形のないもの
私はさっき病気で亡くなった。死ぬと全てが無になると聞いていたがどうも違うらしい。今の私は自分の体から魂が抜け、誰からも見えていない状態だ。ちょうど自分が横になっている姿を上から見ているところで、私のベッドの周りには、妻や子供たちが集まって泣いていた。私も家族と離れることは悲しいが、私が死んだことを思って妻たちが泣いてくれたことは少しだけ嬉しく思う。
病院で着物に着替えさせてもらい、霊柩車で家に帰るのは私の体。魂の私はいつまで体の私のあとをついて行くのだろう。
お通夜が始まる。明日になればお葬式で体が火葬され、私は魂だけの形のないものになってしまう。その後はどうなるのだろう。魂に意思があるのか。何か心残りがあるのか。無になるのか。自分のことなのに分からない。
人が集まって来た。懐かしい顔も見えるが、魂だけの私には誰も気づけない。
おや?
孫の陽向だ。陽向は2ヶ月前に生まれた初孫だか、まだ会ったことはない。
『陽向。じいじだよ。会いたかったよ』
もちろん、陽向にも私の声も聞こえないし、姿も見えない。それでも陽向の前で声をかける。そうか。私は心残りがあった。まだ見たことのない初孫に一目でいいから会いたかったのだ。だからここまで来た。会えて良かった。もう思い残すことはない。魂の私は失くなってしまった体が軽くなるような気がした。そして天へ昇って行く。さよなら。みんな。元気でな。
「ア〜」『クゥ〜』
「あら〜、陽向ちゃんご機嫌ねぇ。嬉しそうねぇ。生後2ヶ月の赤ちゃんは目もはっきり見えないけど、おじいちゃんが見えたのかしらね。」
9/24/2024, 12:07:57 PM