はなればなれ
おらの村では10才になるとどの家の子も奉公に出るのが習わしとなっていた。家では飯を食わせてもらえねえこともあるが、奉公に出れば飯も食えて給金もでる。
おらの父ちゃんは出稼ぎに行っていたが、
仕事中に怪我をして足が不自由になり、体力を使う仕事ができなくなった。母ちゃんかする内職だけでは、家族6人が生活することはできない。
明日はおらが奉公に出る日だ。朝から母ちゃんが温かい飯と大根の葉っぱの味噌汁を作ってくれた。今年の冬は寒く雪が多い。
「夕子。ごめんよ。奉公に行かせて。」
「母ちゃん。大丈夫。奉公先で可愛かってもらって給金たくさん送るから。」
雪の降る中、奉公の仲介のおじさんがおらを迎えに来た。雪が多いため町まで歩いて行くことはできず、馬に引かせた荷車で町たで行くことになる。
荷車のところまで母ちゃんが送ってくれたが奉公に出たら、村に帰してもらえることはないため、きっと母ちゃんと顔をを合わせるのはこれが最後だ。
「母ちゃん。元気でな。おら頑張る」
「夕子も体に気をつけてな。なはればなれになっても母ちゃんはお前のこと思ってるから。辛くなったら帰っておいで。」
おらは顔を横に振る。おらか頑張って奉公して父ちゃん、母ちゃん、弟、妹たちにお腹一杯飯を食わせやりてい。だから、おらは奉公から帰らねえつもりだ。
「夕子…」
「大丈夫。母ちゃん、寒いからもう帰って。おらも行く。」
荷車が動き出し、母ちゃんが、おらの産まれ育った村がだんだんと遠くなっていく。
「母ちゃん…。ぐず…」
知らず知らずのうちに涙が溢れ出し、おらの顔を濡らす。泣くのは、これが最後だ。
おらの決意は変わらない。
子猫
低山登山に出かけるのは久しぶりのことだ。朝早くから山を登り始め、昼過ぎには山頂に到着することを目標にしていたが、午前中から雨が降り始めた。
だんだん強くなる雨に霧も出てたため大きな木の下で雨宿りをすることにした。
1時間ほどすると雨がやみ始め、霧も晴れてきたがどちらの方向に進めば良いか分からなくなっていた。
「ミィ。ミィ。」
僕の居る木の幹の向こう側から子猫が一匹顔を出した。雨に濡れたのか体はびしょ濡れで心なしか鳴き声も小さく聞こえる、
思わず僕は、子猫を抱きかかえ着ているスウェットの中に入れた。大丈夫。暖かい。
どれくらいそうしていただろうか。
「ミヤー。ミヤー。」
別のの猫の声がした。数十メートル先の木の下の茂みから大人の猫がこちらに向かって歩いてくる。ハチワレだ。
子猫を探していると思い、懐から子猫を出して地面に置いた。こちらに来たハチワレ猫は子猫を咥え歩き出すが、少し歩くとこちらを振り返る。まるでついて来いと言わんばかりに。
猫たちについて歩くこと5分程で山小屋が見えてきた。山小屋がこんなに近くにあるとは思っていなかった。
あと少しで山小屋という所で猫たちは茂みに入っていった。どうやら山小屋まで道案内をしてくれたようだ。
山小屋に着いて猫たちの話しをすると山小屋の主人がニコニコしながら、「その猫は家の猫だよ。時々道案内をしているのさ」と自慢げに言っていた。
あの猫たちには仕事があるらしい。仕事を持つ立派な猫に会えて楽しい登山となった。
また猫たちに会いに登山に行こう。
秋風
秋の風か吹き始めると僕らの部活は一旦終了となる。秋から春にかけては、体力づくりが基本となり、陸上のトレーニングが主なものだ。
公立の高校に通っているため、プールは屋外にあり、使用許可がおりるのはゴールデンウィーク明けから9月のシルバーウィークまでとされている。9月に入っても暑い日は続くが、部活の終了時間が近づくころになると秋の涼しい風が吹き、水に濡れた体を冷やす。水の冷たさを感じ始める季節だ。
今年もプールの使用が禁止され、陸上トレーニングが始まった。腿上げ、腕立て、腹筋、坂道ダッシュ。どれも水泳に必要な筋肉をつけるためには大事なものだ。分かってはいる。しかし、ふと思う。自分は何部だった?
私立の学校は室内に大きなプールを持っていて、季節を問わず練習している。ああ。人生ってなんて不平等。
そんなことを考えながら、朝のロードワークをしている自分。真面目すぎて悲しい。
陸上トレーニングを真面目にしていると走力がついてくるため、陸上部の顧問から陸上部に入らないかと誘われることがある。
陸上部も悪くないかも…。
来年の春、僕は何部に所属しているのだろうか?
また会いましょう
『あー。良かった。やっぱり来てくれたのね。ずっと待っていたのよ。約束を守ってくれてありがとう。うれしいわ〜。』
白い古びた着物を着た彼女は傾いたバス停のそばに佇んでいた。
「いいえ。貴方はもう亡くなっています。貴方が存在してもいい正しい場所に行きましょう。」
『私が死んでる?嘘よ。また会いましょうっていったでしょ!』
顔を歪め涙を流しながら彼女は叫んだ。
「いいえ。貴方が待っていた方は200年前に亡くなっています。あちらで貴方を待っていますよ。ここにいては貴方は悪霊のままです。苦しいでしょ。途中まで送ります。行きましょう。」
『200年…』
陰陽師に導かれ白い光が空から降りてきた。今までいた場所では感じることのない温かな光り。ああ。優しい。
その光りに手をかざすとふわっと体が浮き上がり、バス停から離れていく。
この光と共に行けばあの子のいる所に行ける。やっと会える。約束が守れる
ありがとう。
スリル
「おい。あの女。確か隣りのクラスの援交してるって奴だろ。」
「援交ってさぁ〜。他にも稼ぐ方法あるだろにぃ。」
「尾行しようぜ。そんで、写真撮ってSNSに上げるって言えば金出すだろ。出さなかったら本当に上げちまえばいいさ。」
「悪い奴だな。お前。」
「まあ、スリルあって面白そうじゃん。尾行。」
「行くぞ。」
俺たちはすでに取り返しのつかない世界に迷い込んでいたことに気がつかなかった。
「おいおい。本当にラブホ街に行くじゃん。あの先曲がったとこだろ。ウケる。」
隣りのクラスの女子は、俺たちには気づかないまま横断歩道を渡り、ホテル街の方に曲がらす、真っ直ぐに歩いて行った。
「はぁ~。ラブボ行かねぇのかよ。」
「もう少し尾行しようぜ。全然気づいてねぇし、あとで驚かそうぜ。泣いちまうかもな。」
ふと目を離した隙にあの女子はいなくなっていた。どこ行ったんだ。俺たちは走り出し辺りを探す。
いた!
ザシュ。
あの女子の首飛んだ。
な、なんだ。
「これは。これは。エサとしてはザコだと思いましたが、3人も連れてくるなんて優秀ですねぇ」
「なんだ。お前!」
「何だって。あなた達、漫画とかゲームとかで知っているでしょ。大きな鎌を持った黒尽くめの化け物。」
「し、しにがみ。」
「はい!正解。おっと逃げられませんよ。彼女が見える時点であなた達の行き先は決っているのでね。」
スリルはほどほどにして下さい。貴方の命より大切なものはないのですから死神からの忠告ですよ。