あいつの一番星を盗んだ。
我が人生に一生の悔いなし!
変な夢を見た。
新しい履歴書の紙が増え続けるとか、ニキビの角栓を引っ張ったら定規くらいの長さになったとかの類ではない。もっと穏やかで、ここが現実だと勘違いしてしまうくらいには変な夢だった。
今までの夢とは違って人?が出てきたからかもしれない。遠くで自身と親しげに話している彼は知り合いじゃない。でも、名前を知っている。知っているし、名前を沢山呼んだ記憶がある。わかるはずなのにわからないことが嫌いだ。
2日目。夢の中にいたのは日本家屋のような場所だった。現在も残っている祖母の家だろうか。縁側に座っている自分たちのそばに池があることが何よりの証拠だと思う。
ここで明晰夢だと気付いた。初めての体験に興奮を隠しきれず叫ぶと、隣にいた人?がギョッとした目で見てきたからすぐに謝った。
3日目。さすがに慣れた。夢は夢でも食べ物を食べることが出来るらしい。が、休憩のためにと出された菓子に手をつけることが出来なかった。黄泉竈食を恐れていたし、何より、自分を見る目が異様でとてもじゃないが食べる気にならなかった。
4日目。今度は夜だった。またも縁側に腰掛けていた。
カチャ、と音がして隣を見ると、連日会っていた彼だった。音の発生源は彼が持ってきた徳利と御猪口らしい。おぼんにのせて来ればと言ったが、否、これでいい。との事。よく分からない人だ。
おもむろに差し出された御猪口を貰う。一切の濁りがない酒に映る月の綺麗なこと。まったくもって羨ましい。
酒を口にする。現実世界で起きられなくなったことがわかっていたからだ。会社では存在を無視される、近所で不審者が現れた、1日の起床時間が少ないことに気付いた時。
どれも一貫性は無いが、自身のお迎えに来ていることだけは理解してしまった。
そのお迎え役が彼だろう。
随分と遠回りなアプローチだ。
まあるく、やさあしく、ていねいに。
緩急をつけることで、目の前にいる子はたちまちかわいい姿になっていく。
仕上げにギュッと包み込んであげれば、蕩けた姿の出来上がり。
これを自分だけが知っているのはなんと贅沢だろうか。
皆は知らない。知るはずもない姿を見ることができるのは、いつだって興奮する。
....大福のことだよ?
そこは何も無かった。
「ねえ、どこにいくの?」
己の手を引き、歩みを進める人物に問う。痛くはない、けれど離す気は無い様子に疑問が浮かんだ。首を精一杯あげても顔を見ることができない。
それほどまでに前を歩く男の背は高かった。
【...ここではない場所だ。】
いくら話しかけてもうんともすんともしない男が初めて発言する。それも振り返って、だ。顔はよくわからなかった。
黒く塗りつぶされているようだ。
振り返った時に手は離されていて、自由になっている。軽く握ったり離したりを数回続ける。自分のものではないみたいだ。
その光景を眺めていた男がおもむろに片膝をつくと、ようやく目線が揃う。両者ともに見つめ合う。
なぜか吸い寄せられるように側にいき、男に向かって腕を伸ばす。
男からのぎこちない抱擁を、そっけない態度を、冷たく聞こえる言葉遣いを。
..........知っている。
そうだ、オレはこの人を忘れたくないんだった。
思い出した記憶に胸が震える。思わず抱きしめる力を強めてしまった。だって、この人はオレの。
「....オレ、あんたがいないとさみしいんだ。」
【.......そうか。】
「.........ずっと、ずっと会いたかったの。」
【...そうだよな。】
「だから、ここにきたの。」
ここに、じゃまものはいないから。と続けて言った言葉に、男がため息をひとつこぼした。涙声になったからだろう。
大きな手でゆっくりと背を撫でられる。この大きな手が1等好きだった。ほかの何よりも。
落ち着いた頃合いに撫でるのをとめて、再度視線を交わす。お互いの額を合わせる。この行為に意味は無いけれど、大切な記憶が覚えている。
【....お前は。ここがどういう場所かを知っている。そうだろう?】
ああ、そうだとも。閉ざしていた瞼が持ち上がり、己の意識が浮上した事を確認する。
とても懐かしい夢を見た。心底から望まなければ見ることが出来ないというのは本当だったらしい。
まあ、もう叶うことがないけれど。
先程、最後の占星術師を看取った所だった。こちらを人目見るだけで顔色が悪くなったのが面白かった。
老婆が告げたのは、こうだ。
心底から願えば叶いましょう。全てが貴方様の言いなりでしょう。叶いましょう。全てが貴方様の望む結果となりましょう。叶いましょう。星々は貴方様のご気分を損なったりは致しません。全て叶いましょう。 ..........
最後の方はよくわからない。ぶつぶつ言っている最中に死んでしまったから仕方ないのだ。
意識が浮上する前に男が呟いた事を考えてみる。
口の動きを学んでいてよかった。
...?
なんだ、アンタもだったんだ。
そうして、誰もいない世界で、笑った。
時間が止まったところでアンタは俺を救えるか?
って感じの文脈で行くと必ず死ネタ直行になってしまうのでどうにかしてハピハピにしたい所存
毎度毎度こんなので申し訳ない