anago.

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起きて。そう願う声も届かず、色とりどりの花に囲まれている彼を見る。眠りに就いた姿は本物の白雪姫みたいだ。なあ、俺たちどこで出会ったんだっけ。
「ねえ、この後空いてる?」
と、お気に入りのカフェで勉強していた俺に男か女かわからない人が話しかけてきた。声的に男か。
「あっ!僕は怪しい者じゃないよ。大分前から気になってて、ようやく君を見つけて誘ったんだ。」
あまりの胡散臭さに顔を顰めていたらしい。慌てて弁明を始める彼に、何故だか面白くなって興味を持ってしまった。
だからOKを出した。
「...1時間後ならいいですよ。」
頷かれると思っていなかった彼は真剣な表情から一変して、溢れんばかりの笑顔になった。
「本当か!?ありがとう!....ところで、その...隣に座ってもいいかな...。」
幸いにも店内に居た人は少なかったが、注目の的になっている事は確かだ。彼は恥ずかしそうに顔を真っ赤にしながら言う。俺はもう耐えられなかった。突然テーブルに突っ伏して肩を震わす俺に、隣に座った彼が心配したように覗き込んでくる。予想と違う俺の表情を見て、そんなに笑う事ないんじゃないかと文句をつけ始めた。言葉1つでコロコロと変わる表情がかわいいな、と不覚にも思ってしまった。この日以外にもたくさんの場所に出かける事になるのだが、それはまた後にしよう。胸のあたりが暖かいもので溢れて、その日から俺の世界は色付き始めたんだ。
......いつの間にかうたた寝をしていたようだ。時計を確認すると別れの時間が近付いていた。彼のそばに行き、用意していた花を顔の近くに置く。僕が死んだ時に絶対置いてよ、と言われてしまったためだ。この小さくて丸いポンポンみたいな花の名前は知らないが、きっと何かしらの意味があると思う。彼はそういう人だった。国外だけじゃなく海外にも旅行に出かけた時の思い出は、とうの昔に思い出せなくなっている。先に逝くのがあんたでよかった。俺が先だと大粒の涙を必死に堪えているのが目に浮かんでしまう。だからあんたが先で本当に良かった。あの頃に戻ったかのように囁く。

来世でも、また逢いましょうね。

1/9/2024, 6:07:11 AM