白井墓守

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3/1/2026, 10:49:07 PM

『欲望』

人は常に欲望を孕んでいる。
此処にも一人、己の身に余る欲望を抱えし者が居た。

「リア充が、みたーーい!!」

……欲望、か?

○○○

リア充、というものをご存知だろうか?
今となっては死語に足つっかけて、なお半分棺の中みたいなものかもしれない。
リアルが充実している、主にいちゃいちゃなカップルを指す造語である。

俺は、そんなリア充が見たかった。好きなのだ。

一時は、リア充爆発しろ! と非リア充の怨念により、リア充がレッドリストに乗ってしまうことすら、あったリア充。

だが、俺は諦めない。諦めきれない!!
リア充を、復活、させるのだ!!

「いや、まずはお前がリア充になれよ」
「…………それは、そう」

これは、リア充をみるために、俺がリア充になる話。
夢に向かって猪突猛進する俺と、クールなツッコミ気質の相棒のギャグする話。

……続かない!
おわり!!

2/28/2026, 11:01:20 PM

『遠くの街へ』

遠くの街へ、いざゆかん。
……え、この街しか、世界には街がないの??

ま?

○○○

旅をする事が夢だった。
子供の頃から、テントや寝袋で寝ると何故か落ち着いた。

旅に出てもいいのは、成人してからよ。
そんな母の言葉を信じて、ようやく待ちに待った成人。

そこで、僕は衝撃の一言を告げられる?

「え、世界には、この街しか存在しないの? なんで??」

「母さんにも分からないけど~なんか、予算の都合が~みたいな事を~お上が告げてたみたいなのよ~」

……この世界、ゲームか何かなの??

だけど、僕は諦めきれなかった。
絶対の絶対に絶対! 僕は旅をするんだ!!

そうして気がつく。

——街が無いなら、街を作れば、いいじゃない。

そうして、旅をするために、僕の新たな目標『街作り』が始まった。

「母さん! 僕、ちょっと街を作ってくるよ!!」
「あら~、元気になって母さん嬉しいわ~、頑張ってね~」

母さんにも別れを告げ、いざゆかん!!

「…………街ってどうやって作るんだろ?」
「あ、あの……」


そっちを見ると、目隠しした地味な女の子が居た。

「ま、ま、街を、作ると、仰りません、でしたか? わ、私も! その、街を……つくり、たくて。い、一緒に作れたり、む、無理……ですか、ね?」
「いいじゃん! 大歓迎だよ!!」
「ほ、本当ですか!!」

こうして、僕は一人、仲間を手に入れた。

僕は遠くの街へ旅に出るため、とりあえず街を遠くに作ることにした。

僕の旅は、続く。


しかし、物語は続かない。
おわり!!

2/27/2026, 11:25:11 PM

『現実逃避』

現実逃避で世界を征服してみた。
国民全員に喜ばれたが、俺の顔は一向に晴れなかった。

……なんで、俺。異世界に居るの??

○○○

「貴方こそが、真の魔王様です!!」
「…………は?」

コンビニ帰りだった。
夜中、信号待ちの間に立っていたマンホールがいきなり紫色に光出し、魔方陣のような物が浮かんだと思うと急にマンホールが消えて、長い長い穴に落ち……気づくと城の中に居た。

目の前の人? を見る。
人間ではありえない、青がかった薄灰色の肌。鬼のように尖った二本の角、コウモリのような一対の翼。
人外じみた部分を除けば、豊かに実ったぱっつんぱっつんの露出の激しい胸部と、愛嬌のある顔、こちらに向けてキラキラ輝く瞳、メリハリのついたモデルみたいなナイスバディの娘さん。

「真の……魔王、とは?」
「聞いてください! 大変なんですよぉ!!」

娘さんの言うことには、ここは魔王軍率いる魔族の領地で、各国の暴君に魔族がしいたげられて、大変な目に合っているらしい。
俺は、それをフンフンと、上の空で聞きながら、昔を思い出していた。
……妹が居た。本当に昔の事だ。
サラリーマンとして会社に数年努めて、忙し過ぎて墓参りにも行けてやれていなかった。
俺が中学生に上がったばかりの頃、小学生4年生だった妹は死んだ。元々、体が病弱で病院に入院しており、覚悟はしていたが、本当に呆気なく死んでしまった。
俺が成人して直ぐ、両親も死んだ。高額な治療費を稼ぐため、頑張って働いていた事の無理がたたったのだ。

俺一人、独り身だ。
恋人も居ないし、友人も居ない。

……目の前の娘さんは、どこか妹に似ていた。
愛嬌ある笑顔のせいか、それとも妹も俺にいつもキラキラした眼差しを向けてきたからか。
いや、昔、妹と魔王ごっこを病院でよくしていたからかもしれない。

「いいよ」
「え」
「やるよ。うん……困っているんでしょ?」
「!! はい! とっても困ってるんです!!」

「なら、やる。出来るか分からないけど、それでも力を限りを尽くして——君を助けるよ、うん」

この娘さんは、俺の妹じゃない。
だって、俺の妹はもう死んでいるのだから。

これは現実逃避だ。
しかも世界を跨いで、自分の問題を棚に上げた現実逃避だ。

そんな事は分かっていたが、どうにも衝動が収まらなかった。
妹に似た、この娘さんのために、何かしたかった。

○○○

俺は気づいたら、世界を征服していた。
事の発端となった娘を、はじめとして、多くの魔族が俺に笑顔を向けている。

「魔王様! 本当にありがとうございます!!」
「お腹いっぱい食べられるように、なりました!」
「子供を安心して育てられるように、なりました」
「襲いかかってくる人間から守るために、囮で死ぬ魔族を決めなくてもよくなりました!」
「家族みんなで笑って食卓を囲めるように、なりました」

「本当に、本当に……ありがとうございます、魔王様」
「うん……別にたいしたことはしてないから、大丈夫だよ」

涙ぐんだ顔でこちらを向く娘さん。
俺は、どうにも現実感の無い気分でそう答えた。

……なんで、俺。異世界に居るんだろうか。

その時だった。
俺が立っていた場所、魔族のレリーフが描かれた床が紫色に光りだした。

「魔王様!!」
「なんか、また、呼ばれているみたい。じゃあ、幸せにね」
「!!……っはい! 必ず、必ず幸せになります!!」

大粒の涙を浮かべた笑顔を、一生懸命に目に焼き付けた。
これが報酬で良い。これで、良い。他に何もいらなかった。

……目を開ける。
そこに広がっていたのは……、

「ようこそ、お越しくださいました。勇者様!!」
「うん?」

娘さんが居た。
先程とは別の娘さんで、日本人にはありえないピンクの髪をしている。
……だが、どこか妹に似ていた。

「お願いです。この国では今、邪神の脅威に襲われていまして……どうか、あなたのお力が必要なのです!!」
「……うん、いいよ。俺に出来るか分からないけど、出来る限りを尽くして、君を幸せにするよ」
「!! 本当ですか!?」
「うん」

……どうやら、まだ、俺の現実逃避は続くらしい。
世界征服の次は、世界平和でも目指すかぁ。


おわり

2/26/2026, 9:29:04 PM

『君は今』

君は今、死んでいる。
物言わぬ屍の成り果てて、朽ちゆく定めを待っている。

……それを覆すのは、僕のエゴだと知っていた。
だが、それでもどうか許してほしい。

君の笑顔が二度と見られなくても、君の声をもう一度聞きたいと思ってしまったのだ。

今宵、君はキョンシーとして、生まれ変わる。

○○○

幼馴染が居る。
元気で快活で、男前のイケメンだ。

ネクロマンシーなんていう、根暗な家業の息子に生まれてしまった僕に対しても、関係ないと仲良くしてくれた。

狩りが上手くて、みんなから頼られていて。
僕は少しだけ、彼が疚しかった。嫉妬した。彼みたいになりたかった。

ある日の事だ。
唐突に彼は死んだ。事故だった。
崖の岩が降ってきて、べしゃり。

誰も悪くなかった。
だから、こそ僕は苦しかった。

死ぬ前の日、彼は僕に約束をしていたのだ。

『商隊の旅から帰ってきたら、お前に伝えたい事がある』

少し嬉しそうに、頬を染めながら、彼はそう言っていた。
好きな子でも出来たのだろうか。

僕はドキドキしながら、それを待っていた、待っていたのに。
彼から告げられることは、もう二度とない。

伝えたい事とは、いったい何だったのか。
……泣き寝入りするには、時間に任せて忘却の彼方へ諦めるには、僕の家業が頭から離れなかった。

ネクロマンシー。死体を動かす技術。
決して、死者を蘇生させる訳ではない。
しかし、紛れもなく本人だ。本人なのだ。

ほんの僅か、たった一言でいい。
……君の言葉が、僕は知りたかった。

僕がキョンシーを作る材料を集めるため、父の元を訪れたとき。
父は僕がしようとしていることに対して、何も言わなかった。
肯定もしなければ、否定の言葉も無かった。

ただ、一言。

『人間は、親しい者の死を、すぐさま受け入れられるほど、強くはない……それは、本人自身であっても、だ』
『そして——必ず、その対価を支払うことに、なる』

その言葉が、心に深く残った。
……それでも、辞めるわけにはいかなかった。

「できた」

準備は完了した。
あとは、起こすだけだ。

はじめてのネクロマンシーだ。
知識と手伝いだけは、たくさんしてきたけど。
一からやるのは、今回がはじめて。
……上手くいくのだろうか、いや、絶対に成功させなければ。

バクバクする心臓を抑えつけ、僕は唇を強く噛み締めた。

「——起きて」


そうして、君は今——。


おわり

2/25/2026, 9:07:50 PM

『物憂げな空』

物憂げな空が語りかけてきた。
「眉毛、落っことしたんやけど、知らん?」

……どうやら、空にも眉毛があるらしい。

○○○

もうすぐ春だ。
桜が満開に咲き誇り始めた矢先、雨が降った。
斑にピンクの花弁が絨毯のように散る道路を踏みしめながら、僕は散歩していた。朝の日課なのだ。

ふと、空を見上げた。
真っ白い雲がまばらに存在する青空。
きっと小学生達が、雲を一つずつ指差して、アレは何何の形の雲、とか言い合うのだろうなぁ、なんて思っていた。
……変なモノをみた。
眼だ。しかも、なんかしょんぼりした風な眼。
じっと目があった。なんだろう、これ。
首を傾げていると、脳内に響くような声がした。

「眉毛、落っことしたんやけど、知らん?」

きっと、これは、目の前の空が語りかけてきているのだ。
直感的にそう思ったが、念の為僕はあたりを見回す。
……やはり、誰も居ない。
観念したように、空を見上げて僕は口を開いた。

「僕は見てないですね。どこら辺で落としたんですか?」
「どこやったけなぁ、なんかぎょうさん氷がたくさんあって、空に光のカーテンが揺らめいとったわぁ」

……光のカーテン、オーロラの事だろうか?

「たぶん、南極か北極か……アラスカだと思いますよ」

そう言って僕は、そちら側を指差してみせた。

「ほんま? ありがとうな~」

眼がパチリと瞑ると、まるで童話のアリスに出てくるチェシャ猫のように、空中に溶けて消えた。あとには何も残っていない。

……夢でも見ていたのだろうか。
僕は不思議な気分になりながらも、散歩を続けて家に帰った。

○○○

数日後、ニュースにて『アラスカで巨大な眼が出現!?』という見出しを観た。
どうやら、アレは夢では無かったらしい。

僕はほんわりとお気に入りの湯呑みを片手に持ちながら、眉毛が見つかっていたらいいなぁと思った。


おわり

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