麦わら帽子
先日、安くて上質な品揃えで有名なアパレルで黒いワンピースを買った。お値段はお手頃なのに生地の肌触りが良く、洗濯もできて驚くほどストレッチが効いた服だった。袖がないので真夏の今はそのまま着て、少し肌寒くなったらブルーのカーディガンを羽織ろうか。本格的に寒くなってきたらスカジャンを羽織るのも面白い。などと妄想しているのか楽しい。
ワンピースに合わせてピアスやネックレス、指輪などを付けるのもワクワクする。
あ!それよりも1輪のマリーゴールドを持ってみるのも良いかもしれない。
ワンピースとマリーゴールド。そして麦わら帽子はわたしの中で繋がっている。
終点
終点でバスを降りて、だいたい5分くらい歩くと見えてくる小さなレストランが今日の目的地だ。なぜ、こんな山奥にこんなにも美味しいビーフシチューを出してくれるレストランが存在するのか。理由は分からないがとにかく超美味しい。
レストランに向かうために、初めてこのバスに乗ったのは小学生の低学年のころだ。
その時、バスの中でおばあちゃんに約束させられたことがある。
「いいかい。さっきの電車の駅に戻るまで、お前の名前は〝チィちゃん〟だ」
「なんで。チィちゃんはおばあちゃんの家の猫じゃん」
「そうだね。でも、今はお前がチィちゃんだよ。誰に名前を聞かれてもそれ以外の名前を名乗ってはだめだ。約束できないなら次のバス停で降りなさい。帰りのバスはすぐには来ないから駅まで歩きなさい」
「え〜。歩けない〜」
「そうかい。約束は守りなさいね」
おばあちゃんに約束させられ、ちょっと不貞腐れながらバスの座席に座っていれば、小柄で着物姿のおばさあんがバス停から乗ってきた。
「おや。久しぶりだね。魔法の。孫かい」
「久しいねぇ。砂かけの。孫のチィだ。」
こんにちはと挨拶をすれば、バスに乗ってきたおばさあんはニコニコとしていた。
このバスは、電車の駅が出発点で途中でショッピングモールや住宅街を抜けていくため始めの頃は人が多い。でも住宅街が抜け、トンネルを出たところのバス停あたりから人影はなくなり、代わりにちょっと変わった人々がバスに乗ってくる。そのほとんどか例のレストランのビーフシチューが目当てだ。目の前に座っているのは唐傘を被った人。通路をはさんで隣は手や足に水かきみたいなものがある人。時々はおばあちゃんの知り合いのように人間ような人もいる。
おばあちゃんと知り合いの人は、レストランに着いてからもずっと喋っていたので、私は大人しくビーフシチューを平らげた。あー。美味しい。超美味しい。
このバスは不思議なことにおばあちゃんと一緒のときでないと乗れないことが多い。一度友達を山奥のレストランに連れて行きたくで誘ったが、電車の駅から出るバスには乗ることはできたが、終点で次のバスに乗り換えようと思っても次のバスのバス停を見つけることができないのだ。そう。山奥のレストランは、終点の先の終点にある。最近は1人でも2つ目のバスに乗れるようになったので、ゆっくり気にせすビーフシチューを堪能している。
ようやくチィちゃんとしての顔が売れてきたのかもしれない。
上手くいかなくたっていい
「上手くいかなくたっていい」はおばあちゃんの口癖。おばあちゃんは私が失敗した時、落ち込んた時、上手くいかなかった時に必ずこの言葉で励ましてくれる。
この言葉を聞けばおばあちゃんの優しさに包まれ、何となく元気がでて、たいがいのことはどうでもよくなるから不思議だ。
おばあちゃんは80年近く人間界に住んでいる魔法使いだ。長く人間界に住み、人間に馴染んてしまったせいかほとんど魔法は使えない。昔は、魔法使いとして魔界法務局に勤めバリバリ仕事をしていたらしい。
今は、縁側で三毛猫のチィちゃんをナデナデしながら日がな1日を過ごしている。
バリバリの魔法使いは、なぜ人間界でほのぼのとおばあちゃんをしているのか?答えは簡単。おじいちゃんに恋したからだ。
馴れ初めはよく分からないが、おじいちゃんは、めちゃくちゃおばあちゃんに優しかった。いつもニコニコして何処行くにもおばあちゃんの手を引き、からだ全体で大好きを表現していた。「人間界に連れて来るのは本当に大変だった」がおじいちゃんの口癖だ。だから、おばあちゃんは魔法使いを辞めた。
魔法を使えなくなった魔法使いのおばあちゃんも実は少しだけまだ魔法が使える。言葉に魔法を乗せ、相手に伝えることでおばあちゃんの思っていることが現実になる。
「上手くいかなくたっていい」はおばあちゃんの口癖。
そう。上手くいかなくたっていい。
次は上手くいくから。
蝶よ花よ
小さい頃は蝶よ花よと持て囃され、少女から女性になる頃には伯爵令嬢とチヤホヤされていた。誰もかれもが羨む様な生活を送り、誰からも愛されていた私の人生は、一発の銃声でガラスのように砕け散った。
父が撃たれた。
父である伯爵は国の官僚に属していたが、穏健派で外交にも力をいれていたし、国内にも目を向け貧しい人にも優しかった。
それでも父は殺された。この国の行く末は暗く、貧しいものになっていくはすだ。
私の人生も一変した。館には住めなくなり、夜逃げ当然に館をあとにした。今までは父の庇護のもとに生きていたが、仕事をしなければならなくなった。蝶よ花よと育てられた人生は全く役に立つものではなくなった。
あれから2年。
私は父を撃った国賊組織にスパイとして潜り込んている。迷彩服に身を包み、化粧っ気のない顔で髪もホコリにまみれている。それでも生きている。
幼少期の華やかな生活の中で1つだけ役に立つことがあるどすれば、それは母国語以外に言葉が話せることだ。他国の言葉を話せる事で、国賊組織が他国とする交渉の要となっている。つまりは外交。
それは父と同じ仕事。
父とは仕事の目的が違うかもしれないが、父と同じ外交の仕事をしていることを胸に強く生きていかなければならない。
絶対に生きのびてやる。
最初から決まっていた
最初から決まっていた勝敗。
最初から決まっていた勝敗があるならば、
それはただの八百長だ。
「君も僕たちのチームにくれば絶対に勝てたのに。残念だよ」
絶対なんてあるわけない。
自分が特別だと思ってる奴らほど足元をすくわれる。
相手が格上だから勝てないのか。俺たちの努力が足りなかったから勝てないのか。
それでも八百長してまで勝ちたくないし、
普通に練習して努力して勝つことが今の目標だ。
常勝なんてクソくらえ!
弱い奴らが強者に勝つから面白いしワクワクするんだ。ドラマがあるんだ。
宇宙コロシアムでスペースホッケーが行なわれ、俺たちは人類とスペースノイドの混合で雑草みたいなチームだ。でも、このチームで勝負に負けるなんて思っているやつは誰もいない。
絶対に勝つ!