#14「砂時計」
最後のひと粒が、落ちてしまった。
上には何も残っていないけど、代わりに
その分だけ、下に山積している。
急に関係が逆転して、
まるで、全部を奪われたみたいに。
下に積もっている砂は、
もともと上にあったんだよ。
奪われた分は、ちゃんと返してあげなきゃ。
さぁ、逆さまにして、もう一回。
お題:逆さま
#13「幼少期の」
静かに微睡む視界に、ある風景が描かれる。
それは、忘れたいのに忘れられない、幼少期の自分だった。思い出すだけで苦しい。苦しい。息が詰まる。
脳裏に焼き付くように刻まれたその記憶は、実の親から浴びせられる罵声とともに。
今でも、夜もまともに眠れぬほどに、僕にはその過去がただただ恐ろしいのだ。
お題:眠れないほど
#12「夢か、現実か。」
近頃、「夢」と「現実」の境が判らなくなっている。
一枚の薄切りの食パンとコンビニのサラダを水で流し込んだ今朝のことは確かに現実だが、あの人と話したのはどうだろうか。確かに何か話した覚えがあるが、それは本当は夢だった、なんて気もしないでいる。
程遠い理想を「夢」として唱えている内に、あの時の夢を叶えねばと必死になっている内に、忘れたい現実に目を伏せて、あれは夢だったのだと片付ける内に。その境目が朧気に薄れていって、気づいた頃にはもう見失ってしまっていたのだった。
これを書いている今ですら、夢か、現実か。その分別が危うい。
お題:夢と現実
#11「嫌いだ」
僕は、君が嫌いだ。
だって、酷いじゃないか。さよならすらも言わずに、自分だけ先に往くなんて。
なぁ、僕だけ残してなんて、酷いよ。
君なんか、嫌い、だ…
お題:さよならは言わないで
#10「光と海底」
深い闇の中に一本の光が差し込んだ。
薄く息を吹かして、気泡がその筋に沿って昇って征く。
上も下もわからないから、どうしようもない。
ただ、身体が海底に着くのを待っている──。
今、その光の示す方へ泳げば、救われるだろうか。
あと少しでも藻搔けば、報われるだろうか。
海面を抜けたとき、そこには誰が居るのだろうか、何が見えるのだろうか。
そこに、本当に光はあるのだろうか。
お題:光と闇の狭間で