お題 「約束だよ」
人間の記憶は1度覚えた情報も、時間が経つと忘れてしまう性質があるんだって。1時間後には56%、1日後には74%、そうしてどんどん忘れてしまう。そう思うと、俺って結構君のこと覚えてると思うんだけどさ?君はどうかな。
「海、行かない?」
下校中の満員電車。季節は冬だけど人の体温で少し汗をかいてきたころ、彼は言った。海、と言っても俺らが住んでいる所からだと1時間くらいかかって、間抜けな声で「今から、っすか?」と声を出した。彼は笑顔で頷いて、次の駅で降りようと俺の腕を掴んできた。きっとここで断っても先輩の言うことは絶対だよとか言われるだろうし、海は行きたいし。スマホを取り出して母親に「友達と遊んで帰る」とだけ連絡をした。通知はうるさいから切った。
「にしても、なんで急に海なんか」
「なんとなくだよ、深い意味は無い」
「冬だし寒そ〜着替えとか持ってきてないですよ、俺」
「そんな泳ぐ訳では無いから」
あはは、と柱に寄りかかって電車を待つ。彼はスマホを弄りながら俺に一枚の写真を見せる。
「この写真、綺麗じゃない?」
その写真は夕焼けが海に反射していて、恐らく女の子二人が海に向かって入っている走っている様子。まじまじと見ていると、この写真撮りたいんだよね、と笑顔で来た。
「もう日沈んでますけど」
「そっ……れは別に良くない?」
図星のようだ。日を改めてと言いたいところだがちょうど電車が来てしまい、あれよあれよと言う暇もなく手を引かれた。
(好きなお題なので時間ができたら書き切ります)
お題 「勝ち負けなんて」
最初に感じたのは後悔。もっと練習しておけばよかった、人のアドバイスを聞いておけばよかったと今までの練習を思い出した。自分はとても才能があるとは言えなくて、かと言ってコツコツ計画的に努力ができる訳でもなかった。
でも、しょうがなかった。という言葉で片付けられる程熱意を向けていなかった訳ではなかった。
彼はとても努力ができる。俺と比べてスケジュールを組んで練習したり、アドバイスを聞いたり、なにより飲み込みが早かった。だから俺は負けたんだと思う。
自分の人生に点数をつけるなら、40点くらい。赤点をギリ回避できるか、そうでないかくらいだ。自分が好きになったもので勝ち負けを決めるなんて、負けた時自分の好きを否定されたみたいで酷く滑稽に見える。
自分より若い人間に負けるのも滑稽だ。努力できる期間が自分より少ない中こんなに活躍してしまうのだから。
まあ、俺は負けず嫌いなんだと思う。
初めての事ばかりだった。ゲームを好きになって、ライバルと言える後輩ができて、大会に出て、その後輩と決勝戦で戦って、結果は準優勝。自分の人生の点数に加点がされるのなら、まさにこの時だっただろうと思う。まぁ、負けたから加点はされずに終わったけどね。
お題 「渡り鳥」
出会いは春、少し寒いから乗り気ではなかった海に友達と行った時だった。行ってみれば貸切状態のビーチに女子の集団が居て、同じことをするバカもいるんだなあと思った気がする。
そういえば、あのときバレーボールしようって誘ってくれたのは君だったよね。
もう衣替えの時期だったかぁと重い腰を上げてはSNSを流し見する毎日を何となく過ごす。LINE、繋いだけどあんま話してないな。そりゃそうだよな、他人だもの。
着信音がする度ライブ会場のように、心臓がドッとなる自分の恋を自覚するのは簡単だった。
今君が何をしているかは知らないけど、春が来ればまた必ず君のいる場所へ帰るから。
お題 「君の名前を呼んだ日」
普段恥ずかしくて言えやしない君の名前を声に出せば、好きが溢れてしまう気がした。自覚したくなかった。君には想い人がいて、とても幸せそうだったから。自分なんかが名前を呼ぶなんて烏滸がましくて、また自分が嫌いになる。
ねえ、実は私、貴方が好きなのよ?
言えるわけもない言葉だけが増えていく。告白はされたい側だから自分から言うなんてことは無いだろうけど。
知ってる?名前を沢山呼ばれると無意識に距離が縮まるんだって。
「……さん」
ずっと言えなかった彼の名前を口の中で転がす。声は雨の音にかき消されてしまったけど、きっと彼にはこの声が届いているから。自身のことを思ってくれているのだろうと考えれば、そんなことあるわけ無い、自分を好いているなんて到底思えない。そう思ってしまう。自己肯定感が低いからだろう、良くも悪くも勢いに任せて告白する人間ではなくて良かったと思った。
「傘忘れちゃいました。⋯てへ」
もうすぐ台風の時期になりそう、と朝の天気予報で聞いた言葉の通り今日は雨で。母に折りたたみを持たされたけれど、忘れたふりをして貴方に声をかける。しょうがないなと傘を貸してくれるかな。もしかしたら最寄りまで入れてくれるかな。期待はそこそこにして精一杯可愛がってみた。