ありがとう。ごめんね。
僕が辛く悲しい時は、いつも励ましてくれた君。どんな時も「大丈夫たよ。上手くいくさ」と口癖のように言っていた君。
そんな励ましさえ疎ましく思うほど、あの時の僕の心は荒れていた。
部活動から始まった競技は、いつしか僕の体の1部となりこれからもずっと続けていくつもりでいた。
そのための留学。留学先で多くのことを学び、一回り大きくなって帰ってくるつもりだったのに、言葉が通じないことがこんなにも苦しいとは思わなかった。競技においても、海外選手は体が大きくて筋力が厚く、練習だけだは追いつけない無力さを感じていた。
そんな時も君は、毎日連絡をくれて僕のことを気にかけてくれていた。それなのに僕はいつも君に意地悪な言葉ばかり投げつけ、君を苦しめていた。あの時は自分のことしか見えていなかった。
帰国してから同じ競技に身を置く僕たちは、大会の選考会で競うこととなった。この頃の僕は、不貞腐れていて勝ちたいと言う気持ちがなかった。それなのに僕は君に勝ったのだ。
「手を抜くなんてバカにしているのか!」
君は寂しそうに笑みを浮かべ顔を横に振るだけだった。それも気にいらない。全てに不満を持っていた僕は、君が膝を怪我していることを知らなかった。その怪我は酷く
君がこの大会を最後に競技人生を辞めようと思っていることも知らなかった。
君が競技から去って改めて感じる孤独。留学中に感じたものとは比べものにならない虚無感。君が居ないと僕はダメだ。君という友達がいたから不貞腐れていても競技を続けてこられた。今さら遅いが、君の存在の大きさがどれほど僕をの支えになっていたことか。
どんな時も側で声をかけてくれた君に心から感謝を伝えたい。そして謝りたい。
ありがとう。ごめん。
僕はこれからも競技を続ける。そして、大きな大会に出て優勝インタビューで君に会いたと伝える。それが目標だ。
部屋の片隅で
ももちゃんが居ない。昨日までケージの中でくるくると回っていたのに居なくなっている。探さないと。
ももちゃんはペットのハムスターだ。ケージから外に出すとすぐにコンセントのコードを齧りたがるため、1人出すことはなく、体も小さいため家具のすき間に入る込まれると探すのが大変だ。ケージの扉を閉めるのを忘れたのだろうか。ももちゃんが脱走した。
「ももちゃん〜。出でおいで〜。おやつがあるよ〜。ももちゃん〜。」
テレビの後ろやカーテンの下、こたつの掛け布団の中などももちゃんが入り込みそうなところを探したが見つからない。どうしょう。本当にコンセントを齧れば、停電するかもしれないし、ももちゃんが感電することも考えられる。早く探さないと。どこにいるのよ、ももちゃん。
日曜日を1日潰して探したが見つからない。部屋から出て天井裏にでもいるのだろうか。今日の捜索は一旦中止だ。
ケージの中の飲み水とご飯を変えて、寝床を整え、ももちゃんがいつケージに戻ってきてもいいようにケージの扉も開けておく。
このまま見つからなかったらどうしよう。私の不注意でケージの扉が開いていたから、ももちゃんはケージから出てしまった。などなど負の感情ばかりが浮かんでくる。ももちゃん。ごめんね。早く戻ってきてよ。
考えていても仕方がないので、もう寝ようと電気を消した。電気を消して少しすると部屋の片隅で、ゴソゴソと小さな音がする。慌てて電気をつけるが、そこにはももちゃんは居ない。電気をつけたタイミングで隠れてしまうようだ。
何とかしてももちゃんをおびき寄せないと。部屋の隅にヒマワリの種を置き電気を消した。
ゴソゴソ。
ゆっくり、ゆっくり、起き上がり電気をつける。いた!ももちゃん!
呑気にヒマワリの種を両手で持ち、頬をモゴモゴさせているももちゃんが、つぶらな瞳で私を見ていた。
咄嗟に手を伸ばせばももちゃんが動くよりも早く捕まえることができた。
ももちゃんをケージに戻せば、水を飲み始めた。喉乾いていたのね。
ももちゃんが居なくてずっと心配で寂しかったけれど、ももちゃんもお腹がすき、喉が渇き大変な思いをしていたのだ。
ちょっとした冒険だったのかもしれない。
逆さま
クラスの中で僕だけが逆上がりができない。何度か挑戦してみたが、上まで上がることができなかった。
昨日、帰りの会で先生が来週に逆上がりのテストをすると言っていた。合格する自信がない僕は、お父さんに練習に付き合って欲しいとお願いした。
何度も地面を蹴るが、クルッと回ることができずにいた。お父さんに背中をちょっとだけ押してもらうとできるのに自分たけだはできない。でも、僕も1人で逆上がりができるようになって、クラスのみんなが見ている逆さまの世界を見てみたい。
それから毎日、公園の鉄棒で逆上がりの練習をした。お父さんが言うには、足を強くけること。友達のタケル君のアドバイスは、強く鉄棒を引くこと。どっちもやっているのにできない。手にまめができて痛いしもう辞めようかな。
「頑張れ。だいぶ蹴るタイミングと引き手のタイミングが合ってきたぞ。いい感じだぞ。」
お父さんの言うように、時々、体がフワリと浮くことがある。あと少しなのかもしれない。もう少し頑張ってみよう。
いち、にい、さん。
足を強く蹴って、手で鉄棒を思いっきり引っ張って体を浮かせれば、クルンと体が回り逆さまの世界が見えた。
「やったー。できたぞ。」
1人で見る逆さまの世界キラキラしているように見えた。テストも頑張ろう。
眠れないほど
ある商品の開発のために何ヶ月も前から会議を重ね、やっとプレゼンができるまでに仕上がった。明日は社長や取締役などの上司の前で本番のプレゼンをやることになっている。
「私がプレゼンをしていいんですか?チカ先輩の方が分かりやすいと思います」
「何を言ってるのよ。分かりやすいって、同じ文章を読むから変わらないでしょ。」
「でも、でも、どうしょう。緊張してきました。」
明日が本番だと思うと足が震えてくるし、お腹が痛くなりそうだ。本番に弱い私。
これじゃあ、今日は眠れそうにない。
本番前はしっかり休んだほうがいいとチカ先輩が言っていたが、無理だ。緊張する。
本番当日。やっぱり朝まで眠れなかった。目の下の隈がひどいし、顔色も悪いためいつもより念入りにに化粧をしておく。
会議室に入りプレゼンの準備を始めるか、緊張がピークとなりトイレに駆け込む。
トイレから戻ってくるとチカ先輩に呼び止められた。
「そんなに緊張しなくても大丈夫よ。そうだ、チームみんなで円陣を組もう。主任〜。円陣組みますよ〜。」
先輩の掛け声に合わせてチームのみんなが集まり、円陣を組んでいく。円陣の掛け声は主任がやってくれるそうだ。
「よっしゃあ〜。いくぞ〜。」
「「「オーーー。」」」
なんか軽い掛け声であったが、気が抜けたら体に入っていた変な力も抜けた。さあ、プレゼンを始めよう。
プレゼンは思いのほか順調に進んでいた。壇上から上司たちの反応をみると割といいように思える。あと少し。
ゴロゴロ!
外は雨だったようで雷の閃光が見え、一瞬だけ停電となった。
「ちょっと停電したみたいだけれど大丈夫そうですね。プレゼンを続けましよう?とうしましたか。」
進行役の部長に促されたが、私はすでにパニック状態だった。どうしょう。どこまで読んだ。どうしょう。どうしょう…。もういっそ夢だったら良かったのに現実はそう甘くない。泣きだしてしまいそうになった時、チカ先輩の声が聞こえた
「太陽光による…」
ぱっと顔を上げるとチカ先輩と目が合い、慌てて原稿にを見る。太陽光…、どこ、どこよ。あった!
チカ先輩が読み上げてくれた場所からプレゼンを再開することができた。
「お疲れさま。プレゼン良かったよ〜」
「先輩、ありがとうございます。チカ先輩のおかげで失敗せずに終わることができました。」
プレゼンが終わった安堵感もあり、チカ先輩に抱きつくと涙が溢れ出てきた。
「何事も経験だからね。」
主任のお言葉で我に帰り、チカ先輩から離れた。チカ先輩はニコニコして私の頭をなでてくれた。
プレゼンはいろいろご指摘をいただき、もう一度検討することになった。この次も私がプレゼンをすることになっている。
この次は先輩の手を借りずにやることが目標だ。
さよならは言わないで
どうして?
私たちはここで終わるのに挨拶もなしなんて寂しいでしょ。
「また会えるか」なんてあり得ないわよ。
私たちの関係はここまでで終わり、そう言う約束だったわよね。
あなたとの関係から足が付くのは困るわ。
だから終わりにしたいの。ただそれだけ。
あなたが私をどう思っているかなんて知らないし、関係ない。私は怪盗だから。
欲しい物を手に入ればそれで終わり。
今回のことは感謝しているわ。だつて、あなたのおかげで防御システムを破壊することができたのだから。そうでなければ、あの宝石に近づくこともできなかっはずよ。
話し過ぎたわね。本当にこれで「さようなら」しましょう。刑事さん。
さようなら。