったが。自分はなんて冷たいんだと思った。
でも、冷たくなった彼女を前にすると、だんだん実感が湧いてきて、目頭が熱くなる、視界が歪む、頬を伝う。
泣いて泣いて、泣いている間のことはあまり覚えていない。

お葬式でも――と、考えたところでハッとして時計を見る。記憶を辿っている場合じゃないんだった。段ボール箱に目を戻す。
自分はこれから、彼女と2人で暮らしたこのアパートを出ていくつもりだ。
別に彼女の思い出を置いていくというわけじゃない。ただ……気持ちを晴らすには、変化が必要な気がした。
引っ越し先はそう遠くなくて、今よりもっと海が近くなる。
通りかかるたびに写真を撮るつもりだよ。
天国の君への手土産として。

……そのために、今は引っ越しの準備をしなくては!
自分を鼓舞して重い腰を上げる。
立ち上がると、窓の光に自分の影が長く伸びていた。

11/3/2025, 5:45:27 PM

部屋に幽霊が出た。同い年くらいに見える、女子高生の霊だった。
足が消えていること以外は普通の人間に見える。
ある日帰ってきたらしれっといた。
自分は悪い霊じゃない、どうか除霊しないでほしい。と必死に主張していて、無視するのも可哀想に思い、塩を握りしめた拳をおろして話を聞いてやることにした。
幽霊とは不思議と話が弾んだ。彼女は自分のことをスズと呼んでいた。
スズと私は、その日から雑談をする仲になっていった。

学校を終わらせたら、まっすぐ家へと帰る。
私は部活には所属していないし、これといって仲のいい人間の友達もいない。
いつの間にかスズと話すのが日々の一番の楽しみになっていた。親友と呼んでもいいだろう。
スズは色々なことを話してくれた。
生前の記憶はないと言っていたが、彼女はかなり博識だ。本人曰く、「無限に時間あってヒマだったからひたすら図書館で本読んでた」らしい。
それを聞いたわたしは海ふと気になったことを聞いてみた。スズは地縛霊だと思っていたが、実際はそうではないのか?
答えはこうだ。
「え、普通に移動できるし外にも出られるよ笑」
とのことなので、週末二人で出かけることにした。
近所の海、街なかの小さな公園、ピクニック、ショッピング……。
最初こそ人の目を気にしていたが、だんだん慣れてくるとどうでもよくなってくる。
私達はほんとうの、生きている友達みたいに、二人で街を歩いた。
歩き回って、疲れたら座って、おしゃべりして、何か食べたりして……。(まあスズはものを食べられないから食べたのは私だけだけど……。)思い出がいくつも増えていった。

かけがえのない親友だった。
きっと、スズもそう思ってくれているはず。

そのはずなのに。

ある日。
深夜に目が覚めると、スズがいなくなっていた。
いつも寝ている場所にも、家のどこを探してもいない。まるで、最初からいなかったみたいに。
思わず私は家を飛び出した。
家の周りを、近所を、死ぬ気で走り回る。
もちろんスズのことは心配だったが、それ以上にスズとの友情がすべて夢だったと言ってほしくなかった。

スズを見つけたのは、近所の砂浜だった。
スズと最初に出かけた場所だ。
あの時はスズが海水に怯えて大変だった。
のに、
今スズは波打ち際の先で、すねまで海水につけて海を見ながらただ立っている。
「スズ!!」
思わず大きな声で呼びかけた。
返事はない。
スズは人形のようにピクリとも動かない。
もしかしたら海水で動けなくて困ってるのかもしれない。
冷静じゃない頭でそう考えた私は、走り回ってヘトヘトの脚でスズの近くに歩み寄る。
「スズ、どうしたの?心配したんだよ」
そう言って肩に手を置く。
……?
肩に手を置くことができた。
初めてスズに触れることができた。
これまではスクリーンの映像のようにすり抜けていたのに。
「あれ……?」
困惑するうち、スズがゆっくり動き始める。
錆びたブリキのおもちゃのような、ぎこちなくてガクガクの挙動で、一歩、また一歩と歩みを進めていく。
「スズ!?だ、だめだよ、そっちは……」
私の忠告も届かない。
言葉では止められない。歩みは止まらない。
「待って!!!」
ばしゃばしゃと、水しぶきが散る。
頭の中が真っ白になる。
再び冷静になれたのは、膝まで海水に浸かった時だった。
水が重くて、海が怖くて、これ以上は進めない。
スズはまだ足首だけ浸かった状態で、ただまっすぐ、水平に歩いていく。
その後ろ姿ははどんどん小さくなっていく。
もう会えない。
ふもそんな言葉が頭によぎった。
呼びかけは悲痛な叫びに変わる。
「待って!!おねがいだから、待っ――――」

手を伸ばす。

届かない。

見えなくなる。


朝焼けで空が緑色に染まる。
残ったのは、波の音だけだった。

【行かないでと、願ったのに】

10/26/2025, 6:15:28 AM

窓に白いきれいな羽根が揺れるのを見た。
ベランダに鳥でも停まってるのかと思い近づいてみると、なんと鳥人が倒れていた。

鳥人を見るのは、子供のころに連れていかれた博物館以来だ。
羽の一つ一つ精巧な模型のそばのパネルに『絶滅した』と書かれていて悲しい気分になったのをよく覚えている。
その絶滅したはずの鳥人が、目の前にいる。
あの模型と同じ、大きな翼と脚を広げて、確かに息をしている。
思わず窓を開き、ベランダに出た。
柵に寄りかかるように倒れる鳥人の近くにに立っても、鳥人は気づかない。どうやら気絶しているようだ。
家に運び込もうとも思ったが、感染症などのリスクを考えると触る事を躊躇してしまう。(だって鳥だし)
だけどこのまま放置するのもしのびないため、軽食を作って置いておくことにした。

キッチンに立つ。
鳥が何を食べるかなんて知らないので、とりあえず家にあった肉と野菜を盛り合わせることにする。
肉を焼いている間は、ベランダの鳥人について考えていた。
鳥人はどうしてうちのベランダにいたのだろうか。
このアパートは市街地にあるし、自分の部屋は最上階でも地上階でもない。
それに、あんなにおおきい生き物が現れたのに、その音に気づかなかったのも不思議だ。
考えているうちに思考はついネガティブなほうに向かってしまう。
果てには、もしかしたらベランダの鳥人は自分の妄想で、戻ったら消えているかもしれない、なんてことまで考え出してしまう。
不安になりながら焼けた肉と余りの千切りキャベツをボウルに盛り付け、ベランダに戻った。

ベランダにはまだ鳥人がいた。まだ目覚めていないようだ。
鳥人のそばにボウルを置き、しばらくその翼に見惚れたあと、部屋に戻る。
しばらくして、バサバサと羽ばたく音が聞こえた。
ベランダを見ると、空のボウルと、数枚の白い羽根が落ちていた。

羽根は綺麗に洗浄して、部屋の壁に飾ってある。
窓から光がさすたびに暖かくきらめく。
窓からそよ風が吹くたびに優しく揺れる。
一ヶ月たってもまだ、あの鳥人について考えてしまう。

【揺れる羽根】