子供のように
秋晴れの今日は自治会の運動会が行われる。コロナ禍から5年。久しぶりの運動会だ。朝から弁当を持って孫を連れて、近くの学校の運動場に出向いた。
「お。三郎さん。おはようさん。今日は何に出るつもりかね。」
自治会の運動会では、誰がどの種目にでるかは決っていない。自分が出たいものに申し込むだけだ。運動会と言っても、大人たちは酒が入れば上機嫌だ。
自治会の運動会は大人たちの運動会と言っもいい。もちろん、子供が出る種目もあるが大人と一緒に出る玉入れや綱引きなどがある。
そして、リレーは大人たちの独壇場だ。
「位置についてー。よーい。どん。」
俺のチームは、三軒隣りの和男さんと向かえの川本さん、いとこの貴ちゃん。そして俺だ。平均年齢65歳前後。目指すは優勝だ〜。
「お〜!貴ちゃん!がんばれ〜。」
「川本さん。走れ〜。三番目だ~。」
「和男さん〜。あ!え!なんで転ぶだよ」
ピーポー。ピーポーピーポー
転んでしまった和男さんは、起き上がれず担架で救護所に運ばれたが、痛みがひかずに足が動かせなかった。そして、救急車に乗って総合病院へ搬送された。
久しぶりの運動会。酒も入り子供のようにはしゃぎすぎた。いい年した大人がはしゃぎすきた結末だ。
俺でなくて良かった。かもしれない。
放課後
黒板消しと簡単な清掃、日誌を記入すれば日直当番の仕事は終わりだ。一緒に日直だった男子はそうそうに部活動に行ってしまった。たしか、バレー部だったか。
放課後に最後の清掃を済ませて日誌を書いていると前の席に友人の華ちゃんが座った。
「もう少しで終わるけど遅くなるから先に帰っていてもいいよ」
華ちゃんとは高校に入ってから仲良くなった友人だ。同じ中学だったが、同じクラスになったことがなく、中学では話しをしたことはなかっため、あまりよく知らない人だった。高校になってからは同じクラスとなり、家も近く一緒にいることが増え友人となった1人だ。
華ちゃんは名前の通りで花があり美人だ。そして性格も良く、モテる要素しかないような子だった。そんな華ちゃんと友人となれたことは私にとって奇跡でしかなった。
「相談したいことがあるの」
「え!何?」
慌てて日誌から顔を上げる。華ちゃんは真剣な顔で私を見つめていた。
「好きな人がいるの」
「好きな人。華ちゃんの好きな人!」
「そう。」
「うん、私の知っている人。華ちゃんなら告白したら上手くいくよ。私も応援する」
華ちゃんに告白される人って誰だろう。きっといい人だろうな。
「そうかなぁ。あのね。5組の伊藤君」
「え。でも伊藤君は…」
伊藤君は私の彼氏だ。
「応援するって言ったでしょ。それにもう告白したの。付き合うことになったから、あなたは別れて。」
「何、言ってるの」
「話しはそれだけだから。先に帰るね」
華ちゃんが教室の前の扉から出て行った。
華ちゃんと伊藤が付き合うことになった。聞いていない。私は伊藤君から何も聞いていなかった。そうだ。伊藤君に聞いてみないと。華ちゃんの勘違いかもしれないし。
LINEを開け伊藤君を探すが手が震え、涙でぼやけてよく見えなかった。
「辞めとけよ。」
急に第三者の声が聞こえ、驚いてスマホを落してしまう。
私のスマホを拾ったのは、放課後すぐに部活に向った日直当番の男子だった。
「アイツの言ってること、多分本当のことだと思う。」
「どうして…」
「伊藤が華子と付き合ってるって自分で言いふらしてるからな。」
「うそ。」
「俺も伊藤から聞いたし。あんたと付き合ってたのは知らなかったよ。」
「でも、華ちゃんは私たちに別れろって。私と伊藤君は付き合っているのよ。」
慌てて伊藤君に電話をかける。今すぐに話しがしたかった。電話は伊藤君に繋がらなった。ブロックされたのかな。
そんな。酷いよ。
「俺さぁ。1週間前まで華子の彼氏しててさ。急に別れるって言われてさぁ。話しかけても無視すんの。バレーも身が入らなくて部活の先輩には怒られるし。クソッ。
なぁ。アイツらに復讐しねぇ。」
「復讐?」
「そう。復讐。」
私たちは復讐するために彼女の弱みは何かないかと探したが、華ちゃんは美人で成績優秀、性格も良く、先生受けもいい。弱みなんて見つけられない。
「見つけられないなら、嘘の噂を流すか」
「うそ?」
「噂なんて嘘でも本当でもわかんねえよ」
悪い噂を流して、スクールカースト最高位の華ちゃんを最高位から引きずり下ろすだけ。引きずり下ろしたいと思っている人も多いから、意外に上手くいくかもしれない。伊藤君はカースト最高位でなくなった華ちゃんには興味がなくかるから別れさせるのも簡単だ。
でも、悪い噂って。
どうしよう。
「ゴメン。やっばり、私辞める。復讐。あなたも変な事すると部活動禁止とかになると困るでしょ。それに、私。今思うと本当に伊藤君のこと好きだったかなぁって思うの。別れて良かったかもって。」
「はぁ~。お前がおれの弱み握ってどうすんだよ。俺。脅されてんのかよ。」
「ふふ。脅してないよ。ねぇ。辞めよ。」
「バレーできないのは困るな。やっぱ。
俺も別れて良かったかもな。俺と華子は初めから釣り合ってないしな。まあ、せめて、俺から振ったてことにするか」
「それなら大丈夫だよ。噂、流そうか」
「流さなくていいよ。もう部活行くわ〜」
「うん。部活、頑張ってね。」
「おう。」
部活に向かうために彼は、夕焼に染まった放課後の教室を出て行った。
私も帰ろう。
いろいろなことがあったが、いつか、バレー部の試合を見に行きたと思っていた。
吊り橋効果かな。
カーテン
私と世界を隔てている布。
引きこもりの私の世界は家の中だけ。繋がりがあるのは知らない人のYoutuveだけで、狭い狭い世界。でも、私にとってはこれが全て。私の世界だ。
私と世界の境目の布。
この布の向こう側は、光に溢れた世界。
私にとっては、未知で寒くて辛い世界だった。だから、私の世界に引きこもり生きている。眩しすぎる世界。
私と世界は薄い布で仕切られているだけ。
カーテンを開けることができるだろうか。
私は私の世界を狭めてはいけない。
私も世界と繋がっていきたい。
カーテンを開けてみよう。
思ったより優しくて、温かい光が差し込んてくるはず。
涙の理由
この田舎の中学校に赴任して弱小と呼ばれるテニス部の顧問になって3年が過ぎた。
中体連では1勝もできずに終わることが何回もあったが、今年の試合は違った。
試合には勝てなかったが、キャプテンである彼女は試合後に控え室で涙を流していた。
彼女の涙の理由
「どうして泣いているの?負けるのはいつものことでしょ。あなたたち。負けても笑って終わるでしょ。」
涙の理由は分かっていた。今年は毎日、毎日、暗くなるまでボールを追いかけていた彼女。1勝するために人一倍練習をしてきた。勝てなかったことが悔しくて悔しくて仕方がないはずた。
でも、今までは負けても「私たち弱いから」と諦めていたのになぜテニスに対する姿勢が変わったのか知りたかった。
だから、あえて訪ねる。
「どうして泣いているの?」
「勝ちたかった。隣町の幼馴染に弱いチームいて可愛そうって言われました。3年間無駄に過ごして楽しいかって。私は可愛そうなんて思われたくありません。」
「そう。でも、あなたたちテニスに対して真剣ではなかったわよね。勝てなくても諦めてたでしょ。」
「でも、でも、先生は私が試合に勝てるように考えてくれて、母も試合の時はお弁当を一生懸命作ってくれたり送り迎えもしてくれた。それなのに私は中途半端な部活動をしていました。それがすごく申しわけなくて。だから、試合に勝ってみんなの期待に応えたかった。誰にもバカにされたくなかった。ごめんなさい。先生。試合に勝てなくて、いい加減な練習ばかりして。悔しい。悔しいです。」
中学生の彼女は変わった。
試合に負けたが、周りの期待に応えるためには時には忍耐力や努力が必要なこと、そして何より試合に関わった人たちに感謝する気持ちが大切であることを彼女は学んでいた。人は1人では生きていけない。個人競技の試合であっても1人では何もできず、みんなの支えがあってこその自分に気づくことができていた。
「悔しいね。先生も悔しい。3年生のあなたは中学での試合はないけど、あなたはこの試合ですごく成長することができました。人との関わり方を学べました。もし、高校でもテニスを続けるなら、今まで以上に練習しないとね。周りへの感謝を忘れずにテニスと真剣に付き合っていけば強くなれる。あなたなら大丈夫。頑張って。」
彼女は涙を拭い、本当の笑顔で試合会場をあとにした。
今、彼女はウィンブルドンに挑戦しょうとしている。私はそのコーチとして観客席から彼女の勇姿を見守っている。
ココロオドル
明日から夏休み。友達と初の海外旅行に出かける予定だ。今は円高のため、旅費も滞在費もそれなりににかかるが、少し奮発して旅に出ることにした。。今年1年かけてお金を貯めた。頑張った。だから、すごく楽しみだし、ココロオドル。
前の日からドキドキして眠れず、忘れ物がないか何度もスーツケースを開けたり閉めたりした。
空港で友達と合理し飛行機へ。もちろん初飛行機。CAさんに見とれ、思わず一緒に写真をとる。
「ビーフorチキン」
機内食も始めてだ。何もかもがココロオドルことばかり。数十時間飛行機に乗り、目的地が近づいてきたが、この空港は、世界一危険な空港として有名な場所だ。
戦場とかそういう意味ではない。
ここは、街の真ん中に空港があるため、高いビルすれすれを飛行機が旋回していく。
ちょっとしたアトラクションなみだ。
イヤ!
命がけになるかもしれない。ココロオドルばかりではいられない。もちろん、飛行機が落ちるなんた思っていないが、あまりにスレスレなので手に汗握る。ドキドキする
。飛行機の翼が当たれば終わりだ。
大丈夫だろうか〜。
叫びたくなるが、グッ都こらえて座席で待機だ。
くぅ~。
良かった。思わず力が入ったが、飛行機は空港に到着した。
飛行機を降りて空港の外へ。扉が開くと
もあっとした空気にさらせれる。
イザ!イザ!魅惑の東南アジアへ。