anago.

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水死体。偶然、あるいは必然というか。砂浜に打ち上がった親友をやっとの思いで引き寄せる。悲しみより怒りが込み合ってくる。なあ、
3年前、何気なく見ていたニュースに親友の名前が載った。
【今をときめくイケメン俳優、2歳下の女優と熱愛か】
バカバカしい。そもそもあいつは中学生の時から告白を断り続けているやつだ。いつまでも俺に構わないで彼女作れと急かしても、聞いているのか聞いていないのかわからない態度で返事をする。大学卒業と同時にひとり暮らしを始めたが、何故かやつも入り浸りそのまま住み着いた。1LDKに男2人は狭すぎる。小言を言おうにもあいつの作る料理は美味いから文句が言えない。
気付けば20代後半に差し掛かっていた。ようやく給料が安定的になり、暮らしも随分豊かになった。あいつとはたまに電話をして軽口を叩く。いつもと違う様子に違和感を覚えたが、深堀はしなかった。同時に俺の家に上がることが少なくなった。
だから、前日のニュースを見て目を疑ったんだ。
【ーーーさんの遺書発見。現在捜索中。】
は?と思った。嘘だよな、とも。慌ててあいつの電話にかける。1コール、2コール、3コール。最後の1回でようやく繋がった。
海の音が聞こえる。先に沈黙を破ったのはあいつだった。
【...怒ってる?】
変わらない声だ。
【...今どこにいんだよ】
【...僕は君を置いて逝くつもりさ。】
もう手遅れなのか。
【...先に約束破るなって言ったのはお前だろ。】
【...覚えてたんだね。でも、君を縛り付けておくのはもうやめようと思って。】
続けて親友は言った。
【...僕の恩師がさ、死んだんだよ。他にも僕に関わった人が全員ね。それで理由になるだろ?】
あんまりだ。偶然だとしても惨い。
【だから...死ぬって?俺の運命は俺が決める。どう足掻いても無駄だったってことかよ!】
まだ...死なないでほしい。話し足りないんだ。
【そうだよ。それしかないんだ。...ところでさ!小学生の時遊んだ海覚えてる?迎えにきてほしいんだ。.....よく行った洞窟にスマホと靴を置いておくよ。最期のお願いだ。叶えてほしい。】
話はおわりだという風に話を逸らされる。そして親友の頼みに弱い俺は叶えざるを得なくなる。本当に...酷いやつだ。
【...こんな時にまで頼りにするのはひでぇな。】
【...あはは、悪い。君にしか頼めないんだ。.......じゃあ。】
俺が言う前に切られる。俺にはもう、止められない。
早朝、砂浜に打ち上がった親友を発見する。洞窟にスマホと靴を回収して親友の傍に戻る。持参したタオルで砂まみれの顔を拭いとる。砂にまみれていても綺麗な顔つきは変わりなくて、少しばかり嫉妬する。冷たくなった身体に体温を分けるように抱き寄せる。
そして、生前できなかった、口付けを交わした。


あなたは、すこやかなるときも、やめるときも、喜びの時も、悲しみの時も、一緒に生きることを、誓ってくれる?
うん、もちろんだよ。

1/7/2024, 6:22:49 AM