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逆光

スマホの中の、昔の写真ファイルを表示する。
指を右から左にスワイプしていくと、次々写真が流れていく。
色々撮ったが、とりわけ多いのは海の写真だ。
海と、彼女の写真。
ここの近所で、2人で遊びにいくといえばここだった。場所が同じだからどれも似たようなのばかりだし、ほとんどの写真は逆光して顔が暗くなってしまっているけれど。
それでも、どの写真でも、
彼女の笑顔ははっきり写っていた。
服がほぼ真っ黒な写真でも、
あの太陽のような、まぶしく、まばゆい――
ふいに外から聞こえた音に顔をあげる。
どうやらただの家の前を通る足音だったようだが、顔をあげたせいで現実が見えてしまった。
自然光だけで照らされる、誰もいない散らかった部屋。
まだ山積みの底が見える段ボール箱、そこに入れるべき荷物と整理するべき書類。
大きくため息をついた。

彼女が死んでどのくらいだろうか。

信じられないことに、カレンダーを見る限りでは一週間も経っていないらしい。
ある時突然倒れたかと思えば、すぐ緊急入院する事になった彼女。
持病の話は聞いていたが、こういう事になるのはまだずっと先だと思っていた。
自分も彼女も、まだ若かったから。
自分は時間がある日全てで彼女に会いに行った。
少しでも会う時間が大きくなるように、できるだけ彼女が寂しくないように。
でもきっと寂しかったのは自分だったのだろう。今思えば、お見舞いのたびに手も震えていたかもしれない。
怖かった、このまま永遠に離れ離れなんじゃないかって。

その日はいつもの時間より少し遅れた。少し仕事が長引いたんだ。
病院に向かう途中、電話がかかってきた。番号を確認する前から血の気が引いて、冷たい汗が額を濡らした。
その嫌な予感は当たった。

話を聞いた後、電話を切った後、そして病室についてすぐは、思ったよりも冷静でいられた。
もっと取り乱すと思ったが。自分はなんて冷たいんだと思った。
でも、冷たくなった彼女を前にすると、だんだん実感が湧いてきて、目頭が熱くなる、視界が歪む、頬を伝う。
泣いて泣いて、泣いている間のことはあまり覚えていない。

お葬式でも――と、考えたところでハッとして時計を見る。記憶を辿っている場合じゃないんだった。段ボール箱に目を戻す。
自分はこれから、彼女と2人で暮らしたこのアパートを出ていくつもりだ。
別に彼女の思い出を置いていくというわけじゃない。ただ……気持ちを晴らすには、変化が必要な気がした。
引っ越し先はそう遠くなくて、今よりもっと海が近くなる。
通りかかるたびに写真を撮るつもりだよ。
天国の君への手土産として。

……そのために、今は引っ越しの準備をしなくては!
自分を鼓舞して重い腰を上げる。
立ち上がると、窓の光に自分の影が長く伸びていた。

1/24/2026, 5:01:22 PM