『物憂げな空』
物憂げな空が語りかけてきた。
「眉毛、落っことしたんやけど、知らん?」
……どうやら、空にも眉毛があるらしい。
○○○
もうすぐ春だ。
桜が満開に咲き誇り始めた矢先、雨が降った。
斑にピンクの花弁が絨毯のように散る道路を踏みしめながら、僕は散歩していた。朝の日課なのだ。
ふと、空を見上げた。
真っ白い雲がまばらに存在する青空。
きっと小学生達が、雲を一つずつ指差して、アレは何何の形の雲、とか言い合うのだろうなぁ、なんて思っていた。
……変なモノをみた。
眼だ。しかも、なんかしょんぼりした風な眼。
じっと目があった。なんだろう、これ。
首を傾げていると、脳内に響くような声がした。
「眉毛、落っことしたんやけど、知らん?」
きっと、これは、目の前の空が語りかけてきているのだ。
直感的にそう思ったが、念の為僕はあたりを見回す。
……やはり、誰も居ない。
観念したように、空を見上げて僕は口を開いた。
「僕は見てないですね。どこら辺で落としたんですか?」
「どこやったけなぁ、なんかぎょうさん氷がたくさんあって、空に光のカーテンが揺らめいとったわぁ」
……光のカーテン、オーロラの事だろうか?
「たぶん、南極か北極か……アラスカだと思いますよ」
そう言って僕は、そちら側を指差してみせた。
「ほんま? ありがとうな~」
眼がパチリと瞑ると、まるで童話のアリスに出てくるチェシャ猫のように、空中に溶けて消えた。あとには何も残っていない。
……夢でも見ていたのだろうか。
僕は不思議な気分になりながらも、散歩を続けて家に帰った。
○○○
数日後、ニュースにて『アラスカで巨大な眼が出現!?』という見出しを観た。
どうやら、アレは夢では無かったらしい。
僕はほんわりとお気に入りの湯呑みを片手に持ちながら、眉毛が見つかっていたらいいなぁと思った。
おわり
2/25/2026, 9:07:50 PM