anago.

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2/1/2024, 4:10:20 PM

やっちゃったなぁ。
近場の公園にあるブランコに乗って呟く。昼間とは違って、誰もいない公園内は少しばかり寂しい。ゆらゆら揺れるブランコはオレの気持ちを表しているかのよう。
情けない話だが、些細なことで喧嘩が始まり家出をしてしまった。いつもは言い合いにならないのに、お互い会社でのストレスや睡眠不足も相まって激しい口論になった。毎回口喧嘩で先に謝るのはオレだけど、今日は折りたくなかった。両方負けず嫌いな性格故にヒートアップしてしまい、軽く後悔している。出てけよ、と言われなかったのが幸いだろうか。未だ眉間に皺を寄せている彼に1時間くらい頭冷やしてくると伝えたから、何かあったら連絡してくると思いたい。

そうして過去の自分達に思いを馳せながら、ぼんやりと夜空を眺めていた。ふと腕時計を確認すると、1時間を大幅に過ぎていた。慌てて携帯のロックを解除するとおびただしい数の着信があった。これだけあればわかるだろうに、過去のオレはマナーモードに設定していた。通りで気付かないわけだ。メッセージもたくさんある。今どこにいるのか、悪かった、電話してくれ、だの10数件確認できた。これはオレが悪い。再度かかってきた電話に出ると焦ったようにまくし立てられる。
「...ッオイ...今どこにいんだよ。」

「...気付かなくてごめん。近場の公園にいる。」

「......今向かうから待ってろ。」

「..わかった。ありがとう。」
プツッと無機質な音を立てながら電話が終了する。出迎えようと入口付近で立っていれば、1分もしないうちに彼が到着した。向かってきた勢いできつく抱きしめられ、ほんの少し苦しい。
何も言わない彼に声をかける。
「..なあ、今さ、星が綺麗だぞ。」

「...知ってる。」

「...多分オレ達考えてること一緒だろうからさ、喧嘩になる前に散歩に行こうよ。」

「...でも、今日は俺が悪いと思う。疲れてるのわかってて口がでちまった。本当に悪いと思ってる。」

「...わかったわかった。今日のとこはオマエが悪い。それでいいよな。」

「...うん。それと散歩も行きたい。」

「.....はいはい。日中でも夜でも行きたけりゃ行くよ。」

あーでもないこーでもないと普段の会話を思い出したかのように話しながら帰った。手を繋ぎながら、な。



その後、記念日とかを気にしないタイプの人間である彼が嬉しそうに”‬星空デート記念‪”‬と日記帳に書き込んだのを見たのはオレだけの秘密だ。

1/16/2024, 7:05:26 AM

人は死んだら終わり。なんて誰が言い出したのだろうか。俗に言う転生漫画なんてものはフィクションでしかない、と
彼は唐突に言った。
「おいおい、それ俺に言ってるよな?」
アプリで転生漫画を読んでいた俺は彼の視線にようやく気付く。
「ん?そうだけど。俺に構ってくれないのが悪いだろ。」
子供じみた返答をされる。いい大人が何やってんだか。
「...はあ。無料分だけ読むから後は好きにしてくれ。」
「.....まじで!?やり~。」
適当に返事をすれば、目をキラキラさせながらリビングを飛び跳ねている。深夜に差し掛かっているため、これから行われる事に喜んでいるだけである。
...そうだな。別に彼との情交は嫌いじゃない。
人間という皮を脱ぎ捨て、獣に成り果てるその姿は美しいとさえ思う。

ふと目が覚めた。いつもより眠りが深い彼の頬に手を伸ばす。いつもより汗をかいたからか、肌の表面がザラついている。最中、言われたことが気がかりでずっと気になっていたからだ。生まれ変わっても一緒にいてくれ、なんて今言う事じゃないだろと思った反面、彼らしいというかなんというか。
いつか死ぬ時まで俺たちはこのままの関係でずっといたいから、そうっと近付いて囁く。

来世でも、一緒に。

1/9/2024, 6:07:11 AM

起きて。そう願う声も届かず、色とりどりの花に囲まれている彼を見る。眠りに就いた姿は本物の白雪姫みたいだ。なあ、俺たちどこで出会ったんだっけ。
「ねえ、この後空いてる?」
と、お気に入りのカフェで勉強していた俺に男か女かわからない人が話しかけてきた。声的に男か。
「あっ!僕は怪しい者じゃないよ。大分前から気になってて、ようやく君を見つけて誘ったんだ。」
あまりの胡散臭さに顔を顰めていたらしい。慌てて弁明を始める彼に、何故だか面白くなって興味を持ってしまった。
だからOKを出した。
「...1時間後ならいいですよ。」
頷かれると思っていなかった彼は真剣な表情から一変して、溢れんばかりの笑顔になった。
「本当か!?ありがとう!....ところで、その...隣に座ってもいいかな...。」
幸いにも店内に居た人は少なかったが、注目の的になっている事は確かだ。彼は恥ずかしそうに顔を真っ赤にしながら言う。俺はもう耐えられなかった。突然テーブルに突っ伏して肩を震わす俺に、隣に座った彼が心配したように覗き込んでくる。予想と違う俺の表情を見て、そんなに笑う事ないんじゃないかと文句をつけ始めた。言葉1つでコロコロと変わる表情がかわいいな、と不覚にも思ってしまった。この日以外にもたくさんの場所に出かける事になるのだが、それはまた後にしよう。胸のあたりが暖かいもので溢れて、その日から俺の世界は色付き始めたんだ。
......いつの間にかうたた寝をしていたようだ。時計を確認すると別れの時間が近付いていた。彼のそばに行き、用意していた花を顔の近くに置く。僕が死んだ時に絶対置いてよ、と言われてしまったためだ。この小さくて丸いポンポンみたいな花の名前は知らないが、きっと何かしらの意味があると思う。彼はそういう人だった。国外だけじゃなく海外にも旅行に出かけた時の思い出は、とうの昔に思い出せなくなっている。先に逝くのがあんたでよかった。俺が先だと大粒の涙を必死に堪えているのが目に浮かんでしまう。だからあんたが先で本当に良かった。あの頃に戻ったかのように囁く。

来世でも、また逢いましょうね。

1/8/2024, 2:14:37 AM

「春が来たら僕は死ぬ。」
しんしんと雪が降る中、一緒に雪だるまを作っていたお兄さんは言う。死ぬという割に穏やかな顔をして言うものだからよくわからなかった。
「...もう会えないってこと?」
いやだなぁ。誰と一緒に雪だるまを作ればいいのかな。ひとりじゃあつまらないし、面白くないのに。
「うーん。君がその気になればいつでも会えるよ。」
「本当?お別れじゃないならよかった!ねえ、もっと雪だるま作ろうよ!」
あはは、わかったよという半分呆れの表情を浮かべるお兄さんを横目に雪だるま作りを再開させる。自分の小さい手ではおにぎりくらいの物で精一杯だったが、お兄さんは2倍近くの雪だるまを作っていてとてもびっくりした。
そうこうしているうちに夕方に差し掛かっていた。17時の鐘が鳴って、よし帰ろうと思ったのに遊んでいたお兄さんがいない。またね、が言いたかったな。探そうとしたけどママが迎えに来たから仕方なく家に帰った。次の日もその次の日も探しに出かけた。でも見つからなかった。諦めて違うことをするうちに段々とお兄さんの事も忘れかけていた。
あれから、成人した私は実家を出てひとり暮らしを始めた。5年前くらいに良き出会いがあって、結婚・出産が続いた。子育てが落ち着いてから実家に帰り、子育てもしつつ惰眠を貪る日々が続いた。
とある日の午後。昨日から続く吹雪がようやく止んで、よく遊んだ公園に歩けるようになった娘を連れていった。雪だるまを楽しそうに作る娘を見ながら、早朝見た夢に思いを馳せる。懐かしいなぁ、また会えるだろうか。
ふと、目の前に誰か立っていることに気付いた。慌てて娘を抱き寄せて見上げると、姿形が変わらない人が立っていた。
「あなた、だあれ?」
娘がそう聞く。
「僕は君のお母さんの友達さ。」
彼は娘に向けていた視線を私へと変える。
「ね、また会えるって言ったでしょ?」



じゃっくふろすと?はがいこくのようせいさんだし...。あなたはーーーって名前でどう?気に入ってくれるとうれしいな。

1/7/2024, 6:22:49 AM

水死体。偶然、あるいは必然というか。砂浜に打ち上がった親友をやっとの思いで引き寄せる。悲しみより怒りが込み合ってくる。なあ、
3年前、何気なく見ていたニュースに親友の名前が載った。
【今をときめくイケメン俳優、2歳下の女優と熱愛か】
バカバカしい。そもそもあいつは中学生の時から告白を断り続けているやつだ。いつまでも俺に構わないで彼女作れと急かしても、聞いているのか聞いていないのかわからない態度で返事をする。大学卒業と同時にひとり暮らしを始めたが、何故かやつも入り浸りそのまま住み着いた。1LDKに男2人は狭すぎる。小言を言おうにもあいつの作る料理は美味いから文句が言えない。
気付けば20代後半に差し掛かっていた。ようやく給料が安定的になり、暮らしも随分豊かになった。あいつとはたまに電話をして軽口を叩く。いつもと違う様子に違和感を覚えたが、深堀はしなかった。同時に俺の家に上がることが少なくなった。
だから、前日のニュースを見て目を疑ったんだ。
【ーーーさんの遺書発見。現在捜索中。】
は?と思った。嘘だよな、とも。慌ててあいつの電話にかける。1コール、2コール、3コール。最後の1回でようやく繋がった。
海の音が聞こえる。先に沈黙を破ったのはあいつだった。
【...怒ってる?】
変わらない声だ。
【...今どこにいんだよ】
【...僕は君を置いて逝くつもりさ。】
もう手遅れなのか。
【...先に約束破るなって言ったのはお前だろ。】
【...覚えてたんだね。でも、君を縛り付けておくのはもうやめようと思って。】
続けて親友は言った。
【...僕の恩師がさ、死んだんだよ。他にも僕に関わった人が全員ね。それで理由になるだろ?】
あんまりだ。偶然だとしても惨い。
【だから...死ぬって?俺の運命は俺が決める。どう足掻いても無駄だったってことかよ!】
まだ...死なないでほしい。話し足りないんだ。
【そうだよ。それしかないんだ。...ところでさ!小学生の時遊んだ海覚えてる?迎えにきてほしいんだ。.....よく行った洞窟にスマホと靴を置いておくよ。最期のお願いだ。叶えてほしい。】
話はおわりだという風に話を逸らされる。そして親友の頼みに弱い俺は叶えざるを得なくなる。本当に...酷いやつだ。
【...こんな時にまで頼りにするのはひでぇな。】
【...あはは、悪い。君にしか頼めないんだ。.......じゃあ。】
俺が言う前に切られる。俺にはもう、止められない。
早朝、砂浜に打ち上がった親友を発見する。洞窟にスマホと靴を回収して親友の傍に戻る。持参したタオルで砂まみれの顔を拭いとる。砂にまみれていても綺麗な顔つきは変わりなくて、少しばかり嫉妬する。冷たくなった身体に体温を分けるように抱き寄せる。
そして、生前できなかった、口付けを交わした。


あなたは、すこやかなるときも、やめるときも、喜びの時も、悲しみの時も、一緒に生きることを、誓ってくれる?
うん、もちろんだよ。

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