日見しぐれ

Open App
10/10/2024, 10:45:57 PM

#28 涙の理由

「もうやめよう…」

一瞬彼が何を言っているのか分からなかった。

「もう、会うことも話すこともやめよう。きっと今じゃないんだと思う。というか君と僕は釣り合わないんだと思う」

彼とは友人の紹介で出会った。

しばらく彼氏を作らない私に呆れた友人に
「いい人いるから」と彼を紹介された。

初見はタイプじゃないし、オドオドしてるし何考えてるかわかったもんじゃない。でも、自分の好きな物には真っ直ぐで素直で時々見せるその笑顔と優しさにいつしか心を奪われていた。

そんなある日勢い余って私から告白してしまった。

彼は一瞬戸惑ったが、決心したように
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
と何故か堅苦しい返事で返してきた。

それからというものの旅行に行ったり食事に行ったり、休みがあった日には一緒に出かけるようになって早1年。

記念日はお互い仕事で忙しくて会えなかったけど、
日程を少しずらして会うことが出来た。

そんな日の出来事だ。

「別れる…ってこと?」

きっとそうだろう。聞くまでもない言葉。

「そう」

彼は小声でそう言った。

「え、なんで?記念日だよ?
ちょっと待ってよ、今じゃなくない?理由は?」

彼の言葉はいつも含みがあり、遠回りだ。
だけど必ず答えはあるし自分の考えは持っている。

「そういう所!そう、今じゃないんだよ。理由はさっきも言ったよね。何回も聞き返さないでよ。
自分が少し上に立った気分になって、人の事バカにして…耐えられなかったんだ…じゃあね。
僕よりいい人はいっぱいいるでしょ」

そう言って席を立った彼はお金だけ置いて店を出ていった。

「僕よりいい人って…何よ…」

窓の外を歩く彼を見て目から水が溢れ出した。

自分のこれまでの行動が許せなくて…。
彼との別れが悲しくて…。

心の炎が吹き消され、なにも感じなくなった。


しぐれ

10/2/2024, 1:20:03 AM

#27 たそがれ

清々しい青空が次第に茜色に染まっていく。

黄昏時だ。

金木犀香るこの時期の夕焼けはどこか懐かしく儚い気持ちになる。

仕事でも休日でもやることもなくダラダラと過ごした1日を忘れられるこの時間。

窓の外を見て1人想いに浸っていた。

「**君。またたそがれているのか」

太く低い落ち着きのある声。

「部長」

片手はポケットに手を入れて、もう一方の手にはコーヒーを持って立っていた。

「この時間になると何もかもがどうでも良くなってしまうんですよね…」

この人だけには本音を話せる。そんな人だった。

「どうでもいい…か…。君は今の人生をどう思っている?」

「どうって…?」

「私は必死に生きてきた。嫌いな先輩がいてね。その人には負けたくないと必死に足掻いてここまで来たんだ。もうその先輩は辞めていってしまったけどね。見返すことはできたんじゃないかな?」

「部長にもそんなことがあったんですね…」

「そうなんだ…でもどうだろう。その先輩を見返すために必死になって働いてきたけど、部長になった今は守るものも背負うものも多くなっただけで、あの頃のように必死になることは出来ない」

そう言って部長は持っていたコーヒーをゆっくりとひとくち飲み込んだ。

「だから**君。君には必死になれる何かを見つけて欲しいんだ。人生が黄昏れる前にね」



しぐれ

9/23/2024, 10:03:01 PM

#26 ジャングルジム

土曜日の午後、
閑静な住宅街に元気な子供たちの声が響き渡る。

「ここ俺の陣地〜」

ジャングルジムのてっぺんに登って
周りの子たちに自慢する少年。

それに対抗しようと無我夢中で登る少女

ただただ立ちすくむ少年

私は関係ないとほかの遊具で遊ぶ少女

見ているだけで何故か癒された。

「懐かしいなぁ」

久しぶりの土曜日休みで近所の公園に散歩に来ていた私は、遊具を見てあのころの自分を思い出していた。

毎日のように幼なじみと公園で遊んで
遊具の取り合いをしていた。

ジャングルジムのてっぺんを共に取り合った
あの子は今どうしているだろうか。

そんなことを思いながら自販機で
買った缶コーヒーをひとくち飲む。

今度地元に帰ってみようかな。

そんな中で気づいたことがある。

子供時代の争い事は可愛いもんだと思ってしまうけど
大人になった今、社会に出て争うのは訳が違う。

人生ってジャングルジムなのかな。


しぐれ



9/18/2024, 9:51:37 AM

#25 花畑

「私、ここで前撮りしたいの」

ある時、地元に帰ると久しぶりに幼なじみに会った。

思い出のカフェで思い出のコーヒーを注文する。

そして彼女の口から
結婚すると告げられた。

お気に入りのドレスも見つけて
満足気な彼女だったが
どこか引っかかるところがあるらしい。

話を聞いてみると、
前撮りをするらしいのだが
どうやら彼と撮影場所で揉めたらしい。

僕にとってはどうでもいいこと。

2人の頭の中がまるでお花畑だなと思いながら
目の前のコーヒーを啜る。

よくよく話を聞いてみると

お花が好きな彼女はドレスを着て
地元で有名な花畑での撮影をしたいというが

彼氏は真逆で
シンプルな教会で撮った方が絶対に良いと
聞かないようだ。

本当にどうでもいい。

「それは大変だったね」
と軽く相槌を打って話を聞いていた。

その日はお互い予定があったので
早めにお別れをした。

その帰り道ふと考えてみた。

結婚かぁ。

幼なじみは初恋の相手。

あの子の記念の写真なら
しっかりとドレスも写してあげたい。

「あ、そういう事か…」

彼の言いたいことがわかった気がする。

記念の写真なら彼女が主役であって欲しい。
花がいっぱいだとドレスも隠れちゃうし、
花に目がいってしまう…。

彼女との再会を思い出しながら
実家に帰り、ふと幼い頃の写真を見返したくなった。

「あ…ここって…」

写真の中の1枚に

あの花畑ではしゃいでいる
幼稚園の頃の僕と彼女が写っていた。


しぐれ

9/6/2024, 9:49:18 AM

# 24貝殻

綺麗な貝殻を浜辺で見つけた。

唯一無二の輝き。

あの時見た君のように

綺麗だった


しぐれ

Next