追い風
私のやっている銭湯は2部構成になっている。どういうことかと言えば、17時から22時までと22時から2時までの時間帯で別れおり、後半は常連の妖怪さんたちの時間となる。
後半の部。番台に座っていると座敷わらしさんがやって来た。
「こんばんわ。座敷わらしさん。ここのところ毎日ね。私は嬉しいけど、まだ、お家見つからないの」
「うん。なかなかいい所なくて。私。最近は歓迎されていないのかな。」
「そんなことないでしょうに。あなたを歓迎しなかったら家が衰退していくだけでしょ。」
「うん。そうだけど。今日もお風呂いたただくわ。今日は風がやけに強いのよ。髪が砂だらけになる。」
「へぇ。そうなんだ。毎度〜おおきに〜」
いろいろな妖怪さんたちがやって来くる銭湯。私はこの銭湯が好きだ。悪い妖怪ばかりではないのだから、妖怪さんにもリラックスしてもらいたい。だから毎日、私は銭湯を開けて番台に座っている。
「今日もありがとうなぁ。」
「こちらこそ。唐傘小僧さん。風が強いらしいから気をつけて。」
「はいよ〜」
唐傘小僧さん風で飛ばされないか心配だ。唐傘小僧さんを見送ると女湯からろくろ首さん出てきた。
「あら。風が強いの。これから出勤なのに風が強かったら髪も着物のグチグチになっちゃうわ。美容院を予約したのに困るわ。」
ろくろ首さんは人間に紛れて銀座でホステスをしている。それもママでスナックの経営者だが、これがなかなか繁盛していると聞く。やり手のママだ。
「輪入道さん呼びましようか」
「辞めてちょうだい。風が強いのに車輪の炎が大きくなって着物に火が移りでもしたら大変よ。」
確かに。
でも、妖怪の車って車輪が炎のものが多いような気がする。どうしようか。
「タクシー呼べるでしょ。人間のタクシーでいいわ。」
「あ。呼びます。」
ろくろ首さんがタクシーに乗って帰って行った。運転手さん。後ろをあんまり振り向かない方がいいですよ。
妖怪さんたちが少しづつ銭湯から上り出す時間になる頃、自称閻魔さまの側近のジゾウちゃんが顔を出した。また仕事か。
私のもう一つの仕事は閻魔さまからの依頼で悪さをする妖怪や悪霊を捕らえることだ。なんで私がそんなことをしているのかと言うと、この銭湯をやっているからだ。
いろいろな妖怪さんが来るこの銭湯は情報が集まりやすい。そして、悪さをする輩を捕まえるために手を貸してくれる妖怪さんがたくさんいること。だからみんなの力を借りて悪さをする輩を捕らえ仕事をしている。
このジゾウちゃんも情報屋だし捕らえのも手伝ってくれる。
「風が強えよ。普通の風じゃあない。閻魔さまが、風を追えてよ。」
「ジゾウちゃん。また仕事なの。風を追うってどういうこと。」
「そのままだろ。風を追えば犯人にたどり着くのさ。」
風を追う?
追ったら犯人から離れていかないかな?向かって行けば風を起こしてる妖怪に会える気がするけど。
「風に向かわないと…」
「この風を起こしてる妖怪はたぶん扇子だ。あいつは走り回りながら風を起こす。風の起きていない方向に移動しながら風を起こしいるから、風の先に移動してくるのさ。なかなか捕まえのは厄介な奴だか、手分けして探せば見つかる。だからお前の出番だ。」
「なるほど。手伝いましょう。」
「うん。私もやるわ。」
「扇子を探せばいいの。」
「任せろ。」
上から酒呑童子さん、座敷わらしさん、百目さん、鵺さん。他にも銭湯にいた妖怪さんたちが扇子を探しに出かけてくれた。もちろん私も探しに行くが、扇子って妖怪は聞いたことない。
「扇子って悪さする妖怪なの。ジゾウちゃん。」
「普段は大人しい妖怪だが、時々一晩中走れ回ることがある。悪さはしねぇが、暴風は人にとっては迷惑になる。たから、今回は捕縛はしない。見つけて休憩させる。」
休憩。
なんだ。うちの銭湯に来て休憩してもらえばいい。探そう。探そう。早く探そう。
みんなが探してくれたおかげで1時間ぐらいで扇子さんを見つけることができた。今は湯船に浸かりパタパタと優しい風を吹かせている。
「いつもこんな仕事ならいいのに」
「まあ、たまにはありだな。」
ジゾウちゃんも軽い足取りで閻魔さまのところへ戻って行った。
疲れた妖怪さん。
爆発する前にうちの銭湯に来てくださいね。遅い時間からは人間は居なくなり、妖怪さんだけの時間なのでゆっくり湯船に浸かることができますよ。
どうぞ、ゆっくりしていって下さい。
君と一緒
私は中学2年の時に交通事故にあい、脊椎を損傷し足が動かなくなってしまった。もう、5年ほど車椅子での生活を送っている。
事故直後は、ずっとベッドの上で生活していて、何もかも諦め自分から行動を起こすことはなかった。幼馴染の波瑠がお見舞いに来ては何度も声をかけてくれたが、私の心には届かなかった。
「瑠夏。車椅子に乗ろう。私が押してあげるから。ね。」
「もう私の足は動かないの。このままでいい。あなたに車椅子を押してもらうなんていや。波瑠に私の気持ちなんてわからないよ。もう帰って。」
波瑠とは幼稚園の頃から何をするのも一緒で、ある時は競い合い、ある時は協力して人生を生きてきた。そんな波瑠に車椅子を押してもらわなけば外にも出られない私は、あまりにも惨めだ。
もう、部屋から出るつもりも車椅子に乗るつもりもない。私はただ人形のように何もせず生きていくだけ。
悔しい。悔しい。どうして私だけが事故にあい、足が動かなくなってしまったのか。
中学ではテニス部に所属し県の大会にも出て走り回っていた私がどうしてこんなことになってしまったのか。悔しい。
1年近くは、何もせす本当に部屋に閉じこもっていた。それても波瑠は毎日やって来る。
ある年の夏、波瑠がつけたテレビをぼんやり見ていると車椅子に乗った青年がテニスボールを打ち返していた。車椅子を巧みに操り、ボールを追いかけてスマッシュを打つ。私には考えられない世界だった。
テニスやりたい。
私にもできるだろうか。
車椅子を足変わりにテニスコートを走り回ることができるだろうか。
「できるよ。瑠夏ならできる。瑠夏ほど強くなかったけど、私だってテニス部だったし練習付き合う。車椅子の練習もしよう」
波瑠の声が聞こえた。心に波瑠の声がこだましていた。
それからは毎日が練習の日々だ。
テニスをするためにはまずはベッドから出て、車椅子に乗らなければならない。手に力を付けるトレーニングも開始だ。
スポーツ用の車椅子に慣れてコートの中を縦横無尽に走れようになるまで頑張らなければならない。
テニスボールとラケットを久しぶりに触り、壁打ちも始めた。
そうだった。中学校でテニスを始めたばかりの頃も壁打ちばかりしていた。
気持ちはあの時と同じだ。
波瑠は今も私の側で一緒にテニスボールを追いかけている。波瑠が居てくれて良かった。まだ、始めたはがりの車椅子テニス。
そんな簡単なことではないけれど、背中を押してくれた波瑠と世界を取りにいきたい。
冬晴れ
寒い冬晴れの日は、夏に比べ富士山が良く見える。
夏は富士山に登る人が多くいる。山頂で見る御来光は登った人しか味わえない達成感があるはずた。
冬は晴れが続き、空気が乾燥しているため、澄んでいて雪を被った美しい富士山が遠くからでも良く見える。遠くから見る富士山は絵画のような水墨画のような雰囲気を味わえる。
登る富士山も遠くから見る富士山も味わい深いものだ。
幸せとは
人それぞれ。
私の幸せがあなたの幸せとは限らない。
美味しいものを食べた時。
お腹が満たされるだけでなく、心がホッコリする。ああ、幸せだ。
あなたと結婚できて本当に幸せです。
付き合い始めて5年になるが、私の愛はあなたに出会った時から変わらい。
今日、私は母になった。シングルマザーだけれどやっとこの子に会えて幸せ。
いいえ。ママと幸せになろうね。
希望の学校に合格した。これからも勉強頑張っていい仕事に就きたい。金を儲けて幸せになってやる。貧乏はもうイヤだ。
どんな事を幸せと感じるかは人それぞれ。
さあ、幸せを探しに行こう。
あなたも必ず見つけることができるから。
日の出
朝日が昇る。
1月1日の日の出は初日の出だ。ここ何年かは、海外にいたため日本で迎えるお正月は久しぶりだ。
寒い中、近所の海岸へ歩いていく。
海岸では焚き火がたかれ、近所の人たちが何人か集まってきていた。
「やあ。久しぶり。いつ帰ってきたの。」
高校の担任だった先生に会った。懐かしい気持ちで一杯だ。日本に帰ってきたんだと改めて思った。
海岸線がだんだん明るくなってきた。
日の出だ。
朝日を見ているとなぜか涙が出てきた。温かい朝日に照らされて新年を迎えると心が洗われるようだ。
海外にいる時は、日本の朝日は夕焼けで日の入りとなる。
これはこれで今年の終わりを感じ感無量だったが、帰ってくれば、来たで新しい年を迎えられて清々しい。
日本の日の出は海外の夕焼けのこともある。地球は丸い。回っている。
来年も日本でお正月が迎えられるように
仕事を探して生活できる基盤を作ろう。
海外に逃げるのは辞めだ。