SHADOW (めちゃくちゃ不定期)

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5/29/2024, 11:57:16 AM

「ごめんね」

 タッタッタッタ…。
どれだけ走ったのだろうか。
足が鉛の様に重い。
気持ちも重い。
理由は簡単。
好きだった“神谷”に告白したから。
だけど、振られてしまった。
『紫苑の事は友達として好きだけど…
恋愛では…“ごめんね”』
なんて言われてしまった。
分かっていた。
分かっていたけれど、伝えたかった。
 気がつけば、海にたどり着いた。
嗚呼…そっか此処は始めて、神谷と出会った場所だ。
俺は暫く海辺を歩いた。
「はぁ…振られちゃったな…。分かってたけど…辛いなぁ…。だったら恋なんてしなきゃよかった…。」
そう溢しながら、靴と靴下を脱ぐ。
靴を綺麗に揃えて、ズボンの裾を上げる。
ひんやりと冷たい波が、押し寄せては引いていく。
「冷たいな…。」
今日の気温は高いはずなのに、冷たかった。
「“ごめんね”…神谷…。
こんな事したくないけど、俺はお前に幸せになってほしい。だから俺はここで諦めるよ。
俺がいると互いに、辛いだろ?だから…」
俺は神谷への気持ちを溢す。
最後まで上手く言えなかった。
涙を堪えようとした。
でも涙は意思とは反対に、勝手に溢れてしまう。
同性愛が認められていたら、どんなによかったのだろうか。
俺はそう思いながら、冷たい海の方へ歩みを進めた。

《ごめんね…。神谷。俺の分まで幸せになれよ。》

俺の気持ちは波によって消されてしまった。

5/28/2024, 10:59:34 AM

半袖

 (暑いなぁ。早く授業終わらないかなぁ…。)
そう思いながら、窓の外を眺める。
外を眺めていると、3年の先輩方が100m走をしていた。その中には僕が恋焦がれている“茶川遥華先輩”が混じっていた。
遥華先輩は暑いのか、半袖で授業を受けている。
いつも長袖に隠れている腕は、色白で日焼けしそうな感じの腕だ。
僕はぼんやりと眺めていると、汗だくの遥華先輩と目が合った。
遥華先輩は優しい笑顔で、手を振ってくれた。
僕の心に刺さるくらい、カッコイイ…。
かっこいい先輩は、汗だくでもかっこいい…。

5/26/2024, 11:26:27 AM

月に願いを

 銀歌と共に海辺を歩く。
波が俺と銀歌の足元に、寄っては引いてく。
裸足で歩くから、波の冷たさが丁度いい。
長い長い浜辺を共に歩く。
今日は満月だ。
銀歌の表情は月明かりに照らされて、より美しさを際立たせていた。
俺はその美しさに見惚れていた。
銀歌は俺の視線に気がついたのか、俺にふわりと笑いかけた。
俺は恥ずかしくなり、外方を向いた。
そんな俺が面白いのか、銀歌は俺の頭を撫でた。
「何だよ…。」
『可愛いから。』
「かわいくねーし…。」
そんな会話が続く。
暫く沈黙が続くと、銀歌は俺の目を見て言う。
『ねぇ…傑さん。《“月に願いを”すると叶う》
だから二人でお願いしよ?』
銀歌は手を合わせ、願い事をする。
俺も続けて願い事をする。
《永く…出来るだけ永く一緒にいられますように》
俺は願い事を終えると、銀歌の方を向く。
銀歌はまだ願っているみたいだ。
その横顔が美しかった。
銀歌は願い事を終えると、ゆっくり目を開けた。
その瞳には、波の煌めきが映っていた。
銀歌は何を願っていたのかは、分からない。
俺はずっと銀歌の隣に傍に居られるのならば、この身がどうなっても構わない。
だから、銀歌の“病気”が治りますように…。

5/25/2024, 11:40:57 AM

降り止まない雨

 今日も何時もの様に店内を掃除してから、closeからopenへ看板を変える。カウンターに入り、グラスを磨きながらお客様を待つ。
 「…本日は雨が降ってますね。こういう雨の日って、気分が下がりますね…。」
私は愚痴を溢しながら、自身の髪を弄る。
「雨の日は私の髪も膨らみます…萎えますね…。」
私は溜息を吐きつつ、カクテルを確認していた。
《カランカラン…》
乾いた鈴の音が店内に響いた。
入り口を見ると、お客様が立っていた。
「いらっしゃいませ…。“狐火銀歌”様。」
狐火様は困惑していたが、カウンター席に座った。
「外は冷えたでしょう。これどうぞ。」
ホットチョコレートをお客様の前に差し出す。
狐火様は一口飲み、私の方を見て言う。
『あの…此処は何処なんですか…?私は__したはずなんですが…』
「此処は特別なBARなんです。
“現世”でもなく、“常世”でもないです。
“狭間”…とでも思ってください。」
私が簡単に説明すると、狐火様は何故か悲しそうだった。
『“僕”は…死んでいないんですか…。もう生きるのが辛くて…死のうとしたのに…。』
狐火様は涙を流していた。私は狐火様の頭を撫でた。
狐火様は声が枯れるまで泣いていた。

 「落ち着きましたか。嗚呼冷めてしまいましたね。
入れ直しますね。」
『すみません…。こんな人のために…。』
私は入れ直した、ホットチョコレートを出した。
「狐火様に何があったかは分かりませんが、もう死にたいんですか?」
狐火様はコクンと頷いた。
「もし現世に戻りたくなければ、此処にいても良いですよ。“降り止まない雨”はない。そうですよね。
降り止まなくても、誰かが手を差し伸べれば良いのですよ。」
私は狐火様に手を差し伸べた。
狐火様は躊躇ったが、手を重ねた。

ピッピッピッピ…ピーー…………。
病室に静かに響いた電子音。
狐火銀歌は二度と常世に帰っては来れない。
永遠と“狭間”で生きる。

5/24/2024, 12:21:14 PM

あの頃の私へ

 時々同じ夢を見る。
その夢は、何もない世界で幼い私が泣いている。
私が手を伸ばして、幼い私に触れようとしても、私が触れる前に消えていく。
消えたところには、幼い私が持っていたペンダントが落ちている。
それを拾うと夢から覚める。

今日も同じ夢を見た。
やっぱり幼い私が泣いている。
私は手を伸ばそうとした。
だけど、やっぱりやめた。
どうせ伸ばしても、夢から覚めてしまう。
そう思っていると、幼い私が近づいてきて言う。
『タスケテ…モウ…イヤダ…。』
私はそっと抱きしめた。
「じゃぁ…落ち着くまで一緒にいよう。」

二人で長い長い夢から覚めずにいた。

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