芒が、愁傷の明星に靡く。
小説家を目指す少女は、狭い庭で宙を見上げた。
───なんだろう。世界には、私が生きる舞台には、
言葉で言い表せない気持ちが多すぎる。
言葉と共に生涯に幕を閉じなければいけない私たちには、
言い表せない言葉の方が多くて困る。
『ありがとう』
だとか、
単純な一言を貰っただけで、なんだろう、
この、胸が地についていない感じは。
脳裏に浮かぶのは、あなたが好きな私。
嗚呼、古寺を廻る驟雨は枯れ、
雲の地平線が薫る時代が滲みる。
揺れる想いは目が偶然合ったことにに等しく、
奇跡は、桜が散ると共にあの頃へと変幻自在に蠢く。
私が夢見ていたのは、きっと幻だったのだろう。
いや、
意味が無いこと、
それは死にたいと哀願すること。
願っているだけで、死ぬ覚悟なんかない人がすること。
生きたいと、行きたいと、夢見る彼らの声援を踏み潰し、
生きとし生けるものの否定。
同時に、自分自身に対する、肯定。
戻りたいと、願ったことが人生で一度でもあるなら、
それはいい人生。
誰かに会いたいと嘆き、求めるのは、
夢みたいな誰かの笑顔に惹かれたから。
今この瞬間にも、止まっている時間なんてない。
波打っているし、地球は呼吸をしているし、君が好きな誰かも、誰かを想っている。
廃寺に溢れる神霊な空気は、
君を想う曲へと変化し、
薫風のかおる春に、夏の勇壮さに浸る。
秋の侘しさの中、しんしんと積もる雪に、誰かの溜め息が混じる。
気が付いてくれるよね。
あなたとわたしが揺れる舞台。
海辺に佇む君が、僕をからかうかのように振り返る。
白波が寄せるごとに、彼女の足首が浅く浸かる。
夕日が反射し、何もかもが神々しく見えた。
二人しかいないこの景色に僕は不安になり、問う。
『なあ』
『なぁに?』
想像どうりの甘い声。
『どうしても、寂しい時、どうすればいいと思う?』
『..さぁね。私だったら、求めるかな。それより、どうしてどうしてそんなこと言ったの?』
『────君の心臓の鼓動が、動いていないからだよ』
もう、僕は一人。
波に残る小さな足跡。
柔らかい雨に、原付の停止ランプが沁みる。
学生時代の焦燥、憧れ、恋心は、
今となっては、ただの思い出。
ただの、と言えるほど成長してしまった私の、
*今*はどう?
あの頃よりも、必死に生きていはいないと思う。
私は必死に生きてたんだなぁと言う、過去に
同時に、これからどうしようかと言う、未来。
黄信号、雪の積もった満開のソメイヨシノ。
驟雨は、誰かの溜め息と混じり、
泣き腫らした君の顔と同化する。
『また』と吐き捨てた言葉に、
海の青さは答えてくれない。
それが、恒久に笑えると言うことだよ。大丈夫。