たやは

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9/28/2024, 11:33:25 AM

別れ際

太陽のような笑顔を浮かべてアイツは別れ際に言った。

「次に会う時も勝つのは私だ。」

負けるなんて1ミリも思っていない、なんて自信に溢れた顔だろう。

くそっ。

アイツの強さは僕が一番良く知っている。
だって僕がアイツにチェスを教えたのだから。今は立場が逆転してアイツが世界チャンピオンだ。今の僕では歯が立たないかもしれない。でも、僕たちはどちらもグランドマスターになることを目指して試合をいている。勝負は、今日の勝ち負けではなく、どちらが先にグランドマスターになるかだ。

そして、売られた喧嘩は買いにいくのが僕のスタイルだ。あんなキラキラした笑顔で来られたら、なんか見下されているようで腹が立つ。次は絶対に勝つ!

チェスは神々のゲーム。無限の可能性がある。

僕にも勝つチャンスもグランドマスターになるチャンスだってある。アイツにも分からせてやるさ。

勝負はこれからだ。

9/27/2024, 8:18:50 PM

通り雨

柴犬のゴン太と夕方から散歩に出た。家を出たときは雨は降っていなかったが、、ゴン太と公園を回っての帰り道、雨が降りだした。

通り雨だ。

慌てて小さなカフェの軒先に逃げ込む。犬の散歩途中だからお金も持っていないためカフェの中には入れない。軒先に立ちながら空を見上げる。

「ゴン太〜。雨やむかな。」

ワン。ワン。
ゴン太も困り顔だ。

「あの。〇〇駅はどこですかね」

急に声をかけられて驚いたが、隣には同じように雨宿りをしていたお婆さんがいた。
駅の道を説明していると雨がやみ、日が差してきた。お婆さんとは挨拶をしてそこで別れる。

「さあゴン太!帰ろうか」

私とゴン太が歩き始めると、5分ほどでまた雨が降り始めた。通り雨は繰り返すと言うが本当だ。また、近くの郵便局の軒下に駆け込む。

「あの。〇〇駅はどこですかね」

へぇ?
また同じお婆さんに声をかけられた。どういうこと?違うお婆さんだったかな。
また駅までの道を説明しなからも不思議で仕方がなかった。雨がやみ家への道を走り出す。ゴン太はお婆さんに吠えなかった。やっぱり、さっき会ったお婆さんだったのかな?

また雨が降り出すまでには家に着きたかったが、強い雨が降ってきたためコンビニの軒下に避難した。あの角を曲がれは家なのについていない。

「あの。〇〇駅はどこですかねえ」

もう振り向くことはできなかった。雨が降っているのも構わず、ゴン太のリードを握りしめて走る。

慌てて玄関のドアを開け母親を呼ぶ。

「お母さん!」

「なあに。びしょ濡れじゃあない。しっかり拭かないと風邪ひくわよ」

母は喪服だった。

「お葬式?」
「隣組の〇〇さんのお婆ちゃんが亡くなったんですって。なんでも、〇〇駅まで息子さんの家族を迎えに行く途中に車にはねられたらしのいよ」

嘘でしょ。
あのお婆さんのことではないよね、でも、何度も駅までの道を聞かれた。亡くなっ人に会ったてこと。

「あんた顔色が悪いわよ。雨で風邪ひいたんじゃない。早くお風呂入りなさい。」

私は幽霊と話したのか。そんなことある?
ても、一緒に駅まで行かなくて良かった。実は、2回目にお婆さんに会った時、「駅まで一緒に行きましょうか」と声をかけていたが、歩き出そうとしてもゴン太が動かず、お婆さんだけで行ってしまったのだ。あのまま一緒に行っていたら、私たちは帰ってこれたたろうか。

ゴン太は、あのお婆さんが幽霊だと分かっていたのかもしれない。ゴン太がいてくれて良かった。

ザァーと降っていた通り雨がやみ雲の隙間から太陽の光が照り始めていた。

9/27/2024, 5:14:03 AM



「春子お姉ちゃん!なんで!」

私たちは4人姉妹で私は三番目。一番上の姉は春子。二番目は夏子。私が秋子。妹が冬子。田舎の村長の娘だ。
春子姉ちゃんは優しくてしっかり者。
夏子姉ちゃんは男まさりで泣き虫。
私は平凡。
冬子はちょっと病弱だけど美人さん。
性格はそれぞれ違うが仲良し四姉妹だ。

春子姉ちゃんの婚約が決まった日、夏子姉ちゃんが庭師の勝男くんと駆け落ちした。
自分も誰かと婚約させられる思ったのだろうか。お父さんはたいそう怒って、夏子姉ちゃんたちを探すため山狩りを始めた。
秋の夜の山に松明があちこちで照らされて、紅葉の赤が鮮やかに浮かび上がっている。

「2人見つかるかな」
「冬子。寒くなるから布団に入りなさい」

三人で縁側に立って松明の明かりをいつまでも眺めていた。

夏子姉ちゃんは見つからなった。ただ、勝男くんだけが山の橋から滑落していて亡くなっていた。夏子姉ちゃんも一緒に落ちてしまったのだろうか。不思議とそれほど悲しくない。なんだか現実だとは思えない。
隣で冬子の泣き声を聞きながら、泣き虫だった夏子姉ちゃんが思いだされ胸が苦しかった。
春子姉ちゃんの婚約は延期された。夏子姉ちゃんが亡くなったことが関係しているのかもしれない。
それでも再び、春子姉ちゃんの婚約の日取りが決まった。赤い振り袖が部屋に掛けられている。

今日は冬子が街の病院に診察に行くため、お付きの花を伴って出かけていったが、夕方になっても冬子たちが帰って来ない。
お父さんが街までタクシーで探しに行ったが2人とも見つからない。大人たちは、2人は神隠しにあったに違いないと噂している。本当だろうか。でも冬子がいなくなってしまったのは事実だった。

春子姉ちゃんの婚約が延期になった。冬子が神隠しにあったのだから仕方がない。
でも、3ヶ月もすればまた婚約の話しが持ち上がる。村長と言ってもお父さんには権力はない。権力や威厳が大好きなお父さんにとっては、春子姉ちゃんが代議士さんと結婚することは大事な大事なことらしい。

夕方、部屋で本を読んでいるとすまを叩く音がして春子姉ちゃんがふすまをから顔を覗かせた。

「どうしたの?春子姉ちゃん。」
「秋子。ちょっと散歩に行かない?」
「今から。いいけど。」

四人姉妹は2人になってしまった。春子姉ちゃんも私も寂しさは隠せない。
庭を抜け、畑や田んぼの横を通り、どんどん山に入って行く。

山道の先まで来たがその先は崖だ。

「春子姉ちゃん危ないよ!こっちに来て」

「ねえ、あなたが飛び降りて」

「春子姉ちゃん!なんで!」

「私。結婚するのいやなのよ。あんなに年の多い人と結婚なんてしたくないの。わかるでしょ。」

「だったらお父さんに言えばいいよ。」

「無理なの知ってるでしょ。」
春子姉ちゃんが私の手首を強く掴む。

「痛いよ。私が死んでも結婚は変わらないかもしれない。」

「それは大丈夫よ。四姉妹のうち3人が死んだり、いなくなってしまえば、相手は世間体を気にする人たちたがらすぐに婚約しないって言ってくるわ。私は権力もお金も興味はないのよ。さあ、おしゃべりはおしまい。飛び降りなさい。」

春子姉ちゃんが私の背中を強く押した。

きゃあ〜。


幸い私は、崖のすぐ下の松の木に引っかかり、行方不明の私を探しに来た村の人に発見された。擦り傷は何か所もあったが生き残ることができた。
今は村から離れ、遠い親戚の家にお世話になっている。あのあと、春子姉ちゃんがどうなったかは知らない。 
ただ、秋になると松明に照らされた紅葉の赤が頭からはなれなくなる。

9/25/2024, 1:16:27 PM

窓から見える景色

成田空港を出て約13時間。やっとニューヨークのラガーディア空港に到着した。到着ロビーを出たところでイエローキャブに乗りマンハッタンを目指す。
マンハッタンに入るとイエローキャブの窓から見える景色は、おもちゃ箱をひっくり返したように華やかだった。

エンパイアーステートビル。
自由の女神。
タイムズスクエア。
そして、アメリカのミュージカルやダンスの中心地であるブロードウェイ。
どこを見てもきらびやかでワクワクが止まらない。目が離せない。
今、一番人気のミュージカルは誰もが知る名作だ。空飛ぶ絨毯に乗った2人やランプの精の本場の歌を一度は聞いてみたい。
あー。楽しみだな。ミュージカルたくさん見に行きたい。美味しいものも食べたい。
ニューヨークを満喫したい。

必ず最終オーディションに合格しないと。もし合格できれば日本人である私でもブロードウェイの舞台に立たせてもらえる。

私ならできる。
私の解釈のブラックスワンを踊る。
私は黒い羽のブラックスワンだ!

9/24/2024, 12:07:57 PM

形のないもの

私はさっき病気で亡くなった。死ぬと全てが無になると聞いていたがどうも違うらしい。今の私は自分の体から魂が抜け、誰からも見えていない状態だ。ちょうど自分が横になっている姿を上から見ているところで、私のベッドの周りには、妻や子供たちが集まって泣いていた。私も家族と離れることは悲しいが、私が死んだことを思って妻たちが泣いてくれたことは少しだけ嬉しく思う。
病院で着物に着替えさせてもらい、霊柩車で家に帰るのは私の体。魂の私はいつまで体の私のあとをついて行くのだろう。
お通夜が始まる。明日になればお葬式で体が火葬され、私は魂だけの形のないものになってしまう。その後はどうなるのだろう。魂に意思があるのか。何か心残りがあるのか。無になるのか。自分のことなのに分からない。

人が集まって来た。懐かしい顔も見えるが、魂だけの私には誰も気づけない。

おや?
孫の陽向だ。陽向は2ヶ月前に生まれた初孫だか、まだ会ったことはない。

『陽向。じいじだよ。会いたかったよ』

もちろん、陽向にも私の声も聞こえないし、姿も見えない。それでも陽向の前で声をかける。そうか。私は心残りがあった。まだ見たことのない初孫に一目でいいから会いたかったのだ。だからここまで来た。会えて良かった。もう思い残すことはない。魂の私は失くなってしまった体が軽くなるような気がした。そして天へ昇って行く。さよなら。みんな。元気でな。

「ア〜」『クゥ〜』

「あら〜、陽向ちゃんご機嫌ねぇ。嬉しそうねぇ。生後2ヶ月の赤ちゃんは目もはっきり見えないけど、おじいちゃんが見えたのかしらね。」

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