廃寺夜想曲*

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一筋の光が、図書室の窓から零れ落ちた。



この広い部屋の中には、僕と、一人の少女のみ。

名も分からない少女は、真剣に本を読んでいる。
一方で僕は、図書当番と言う理由だけで、此処に来ている。特段本が好きな訳では無い。ノリで図書委員に入っただけだ。

案の定、他の奴らは、どうせ誰も来ないだろうと、いつも通りすっぽかしている。

でも、
────こんな時間が好きだ。
確実に一人で太陽の陽に染まれる、この時が。
まぁ、今日だけ二人だが。


こんな時間もいいなと、本を手に取り、読む。
一人の時とは違う空気感が、集中力を高めた。





そして、図書室の香りに、麗らかな秋の桜が散った。





『ねぇ、私の事覚えてる?』


落ち着いていて、彼女の声だとすぐ分かった。
結わずに靡かせるセミロングの黒髪は、陽に煌めく。
幼い顔立ちからは、漆黒の孤独に苛まれているようで。



でも、何故か、名前を思い出せない。

どうしても、どうしても。



思い出さなきゃ行けないのに、
長い間、ずっと傍にいたのに。






誰、だ。彼女は。






ただの利用者である少女は、イタズラに微笑む。
まるで、僕をからかうかのように。










『まだ、忘れてほしくなかったのにな』



痛い。突き刺すように沁みる。







そうだ、彼女は、









僕が恋をした人だ。



でももう、会わなくなった間に、大人に成り果ててしまって。



逢いたくても、会えなかったのだ。
















射し込む光が、傾くまで、幼い頃の思い出を話し合い、
『 』
『 』

『 』






暗闇に満ちた部屋で、泣く。



























『好きです。もう、忘れないでね。


Byアナタに恋をした幼馴染みより』


11/5/2022, 10:57:23 AM