『たまには』
たまには遠出をしよう。
そう思っていた……が、まさか異世界まで遠出する気は無かった。
いや、どうやって帰るんだ、これ??
○○○
ほやほや男子高校生の僕と、小型犬のチワワのお姫様一匹。
ポツンとした草原に立っている。
……意味が分からない。
家の家庭で可愛がられているチワワが、キャンキャンと吠えながら何処かへ走り去っていく。
「えっちょっと、待って!!」
「キャルルルル!!」
「…………え?」
家にいたときには、絶対に聞かない声を聞いた。
遠吠えのような、勝鬨を上げたみたいな吠え方。
衝撃で石のように固まった僕の元に戻ってきたチワワは、ナニカを引きずっていた。
トカゲの尻尾……いや、まって、これはドラゴンじゃない??
目の前にドラゴンと、チワワ。
僕は気絶してしまいたかったが、そうもいかない。
なんでこんなことに。
ちょっと今日の散歩はいつもより遠出しようと思っただけなのに。
十字路を曲がったら、全く別の場所、草原だった。
たまには遠出をしよう。
そう思っていた……が、まさか異世界まで遠出する気は無かった。
いや、どうやって帰るんだ、これ??
キャンキャン!
可愛く僕に擦り寄って来るチワワの頭を撫でる。
相変わらず可愛い……口元に赤い汁が見えなければ。
「さて。どうやって帰ろう、かな」
これから、僕の壮大な家へと帰るための旅が始まる。
おわり
『大好きな君に』
大好きな君に、死を。
愛しているからこそ、死を。
だんだんと冷たくなっていく体を前に、一人笑う。
「浮気者……それでも、あなたを愛している」
刺し傷から溢れだす真っ赤な血の池に、自分の顔が写った。
歪な笑みが、まるで三日月のようだった。
おわり
『ひなまつり』
君と過ごすひなまつり。
最期に過ごす、ひなまつり。
「毎年、毎年。ありがとう」
そういった私に、あの子達は何も言わなかった。
それは当然のことだった。
私の娘が、結婚する。
もう、良いのだ。もう。
「今まで、本当にありがとう」
きっと、私が再び会うことは無いだろう。
ひなまつりのヒナ達に、別れを告げた。
さようなら、さよなら。
あの子達をダンボールの箱にしまいこんだ。
……物言わぬ人形が、少しだけ、笑っているようにみえた。
おわり
『たった1つの希望』
たった一つの希望があるとするならば、
——それは君が死んだことだろう。
○○○
この世に奇跡なんてモノは無かった。
あるのは、血の味がこびりつく地獄だけだ。
『ナイト、ご苦労様』
「主、こんな物言わぬ、躰になって……」
死体が目の前にはあった。
忘れない、あの人の死体。
私の事を、優しく撫でてくれた、あの人の……。
「あの、なんだ。悪政を敷いていた強欲領主が死んだんだって?」
「みんなでデモ起こして、一族諸共火あぶりの処刑よ」
「かーーっ。悪いことはするもんじゃねぇなぁ!」
……あの人は、悪いことなんて、何も、何もしていなかった。
それどころか、
「アレじゃなかったか? 一族の中に、一人。現状をどうにかしようとしてたガキが居るとか。そいつはどうしたんだ?」
「さあ? まあ、アレだろ。口じゃあ綺麗事言ったって、ソイツだって俺達の血と涙で贅沢な暮らしをしてたんだ。死んでたって構わないね」
「違いねえ!! あの一族には、恨みしかねぇよ! 俺の娘は結婚が決まってたのに、ズタズタにされ死体だけ返ってきた」
……現実とは、ままならないものだ。
一人の力で変えられる事には限度がある。
努力が必ず報いてくれるとは、限らない。
「あれ? あそこの犬……あの、坊ちゃんの犬に似てね?」
「あ? 犬の違いなんて分かんねぇ。ま、これは人間の問題だろ。犬を巻き込むのは辞めようぜ」
「お、それもそうだな……にしても、どした? お前」
「いやぁ、最近さ、妹が犬を飼い始めてな。犬に酷いことしたって知られたら、俺がボロボロにされちまうよ」
「ははは。そりゃ、いけねぇな」
人間には悪い人間がおり、良い人間がいる。
だが、同じくらい、半分良くて半分悪い人間がいる。
きっと彼らもそうなのだろう。
自分の大切な物を大切にし、自分の大切な物を壊そうとする相手には、どこまでも残虐になれるのだ。
『ねぇ、ナイト。僕は此処で死んでしまうけど、君はどうか生きていて。そうしたら、そうだな。僕は君に憑いて、世界を色々と観て周るよ。楽しみだなぁ』
《わふ》
街の広場から、阿鼻叫喚が聞こえる。
人間とはどこまでも残虐になれる生き物なのだ。
『おい、この内臓。どこまで引っ張れるかやってみようぜ』
『もっと苦しめ! 俺の婚約者が受けた苦しみをもっと!』
『死ぬなんて許さない。生きたまま地獄の業火に焼かれろ』
こんな狂ってしまった、街の中で。
たった一つの希望があるとするならば、
——それは君が死んだことだろう。
死んだ人間は、もう苦しまないから。
《わふ、わふふ》
さあ、主。一緒に旅に出ましょう。
色んな場所を、たくさん、たくさん観ましょうね。
誰もがこちらを見ていないなか、私は一匹立ち去った。
おわり
『欲望』
人は常に欲望を孕んでいる。
此処にも一人、己の身に余る欲望を抱えし者が居た。
「リア充が、みたーーい!!」
……欲望、か?
○○○
リア充、というものをご存知だろうか?
今となっては死語に足つっかけて、なお半分棺の中みたいなものかもしれない。
リアルが充実している、主にいちゃいちゃなカップルを指す造語である。
俺は、そんなリア充が見たかった。好きなのだ。
一時は、リア充爆発しろ! と非リア充の怨念により、リア充がレッドリストに乗ってしまうことすら、あったリア充。
だが、俺は諦めない。諦めきれない!!
リア充を、復活、させるのだ!!
「いや、まずはお前がリア充になれよ」
「…………それは、そう」
これは、リア充をみるために、俺がリア充になる話。
夢に向かって猪突猛進する俺と、クールなツッコミ気質の相棒のギャグする話。
……続かない!
おわり!!