anago.

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8/4/2024, 1:57:45 AM

目が覚めるまで、傍にいてほしい。
あわよくば、僕を抱きしめて、もう二度と離さないと誓って。
また一緒に出掛けたい。
歩けるようになったら、馬と触れ合いたい。
近くまで行った時に、体調崩しちゃったからリベンジね。
一緒に乗ってくれるかな?
ふふ、話したいことが沢山あるんだ。
皮肉にも、この口は動いてくれやしない。

生まれた時から、人生が定められていた。
長く生きれないことがわかりきっていた。
君に出会うまでは。

白色のキャンバスに紫色を勢いよく塗り
「どうだ、汚してやったぞ。」
と不敵に笑う顔があまりにも眩しくて。
その瞬間に、心が動いた気がしたんだ。

気付けば、白色のキャンバスではなく、他の色が混じった美しいキャンバスになっていた。
振り返りはしない。
どこにいくにしても、このキャンバスだけは持っていく。

さようなら、愛しい人。

それでも、僕は君の中で生き続けるよ。

7/27/2024, 3:05:36 AM

太陽みたいな人だった。いつも校内を走り回って先生に怒られるような明るくて眩しい人。クラスの中心になって皆を引っ張っていく存在。
余命が決まっていた僕にとって関わることは一生ないと思っていた。ジャングルジムから落ちて骨折した、という人気者の彼と同室になって毎日が楽しかった。自分がすることに興味を示してくれたり、知らない世界を教えてくれた。

それから、骨折が治ってからも度々訪問があった。日ごとにパチパチと弾けるような火花から、太陽のようにキラキラと、周りと照らす存在に。そんな姿がいっとう好きだった。

神様はいつも残酷だ。

いつもの簡単な手術が終わって、自分の部屋に運ばれる。

慌ただしく走る音と、声。ここまでの焦りようは事故で大怪我を起こして、生存が難しいと言われる程のことだ。
すれ違いざまに顔が見えた。
血まみれの顔が。僕がよく知っている顔が。


その後、一命を取り留めたがドナーが必要だと風の噂で聞いた。ほかの先生がヒソヒソと話をしている場所に行ってみたり、それとなく情報を集める。いつもは不自由な体が、ここまで動けるのかが不思議だった。....彼のためのドナー登録をしておいて良かった。

いつもの身体検査が終わり、なにか要望があればという所で伝えてみる。
「ねえ先生、僕長くないですよね。」
小さな頃からの主治医だ。
「.....君たちの関係を長くみていたからこそ、君が何を言おうとしていることもわかっている。...君の意思は変わらない?」
肯定の代わりにニッコリと笑う。あなたが本物の親だったら良かったのに。
「...はあ、わかったよ。担当に伝えておく。」
先生が僕の病室から出ていく。自分の手すらもぼやけていて、あまり長くないことは悟っていた。

それならば。
他でもない、君のためになるならば。この命、差し出すことも厭わない。


眠る瞬間、カサついた大きな手が頭を撫でてくれた、気がした。


誰かから呼ばれたような気がして、深い眠りから覚める。体が鉛のように重たくて動かない。
....ここは、どこだろうか。
「...起きたね。」
見覚えのある先生が俺の顔を覗き込んでくる。目元が微かに赤い。情報がまとまらない俺を他所に、先生はストレッチャーを使って俺の体をどこかに連れていくようだ。
起きてくれなかったら、アイツの顔が立てられないからな...と移動中に呟く。

そこは冷房が付いているのか肌寒いを通り越して、刺すような痛みを感じるほど。
いくつかの部屋を通り過ぎたあとに、目的の部屋についた。

冷えた部屋の真ん中に安らかな顔で目を閉じているアイツがいた。
どうして、こんな場所にいるんだ。
「...本来は2~3時間程度までだが.....今回はトクベツだ。私のわがままで面会できるように、と院長に頭を下げて頼み込んだ。...1日で目が覚めたのは僥倖だな。」

ストレッチャーに乗せられたまま隣に寄せられる。痛みで動かない体に鞭を打って、なんとか顔をアイツの方に向ける。
...あーあ。いつ見ても綺麗な顔してやがる。
腕はさすがに動かなかったから、先生に持ち上げてもらった。

ずっと、手を繋ぎたかった。
夢でもいいから、と願うほどに。

握った手からは何も伝わらないが、ここに、一緒に生きていた証があった。
折り紙で蛙足の鶴をやたらと見せてきたり、体調が悪い日でも毛糸を編んでいて、それが自分のためのマフラーだと知らずにモヤモヤしていた頃もあった。

俺を見つめる目が、部屋に差し込む光でキラキラとしている。眩しくて少し、顔を見れない事が何回か。

余命だとしても、アンタに出会えて、くだらない事で笑いあって、その上生命をもらった。いまでも貰った鶴は机の上に置いてあるし、マフラーは冬になると肌身離さず付けている。

世界で1番幸せだった。出会えて良かった。
神様、どうか声を聞かせて。
叶うなら、二度と離れないように、もう一度結んで欲しいんだ。


僕の太陽。
あなたがそこにいてくれたなら、それでいいんだ。

俺の淡月。
出会えたことに感謝を。




5/11/2024, 4:20:50 AM

元々、ただの狐だった。
他の狐と毛並みが異なるため産みの親からも見捨てられ、周りと馴染めず1人で動くことが多かった。日々やせ細っていく様はあまりにも惨めだったろう。まるで狐とは似ても似つかない俺を横目に、周りの連中は群れで狩った獲物を食い荒らす。この世は弱肉強食の世界だ。弱いヤツが死ぬ。ただそれだけのことだ。

死ぬまで残り数時間。ふと、物音がして目を開けた。ねぐらにしている場所からそう遠くない。微かな呻き声と肉の臭いがする。

あぁ、久しぶりの獲物だ。

そこからは記憶がない。意識を取り戻した時には腹の底にあった空腹感は消え、代わりに"もう一度味わいたい"という渇望するほどの欲が残された。
血の匂いを嗅ぎつけてのこのことやってきた1匹を"人型のまま"殺す。その日から俺はよくわからないナニカになった。

他の同胞は全て喰うた。人間から討伐対象にされようが、山にいる奴らから襲われようが、全て返り討ちにしてやった。食料に困ることがなかったし俺の姿を見ただけで襲ってくるヤツも居なくなった。
そして、良いこともあった。友達が出来たのだ。そやつは俺が狐の姿になっていても人の姿になっていても態度が変わらずにいた。
『僕たちはずーっと一緒だよ!』
その言葉が胸に突き刺さったまま。俺はあいつに呪いの言葉をかけられた。

あくる日、社に友達を連れてくる!と約束していたのに、どうしてか1人だった。駆け寄って顔を覗くとソワソワと落ち着かない様子で今にも涙がこぼれ落ちそうだ。
『....ごめんね。』
ふいに呟かれた言葉に嫌な予感がして咄嗟に距離をとる。左腕を撃たれている。もう使い物にならない。撃った方角に向かっていくが、2発、3発撃たれる。血が出るのもかまわず銃を持った老いぼれに致命傷を負わせる。
限界を迎え、人型に戻れなくなった。老いぼれと同時に倒れ込み、鳥居の後ろからガキが泣きながら走ってきた。介抱しているガキに老いぼれが耳打ちをし、腰につけていた鉈を渡した。ガキが受け取った直後に死んだらしい。目を閉じてピクリとも動かなくなった。静かに横たえて、ようやく決心がついたのか俺の元に寄ってくる。鉈を振り上げたことで首を切られるとわかった。苦しいのは、ごめんだ。

2度目の死。これでお別れだと思ったが、実体がないだけで意識は残っているらしい。これも呪いの1部だろうか。
体が死んだあと、呪いは祓わねばならぬと村の法師から告げられていたのを見た。二度と悪さをしないように首と胴体を分けて石像にし、山の奥深い場所に封印された。だがわたしの存在は風化されて、知る人も死んで行った。

また陽の光を浴びて、かつての友人とそっくりな顔を持つ子供に出会うなんて思いもしなかった。




と、わたしの昔話はここいらで終わりにしよう。愛し子が起きてしまう。昨夜は泣かせすぎたから少しでも休ませたいのが本心だ。
そばに寄ってきたモンシロチョウと軽く遊んでやる。真っ白で何にも染まらない、無垢な瞳。掌に止まり、羽休めしているところを握り潰す。


ふふ、かわいそうになァ。

5/6/2024, 2:36:13 AM

「君と出逢って毎日が楽しいんだ。...だから、仕方ないだろう?」



学校に行く、神社でお参りしてお狐様のお掃除をする、それから帰宅。これが俺のルーティーン。家族には1人で神社に行っては行けないと散々言われているが無視している。行ってないよと嘘をつき続けているが、未だバレている気配がない。案外ちょろいもんだ。
その神社を見つけたのは....カブトムシを探しに、小さな山に入ってしまった夏の頃だ。1時間走り回って探したが、1匹も見つからず落ち込んでいたと思う。そんな時、ふいにシャラン、という鈴の音が聞こえたんだ。突然のことに驚いて振り向くと、豪華とは言えないが立派な神社が建っていたんだ。あまりにも見事だから声が出なかった。

でも、どうして近くにあるのに俺は気付かなかった?

違和感はあれど、まあいいかと自分を納得させて吸い寄せられるように歩いた。社の中は見えなくて人がいる気配がなかったけど、竹箒が置いてあったから管理人はいるのだろう。
とりあえずここまできたからには、と5円玉を入れ願う。
「カブトムシが見つかりますように!」
何故かお賽銭箱の側に大きいサイズのカブトムシがいたから神様っていたんだ!と喜んでしまった。
願い事が叶ったお礼に少しでもお返しをしようと考えて、頭が落ちていたお狐様の銅像をポケットに入っていた大きめのボンドで接着し直してみることにした。小学生の工作魂を舐めるなよ。
やりきった!....体感的に1~2時間くらい経ったと思う。昼から入りっぱなしだから、もう夕方に差し掛かっている。明日、頭が取れなければ完成だ。首が綺麗にスパンと切られていたような傷跡でよかった。くっつくのに時間がかかって頭を押さえつけるのにとても疲れてしまった。明日もまた来るね、とお狐様に挨拶をしてその日は泥のように眠った。

次の日も向かってみたら、お狐様をようく眺めていた人?がいた。管理人さんかな?と思い傍に駆け寄る。
「....ごめんなさい!勝手に直しちゃいました!」
管理人らしき人はゆっくり振り向いたが叱られると思い顔を見ることができずにいた。
『きみ、これを直したの?凄いねえ、助かったよ!どうにも戻せなくてさァ。』
返ってきた返事が予想外すぎて唖然としてしまった。咄嗟に顔を上げると、朗らかな顔で糸目の男性だった。
「え、えっと俺が、直しました。」
『そうかいそうかい!子供は遊ぶのが仕事だからなァ!』
はっはっはっと高らかに笑う姿を見て、気が抜けて座り込んでしまった。
「...ハァーよかった。怒られたらどうしようって思ってた...。」
『そんなことでわざわざ怒ったりしない。わたしは非力で何も出来なくてな。本当に助かったよ。』
「...うん。でも勝手に、その、あなたの許可無しに直しちゃったことに謝ってる。」
『律儀だなァ。わたしはここの管理人ではない。ここを守っていた奴から譲り受けただけ。』
「...管理人じゃないの!?じゃああのカブトムシは?お狐様がどうして切られていたかわかる?」
『あーあーあー、いっぺんに話すんじゃない。1つずつ話してやるからそこの石段に座れ。』

お昼ご飯を持ってきていたため、食べながら会話を楽しんだ。名前を教えられないというので勝手に愛称をつけ、(イトさん。糸目だったから)夕方に差し掛かる頃までずっとおしゃべりをしていた。だから気が緩んで家族にも秘密にしていたことを話すなんてよっぽど心を許したんだなと思った。
それから俺はイトさんと定期的に会う関係になった。大抵俺が話し手になってイトさんが聞き役になっていることが多かったけど。

「...ねえイトさん。俺、いじめられてるんだけどどうしたらいいかな。家族にも言えなくて。」
『...そうか。教師に相談は?』
「....気のせいだって、取り合ってもくれない。」
少し考える素振りをみせたあとでイトさんは、
『......ならわたしができることはない。』
と、少しだけ落ち込んでいた。
『何かできることかァ。あっこで祈るしか救いはないかもねえ。』
イトさんが指さしたのは、普段は障子で閉じられていた社の中だった。
イトさんも行こって誘ったのに『2人じゃ意味がねえよ。』
断られてしまった。恐る恐る仏壇に近付いて手を合わせる。
(いじめがやみますように。)
社から出るとあたりが暗くなってきていたためすぐに帰る準備をする。明日から新学期が始まる。
飽きずにお狐様を見ていたイトさんに帰る次第を伝えるとすごく小さな声で呟かれる。こちらを見ずに言ったため聞こえない。聞き返そうと思ったが、思っていた以上に暮れるのが早く、このままでは両親に叱られてしまう。またね!とイトさんの返事を待たずに帰宅した。

その日から何かが変だった。いじめがなくなったのは良しとするが、いじめっ子達が俺をみて強ばる表情をするようになった。日をまたいでいく事に1人、また1人と消えていく。居なくなっていることに気付いているのはいじめっ子と俺だけだ。クラスメイトの大半は居ないことが普通だと言うような、まるで、最初からいないみたいに。

ついに担任といじめっ子が全ていなくなった日、代わりの先生がやってきて授業を始めた時に教室を飛び出していた。
無我夢中で社までの階段を登る。いつになく全速力で走ったため、イトさんの姿がぼやけている。

「.....イトさん!!」
俺の呼びかけに気付いたイトさんがゆっくりと振り向いた。

そこには、

『怪異に名前を付けてはいけないと、お前のジジイに教わらなかったか?』

うっそりと笑う知らない人がいた








【岩手県〇市の山中で男の子が行方不明。捜索続く。】
次のニュースです。昨晩、山中の近くに住むご夫婦から10歳の男の子が丸1日帰ってきていないと通報がありました。両親にはカブトムシを捕まえに行くと書き置きがあったきり家には帰らなかった模様です。通っていた小学校では男の子と関わりのあった担任と複数の生徒が消えているといった事件が多発しています。これにより、警察は大規模な捜査を続けています。
次のニュースです。

4/1/2024, 1:09:53 PM

嘘なんかつかなければ、そう後悔したところであいつは戻らない。

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