のふ

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4/16/2026, 1:58:24 PM

 心はどこにあるのだろう。
 しばしば考えることがある。
 心の所在と聞いて、まず真っ先に思い当たるのは胸だろう。怒れば燃え盛り、恋をすればときめく。その衝動の中心はいつだって胸の奥だ。
 では、胸を抉ったとして。
 心を掘り当てることはできるだろうか。
 想像する。鋭く研いだスコップを胸に突き立て、一掻き。大きく肉が抉れ、骨が露出する。更に掘り進めると、やがて心臓が露出する。
 ほう、これが心臓か。
 中々力強いじゃないか。
 では心はどこだろう。
 見当たらない。ならばと、スコップを動かす。
 掘り進める。見つからない。
 掘り進める。見つからない。
 そうしていくうちに胸にはぽっかり大穴が空いてしまう。しばらく穴の向こう側に見える景色を眺めたり、腕を貫通させてみたりしてから、俺は落胆する。
「心はここにはないんだなぁ」



課題「夢見る心」

4/15/2026, 1:11:39 PM

「こんにちは。今日も綺麗だね」
 照れを押し殺して言った褒め言葉に、反応する者はいなかった。暗い空間に虚しく反響する。
 街の片隅に、使われていない地下道がある。
 元々なんの目的で作られたかは分からない。入り口には『右道』と地下道の名らしき看板が立っている。
 右というからには左道があるのかと推理して街中を探してみたりもしたが、結局無駄足に終わった。
 街には右道しかなかった。
 右。
 僕はなぜ右道にここまで執着しているのだろうか。
 ただの知的好奇心ーー省略すればこの一言に尽きる。しかし溢れんばかりの“想い”を、たった一言で片づけてしまうのは勿体無い気がした。
 そうだなぁ。
「……それと愛、なのかな」
 半ば崩れたコンクリートの壁。
 そこを懐中電灯で照らすと、右半身の白骨死体が浮かび上がる。おそらく地震や劣化で壁が崩れ、隠れていた彼(あるいは彼女)は露わになったのだろう。
 右半身の埋められた地下道。
 右道。
 ならば左道には左半身があると踏んでいたのだが。
「ごめんよ。君の左半身は見つからなかった」


課題「届かぬ想い」

4/14/2026, 12:47:39 PM

 休日にでも書きたい

お題「神様へ」

4/12/2026, 1:04:14 PM

「あれは飛行機雲じゃない。線路雲だ」
 眩しそうに目を細めながら、師匠は言った。
 青い青い空に一本の線が走っている。
 少しもくねらず、一直線。定規を押し当てて引いたような見事な直線だ。
 俺はそれを飛行機雲だと思った。
 ああいった線状の雲が現れるときは、大抵飛行機が関わっている。排気ガスに含まれる水分が、上空で急冷されることで雲になるらしい。冬に吐息が白くなるのと原理的には同じで、つまり飛行機雲とは、飛行機の吐息と言えないでもなかった。
 飛行機の吐息。
 なんだか詩的でいいじゃないか。
 そんなことを考えて浸っていると、いつの間にか師匠が隣に立っていて、唐突に言ったのだ。
 線路雲と。
 そんなものは聞いたことがなかった。
「線路雲って。飛行機雲の間違いでしょう?」
「いいや。飛行機じゃない。現にお前、飛行機の音なんてしなかったろう」
「まあ、確かにしませんでしたけど」
「だろう。あれは線路雲なのだ。じきに列車が来るぞ。耳を澄ませば……ほれ、蒸気機関だ」
 そんな馬鹿な。
 師匠に倣い聴覚に意識を集中させる。
 すると遠くから、微かに「シュッシュ」と聞こえてくる。バラバラなようでいて実は規則正しい、蒸気機関の吐息だ。


・時間がなかったのでここまで
お題「遠くの空へ」

4/11/2026, 1:37:57 PM

 春という名の女の子がいた。
 彼女が死んでから、僕は春が嫌いになった。
 暖かな日差し、たまに吹く強風、乱れる桜も、すべてが彼女を彷彿とさせる。世界に彼女が満ちているような気がして、だからこそ、もうこの世にいないのだと突きつけられる。
 おまけに彼女の香水は桜だった。
 たまったもんじゃない。
 近年は温暖化の影響か、春が短い。実際に短いかはともかくとして短く感じる。とはいえ、ひと月以上も彼女の死を言い聞かせられては気が狂いそうだった。
 加えて、もう一つ。
 春は春でも特に盛り上がるーー春爛漫の桜景色が広がるこの時期には、決まって幻を見た。
 まさに今。
 びゅう、と風が立って、桜の花弁が舞い上がった。
 視界を覆いつくす桜吹雪の奥に、失ったはずの彼女の姿が、蜃気楼のごとくゆらりと立ち上がる。
 その姿を認めると同時に電撃が走る。
 ああ、まただ。
 痺れた脳の片隅でつぶやく。
 こうなるともう僕は駄目だ。
「春……」無意識のうちに名前を呼んでしまう。すると彼女は、僕に気づいたように振り向いた。そのピョンと跳ねるような所作は、記憶にある天真爛漫な彼女の姿に重なった。
 花弁で構成された彼女の顔が、にこっと微笑む。
 白い、ほっそりとした腕が伸ばされる。
 ハグを求められているようだった。
「春」
 一歩踏み出す。オアシスを求める渇いた旅人のような、力ない一歩だった。けれど止まらない。
 二歩、三歩。
 次第に足早になる。
 花びらが頬を掠める。ぬるい風が手足に絡みつく。それらを振り解くように無造作に伸ばした両腕は、一瞬、彼女の柔肌を抱いた気がして。
 空を切った。


お題「春爛漫」

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