部屋に幽霊が出た。同い年くらいに見える、女子高生の霊だった。
足が消えていること以外は普通の人間に見える。
ある日帰ってきたらしれっといた。
自分は悪い霊じゃない、どうか除霊しないでほしい。と必死に主張していて、無視するのも可哀想に思い、塩を握りしめた拳をおろして話を聞いてやることにした。
幽霊とは不思議と話が弾んだ。彼女は自分のことをスズと呼んでいた。
スズと私は、その日から雑談をする仲になっていった。
学校を終わらせたら、まっすぐ家へと帰る。
私は部活には所属していないし、これといって仲のいい人間の友達もいない。
いつの間にかスズと話すのが日々の一番の楽しみになっていた。親友と呼んでもいいだろう。
スズは色々なことを話してくれた。
生前の記憶はないと言っていたが、彼女はかなり博識だ。本人曰く、「無限に時間あってヒマだったからひたすら図書館で本読んでた」らしい。
それを聞いたわたしは海ふと気になったことを聞いてみた。スズは地縛霊だと思っていたが、実際はそうではないのか?
答えはこうだ。
「え、普通に移動できるし外にも出られるよ笑」
とのことなので、週末二人で出かけることにした。
近所の海、街なかの小さな公園、ピクニック、ショッピング……。
最初こそ人の目を気にしていたが、だんだん慣れてくるとどうでもよくなってくる。
私達はほんとうの、生きている友達みたいに、二人で街を歩いた。
歩き回って、疲れたら座って、おしゃべりして、何か食べたりして……。(まあスズはものを食べられないから食べたのは私だけだけど……。)思い出がいくつも増えていった。
かけがえのない親友だった。
きっと、スズもそう思ってくれているはず。
そのはずなのに。
ある日。
深夜に目が覚めると、スズがいなくなっていた。
いつも寝ている場所にも、家のどこを探してもいない。まるで、最初からいなかったみたいに。
思わず私は家を飛び出した。
家の周りを、近所を、死ぬ気で走り回る。
もちろんスズのことは心配だったが、それ以上にスズとの友情がすべて夢だったと言ってほしくなかった。
スズを見つけたのは、近所の砂浜だった。
スズと最初に出かけた場所だ。
あの時はスズが海水に怯えて大変だった。
のに、
今スズは波打ち際の先で、すねまで海水につけて海を見ながらただ立っている。
「スズ!!」
思わず大きな声で呼びかけた。
返事はない。
スズは人形のようにピクリとも動かない。
もしかしたら海水で動けなくて困ってるのかもしれない。
冷静じゃない頭でそう考えた私は、走り回ってヘトヘトの脚でスズの近くに歩み寄る。
「スズ、どうしたの?心配したんだよ」
そう言って肩に手を置く。
……?
肩に手を置くことができた。
初めてスズに触れることができた。
これまではスクリーンの映像のようにすり抜けていたのに。
「あれ……?」
困惑するうち、スズがゆっくり動き始める。
錆びたブリキのおもちゃのような、ぎこちなくてガクガクの挙動で、一歩、また一歩と歩みを進めていく。
「スズ!?だ、だめだよ、そっちは……」
私の忠告も届かない。
言葉では止められない。歩みは止まらない。
「待って!!!」
ばしゃばしゃと、水しぶきが散る。
頭の中が真っ白になる。
再び冷静になれたのは、膝まで海水に浸かった時だった。
水が重くて、海が怖くて、これ以上は進めない。
スズはまだ足首だけ浸かった状態で、ただまっすぐ、水平に歩いていく。
その後ろ姿ははどんどん小さくなっていく。
もう会えない。
ふもそんな言葉が頭によぎった。
呼びかけは悲痛な叫びに変わる。
「待って!!おねがいだから、待っ――――」
手を伸ばす。
届かない。
見えなくなる。
朝焼けで空が緑色に染まる。
残ったのは、波の音だけだった。
【行かないでと、願ったのに】
11/3/2025, 5:45:27 PM