一筋の光が、図書室の窓から零れ落ちた。
この広い部屋の中には、僕と、一人の少女のみ。
名も分からない少女は、真剣に本を読んでいる。
一方で僕は、図書当番と言う理由だけで、此処に来ている。特段本が好きな訳では無い。ノリで図書委員に入っただけだ。
案の定、他の奴らは、どうせ誰も来ないだろうと、いつも通りすっぽかしている。
でも、
────こんな時間が好きだ。
確実に一人で太陽の陽に染まれる、この時が。
まぁ、今日だけ二人だが。
こんな時間もいいなと、本を手に取り、読む。
一人の時とは違う空気感が、集中力を高めた。
そして、図書室の香りに、麗らかな秋の桜が散った。
『ねぇ、私の事覚えてる?』
落ち着いていて、彼女の声だとすぐ分かった。
結わずに靡かせるセミロングの黒髪は、陽に煌めく。
幼い顔立ちからは、漆黒の孤独に苛まれているようで。
でも、何故か、名前を思い出せない。
どうしても、どうしても。
思い出さなきゃ行けないのに、
長い間、ずっと傍にいたのに。
誰、だ。彼女は。
ただの利用者である少女は、イタズラに微笑む。
まるで、僕をからかうかのように。
『まだ、忘れてほしくなかったのにな』
痛い。突き刺すように沁みる。
そうだ、彼女は、
僕が恋をした人だ。
でももう、会わなくなった間に、大人に成り果ててしまって。
逢いたくても、会えなかったのだ。
射し込む光が、傾くまで、幼い頃の思い出を話し合い、
『 』
『 』
『 』
暗闇に満ちた部屋で、泣く。
『好きです。もう、忘れないでね。
Byアナタに恋をした幼馴染みより』
哀愁をそそる、百均のクリスマスツリー。
秋の真っ只中だと言うのに、君は気が早いな。
確かに寒くなってきたけど、まだ秋を感じる時はあるよ。
僕の横で息をする君に、
僕がイタズラにほっぺを触って、頭を撫でると、
紅くなった可愛い顔が見れるからね。
鏡の中に映る私は誰?
夏、おばあちゃんの家に行った。
近所の子と集まり、一番広いだろうと言うことからおばあちゃんの家を舞台に、かくれんぼをする事になった。
おばあちゃんは、
『家のもん荒らさないならいいよ』
と承諾してくれた。
鬼は、じゃんけんで負けた幼なじみの悠希だ。
私は特に仲の良い友達の華香と、二階に隠れることにした。
埃被ったドアノブをギシギシと音をたてながら、開ける。
二階には数回しか訪れたことがないので、この部屋の存在自体が曖昧なものだった。
ドアの先に紡がれた世界の中心には、大きな鏡。
あまりにも綺麗で、奇妙な空気に圧倒される。
無意識のうちに、
麗美な装飾が飾られた鏡の縁に、触れる。
すると、
────────憧憬が過る。
幼い私に、未来に行くにつれての侘しさを教えてくれたのは、誰?
そして、鏡に映る少女は、誰?
私じゃぁないよ。だってもう、此処は鏡の中の世界。
『誰か、助けて。』
眠りにつく前に、枕に、泪が下った。
泣いていると言う自覚は無いのに、止まらない。
手で拭うことはせず、わざと何もしない。
僕が期待してのは、あれは、夢だったのか?
いなくなったら、もう、会えないんだろう?
なんで、分かったようなフリして、さよならを告げたの?
もう、僕には、君を想うことしか出来なくなった。