#28 涙の理由
「もうやめよう…」
一瞬彼が何を言っているのか分からなかった。
「もう、会うことも話すこともやめよう。きっと今じゃないんだと思う。というか君と僕は釣り合わないんだと思う」
彼とは友人の紹介で出会った。
しばらく彼氏を作らない私に呆れた友人に
「いい人いるから」と彼を紹介された。
初見はタイプじゃないし、オドオドしてるし何考えてるかわかったもんじゃない。でも、自分の好きな物には真っ直ぐで素直で時々見せるその笑顔と優しさにいつしか心を奪われていた。
そんなある日勢い余って私から告白してしまった。
彼は一瞬戸惑ったが、決心したように
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
と何故か堅苦しい返事で返してきた。
それからというものの旅行に行ったり食事に行ったり、休みがあった日には一緒に出かけるようになって早1年。
記念日はお互い仕事で忙しくて会えなかったけど、
日程を少しずらして会うことが出来た。
そんな日の出来事だ。
「別れる…ってこと?」
きっとそうだろう。聞くまでもない言葉。
「そう」
彼は小声でそう言った。
「え、なんで?記念日だよ?
ちょっと待ってよ、今じゃなくない?理由は?」
彼の言葉はいつも含みがあり、遠回りだ。
だけど必ず答えはあるし自分の考えは持っている。
「そういう所!そう、今じゃないんだよ。理由はさっきも言ったよね。何回も聞き返さないでよ。
自分が少し上に立った気分になって、人の事バカにして…耐えられなかったんだ…じゃあね。
僕よりいい人はいっぱいいるでしょ」
そう言って席を立った彼はお金だけ置いて店を出ていった。
「僕よりいい人って…何よ…」
窓の外を歩く彼を見て目から水が溢れ出した。
自分のこれまでの行動が許せなくて…。
彼との別れが悲しくて…。
心の炎が吹き消され、なにも感じなくなった。
しぐれ
10/10/2024, 10:45:57 PM