.大好きな君に
君は確か、赤いチューリップが好きだったよね。
王道すぎない?と聞いたら、君は怒るだろうけど。
一緒にお花畑に行った時、何枚撮るのかって突っ込んでしまうくらい写真を撮っていたのを今でも覚えている。LINEの背景もチューリップにしたりして、また来年ここに行こうねと笑って言ってくれた。正直、俺は自分から何かを提案できないから引っ張ってくれる君に憧れていたんだ。
チューリップにはいろんな色がある。桃色、黄色、橙色、紫色、赤色、白色……。その中だったら、俺は紫色が綺麗だと思った。毒々しいという印象よりも先に、気品を感じたからだ。
もし来年も隣に居たいと願ってくれていたのなら、もう一度、君と花畑が見に行きたいな。
「そういえば、お前は専門に行くんだっけ」
お昼休み、いつもふざけてばかりの友達が急に真剣な顔をして話し始めるものだから、明日は槍でも落ちてくるのかと思った。
「そうだよ。お前は大学だっけ?しかも都内」
「そうそう。上京して一人暮らしすんだ」
へぇ、と気のない返事を返す。俺らは昔から田んぼばかりの田舎の学校に通っていた。昔も今も虫が多いとかコンビニやゲーセンが近くにないと愚痴を吐いていたが今ではすっかりこの街の匂いが好きで、結局家から近い専門学校に通うことにしたが友達はいつも「都会に行きたい」と煩かったから、納得はしていた。
「一人暮らしとか絶対向いてないよ」
「うるさいな」
本当のことなのに。気がついたら随分遠くに行ってしまった。
もう1ヶ月も経たないうちに東京の方に行ってしまうと聞いたのは、今から1年も前のことなのに。その時はまだ試験の結果が決まっていなかったから行く"かも"だったが。
「そっか。上京しちゃうんだなあ」
声に出してみるとあまりにも弱々しくて、おかしくて笑ってしまう。一緒に弁当を食べる日はいつまで続くのか。自炊の連絡してくれるのはいつまで続けてくれるのか。
そもそも、連絡してくれるのかすら分からないのに。
季節はすっかり冬。吸い込む空気が冷たくて、ニットを着ても寒い。
寒いのは嫌いだ。でもお前の近くにいると心は温かくなるんだ。
このまま、春なんて来ないでいいのに。
「時を止めて」
子供の頃、夏休みにカブトムシを捕まえることが好きだった。
今思い返すと捕まえて面倒を見るというより、友達と騒ぎながらどちらの方が大きいものを捕まえられるか競うことがすきだったんだと思う。今はもうあんな熱い日に虫を捕まえるなんてことはしたくないけど。
何より、虫はできるだけ触りたくないと思うようになってしまった。
毎年のように虫取りに行ってくれた友達とは、虫を取りに行かなくなってからか、それとも他の理由か。もう話すことはなくなってしまって何をしてるかさえ分からない。
でも、こっそりお母さんに頼んでお前の写真を撮ってもらってたんだ。3枚ぽっちの写真でアルバムは埋まりそうにないけど、この思い出は輝いて見えるから。
ねぇ、そっちはまだ夏かな。
「秘密の標本」
足を挫いておぶってもらった時の彼の背中は暖かかくて、きっと彼は人を温めるために生まれてきたのだろう、そう思うとくすりと笑ってしまう。
だって、彼は不器用な人で私もこの人と仲良くなるのに時間がかかったからだ。使い道のない背中も、こうやって使ってやってるのだから逆に感謝して欲しいくらい。
「アンタの背中はあったかいのに、どうして態度は冷たいのかしらねえ」
「……なに急に。俺はここで下ろしたっていいんだぞ」
「まあまあ、褒めてんのよこっちは」
心がぶれない彼の背中を追って、今ではこんな目の前にいるのに遠く感じてしまう。
でも、こういう関係も悪くないなと思った。
お題 「届かないのに」
小さい頃、よく空に向かって手を伸ばしていた。
星が綺麗ですぐ掴めそうだと子供ながらに思ったのだろう、結局掴めなかったけど今でも星空は好きだ。理科は嫌いだったけど、惑星の授業なら楽しく受けられた。
「お前はいつも星ばっかみてるな」
「別によくね?綺麗だから見てると心が落ち着く感じ?」
「何それ、意味わかんねー」
多分続く