白井墓守

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1/16/2026, 1:06:58 AM

『この世界は』

この世界はゴミカスである。
とっくの昔に腐り果てたヘドロに成り果てたのだ。

ゾンビの一日は、ドロドロに熔けた体をかき集めることから始まる。
溶き卵みたいになっている自身の身体……だと思うものを、まるで粘土でプリンの山を作るように一生懸命に形作る。
そしてようやく自分の身体となって、目が見えて口が聞けるようになる。

「あー、あああー??」
「ようやくお目覚めかよ、ウケる」

声のした方を見る。
真っ青な顔色に、傷一つない美しい滑らかな肌。
ビリビリに破れた中二病が憧れる黒いコート。
猫のような目付きの青年が、そこにいた。

「仕方ないだろ、お前みたいな強化ゾンビとは違うんだ」
「眠るたびにドロドロになるとか、弱ゾンビ達は大変ですなぁ(笑)」

からかうような態度とは裏腹に、こちらに手をさしのべてくれる辺りが性根の良さを浮き彫りにする。
有りがたくその手を取って、腰を浮かせて立ち上がる。
ちなみに、独りで立ち上がろうとすると、半分の確率でつるっとすべってもう一回からだの形成からやり直しだ。

「ほんと。俺が幼馴染みだった事にありがたく思えー?」
「はいはい。めちゃくちゃ感謝してるよ、まじで」

僕たちは、幼馴染みだ。
そして、ゾンビだ。

……世界は腐り果て、人類はみなゾンビになった。
世界大戦がおき、核兵器に次いで科学兵器が使われた末路がコレだった。
人類は傲慢な態度の対価を支払ったのだ。

「……なぁ、アレ……なんだ?」
「ん?」

……女の子だ。しかし、おかしい。ありえない。

ゾンビには特有の青白い肌がある。
しかし、その女の子は真っ白い肌をしていた。
そう、人間の肌、なのだ。

「あれ……ここは、どこなのかしら?」

目が合う。
おそらく、ここが僕たちの運命の分岐点だった。
この出会いは、世界の運命を変えるきっかけとなる。

これは、特異点の女の子と、ゾンビとなった世界で、ゾンビを人間に戻すために世界と立ち向かうお話。


……続かない。

おわり

1/14/2026, 11:59:00 PM

『どうして』

どうして、と溢した言葉は泡となり消えた。
遅すぎたのだ――全てが。

揺らめく視界に思わず苦笑する。
それはいつもの光景で、残った罪悪感だ。

「また、そんなものを見ているのか」

掛けられた声に振り向く。
精悍な顔つきの逞しい肉体をした青年。
……しかし下半身には二本の足ではなく魚のような尾があり、また露出した上半身や顔には鱗のようなものが所々に存在する。
つまり、彼は伝説でいうところの人魚、もしくは魚人という存在なのだ。
見た目も若々しく二十歳頃の青年に見えるが、実のところは数百年を生きているとのこと。

「この貝で出来た夢眼鏡は、とっても面白いね。いつまで見てても飽きないや」
「ニンゲンとはよく分からんな。ほら、飯にしよう。ニンゲンはこまめに食べないと死んでしまうのだから」
「ありがとう」

カラフルな珊瑚礁の中、テーブルのような形をした珊瑚に、椅子のような形をした珊瑚。
大きなシャボン玉の泡の中には酸素があって、喋ることも歩くことも、息を吸うことも出来る。
食卓の上に並べられたワカメや貝などの素材。最初は生で出されていたが、苦言を呈して料理を教えるとワカメのスープやホタテのバターソテーなど火を通したものが出されるようになった。
彼はとても聡明で好奇心が強く、融通がきく性格なのだろう。また、人魚の中でも変わり者らしい。こんな人間の面倒をみて一緒に暮らしてくれるほどに。

「……まだ、諦めないのか」
「うん」

ポツリと溢された言葉に、僕は頷いた。
彼の瞳に心配そうに懸念する色をみた。
有難いと思う、そして申し訳なく思うも僕は止めるつもりはなかった。

「……ニンゲンの寿命は短い。それに、オレにはお前が背負うべきでは無いように見えた。それでもか」
「うん。たとえ前世の僕でも、僕だと思うから。それに……今もどこかで待っている気がして、放っておけないんだ」
「はぁ、難儀だな。お前というヤツは」

人魚姫の話を知っているだろうか。
アレは実話だ。

僕は愚かな王子側で、人魚姫が泡になるのを止められなかった。
気づいたときには遅かった。あの子は既に泡と化してした。
前世の王子だった僕は失意の内に死に、それは未練となって今世の僕に引き継がれた。

ただの奇妙な夢かと思っていたが、人魚の彼に出会って僕は確信した。
アレは夢じゃない。本当にあった事なのだと。

「人魚姫の転生、か。ヒトの身で探すなど、珊瑚の中から金で出来た真珠を探すようなものだ」
「うちではそれを、砂漠の中から一粒の砂金を探すようなものって言うね」
「笑い事か……全く、宛もないのに」

そういって眉を寄せる彼に僕は笑う。
あぁ、本当にそっくりだ。
ぶっきらぼうな口調でお人好しなところも、苛立っているような顔で心配しているところも、そしてキリッとした目元と鱗の色もまさに。

「まあ、大丈夫だよ。君がいれば、それで」
「はぁ? ニンゲンとは、よく分からんな……」
「あはは」

人魚姫の話は本当だと僕は言ったが、たった一つだけ訂正しなければならないことがある。
それは――王子を救った人魚姫が女性ではなく男性だった事だ。
そう……今、目の前に居る彼のように。

「やっと会えた……今度こそ君を幸せにするよ」
「? なんだ、小声で何か言ったかニンゲン」
「……いいや、なんでもないよ」
「そうか」

僕は笑う。
ところで君、なんで格好いい姿なのに、そんなに声は可愛らしい美少女声なの? お陰でずっと女性だと思ってたんだけど??


おわり




1/14/2026, 3:49:44 AM

『夢を見てたい』

夢とは、いかなる味がするものか。
甘いのか、辛いのか、それとも無味無臭のものか。
もしも味が無いのに噛み続けるのなら、それはどんな行為なのだろうか。惰性だろうか、執着だろうか。

あぁ、夢を見てたい。
そんな自分になりたかった。そう思う。
だが、ふとして気がつくのだ。
……これこそが、自分の夢なのでは? と。
口のなかでグツグツと笑った。失笑だ。
夢を見るのが、自分の夢なんて。まさに滑稽極まりない。

――結局のところ、私はニンゲンモドキに過ぎないのだ。


「おい。オマエの夢はなんだ。ニンゲン」
「ん? そうだなぁ。お腹いっぱい、ご飯を食べることかなぁ~」

足元でニンゲンがニコニコと笑っている。
冒険者、と呼ばれるチクッとする棒切れを持ったオトコだ。

「食べればいいじゃないか、ニンゲン。土も木も岩も、世界にはたくさんあるじゃないか」
「ん~。ドラゴンと違って、俺たちは土や木とかは食べられないだよな~」
「……なんだそれは。誠に奇っ怪な生き物だな、オマエは」
「伝説の存在であるドラゴンに言われちゃうとはねぇ~」

訝しんでドン引きした私に対して、お腹を抱えてケラケラと笑うニンゲン。
ちょっと前に森で出会ったこのニンゲンは、とても変わっている。
普通、私を目の前にしたら泣き叫んで逃げるか、不気味に笑って体にへばりついてくるかの二択なのに、このニンゲンは目をキラキラ輝かせて話しかけて来たのだ。
それから、たまに森で話すようになった。

「俺らの関係も、もう十年か~」
「あぁ、たったの十年だな」
「あはは、流石ドラゴン~」

ふと、ニンゲンが笑うのをやめた。真剣そうな眼差しでこちらを見て口を開く。

「俺さ、夢があるんだ。子供の頃からの夢」
「? なんだ、それは食えるのか?」
「食べられないよ。だって、夢は見るものだから」
「??」
「俺はね――」

そういってニンゲンは夢を語った。正直、下らないと思った。
だけど、言うのだ。この夢を見てたい、と。

……少しだけ、憧れた。

アイツが、あのニンゲンが死んだ。寿命だった。
だから、この地から飛び立とうと思う。

目的は一つ。
夢を、探しに。

『俺、ドラゴンと友達になるのが夢なんだよね。俺ら、友達になれたかな』

私は答えることが出来なかった。友達というものを知らなかった。嘘をつきたくなかった。

「私とオマエは友達だったのか。それを知るために、私は旅に出るよ」

アイツの墓という石の塊を鼻息で撫でる。
墓に植えられたピンクの花が、優しく揺れている気がした。


おわり

1/12/2026, 7:08:23 AM

『寒さが身に染みて』

寒さが身に染みて、心が風邪を引きそうだ。
とは、人生で一度は聞いたことがあるセリフだとは思う。
実際に現在進行形で、自分はそれを味わっている。

「なんでかき氷の中に埋められてたんだ、俺は」
「ほら、夏に言ってたじゃん? 暑すぎて、かき氷に埋まりたーい!って。最近、作れたから早速埋めてみたよ!」
「だからって真冬にするのは辞めてくれ、死ぬ」

「いや、もう死んでるけどね」
「…………は?」

寒さが身に染みて実際に凍死した俺が生き返るためにゾンビチートでツエーした件について。



……続かないどころか、はじまらない。
おわり

P.S. ネタ浮かばなかった。時間もなかった。

1/11/2026, 1:18:45 AM

『20歳』

僕は20歳になった。

だから何だと言うのだろう。
結局のところ、僕は何も変わっていない。
今も昔も、僕はあの頃の僕のままなのだ。

成人式の様子が、テレビの中で写し出されている。
僕はそれを炬燵の中でミカンを剥きながら観ていた。
外は雪が降りだし、僕はそれを積もりそうだなぁ、なんて気持ちで、ただただ眺めていた。

「君は行かなかったんだねぇ、成人式」
「先生」
「あ~よっこらしょいっと~」

山羊によく似た髭を持つ、僕の三倍は生きる先生。
老人とは思えないハスキーな渋い声で、炬燵に入ってきた。

「……説教ですか」
「いやいや。私はねぇ、説教なんて出来るほど、大した身分じゃないからねぇ~。あ、ミカン美味しい」
「……僕が剥いたんですけど」
「まあまあ、いいじゃあ~ないのぉ~」

ニコニコとしながら、先生は剥いていたミカンを食べてしまった。全て。
……やっぱり、怒ってるんじゃ。

「先生。僕は二十歳になりました」
「だねぇ。お酒とかも、飲めちゃうねぇ~」
「煙草も吸えます……いや、そうじゃなくて」
「ん~? どうしたのぉ~??」

ゴクリと唾を呑む。自然と拳に力が入っていた。

「大人になるって、なんですか。それは、子供と何が違うんですか」
「……それはねぇ」
「…………はい」
「わっかんないねぇ!!」
「…………は、はぁ!?」

ケラケラと笑う先生に、僕は口をひん曲げて青筋を額に浮かべながら、先ほどより強く拳を握った。震えている。
気持ちを落ち着かせるために、先生を視界から外して大きく深呼吸をした。三回だ、三回!!

「先生、ギャグですか」
「違うよ~。あのねぇ、君」
「はい」
「私と君、どっちが大人だと思う~?」
「……先生です」
「本当にぃ~? じゃあ、それは何でぇ~?」
「先生の方が、大人……だから、です」
「じゃあ私と君が同い年だったら、どっちが大人かなぁ~?」
「えっ…………それは、その、わ、分かりません」
「きっとねぇ、君の方が大人だと思うよぉ~?」
「なんで、ですか」

僕が口許をきゅっと結んで唇を噛み締めながら聞くと、先生はまなじりを下げて優しい笑顔でこう言った。

「二十歳になったからって、直ぐに大人になろうとしなくたって良いって事さぁ」

「……意味分かりません、そもそも質問の答えになってないと思います」
「まあまあ、ミカンを食べようじゃあ、ないの~」
「僕が剥いて、ですか」 
「そう、君が剥いて」
「あはは、なんですか、それ」
「笑ってくれて、私は嬉しいよぉ~」

先生の言葉に、僕は自分が久しぶりに笑ったことに気づいた。
そっか。いいのか。

「先生も剥いてくださいよ」
「仕方ないねぇ~」

二人でミカンを剥きながらテレビを眺めて笑いあった。
そんな何気ない、どこにでもありそうな日が、僕の成人の日。
僕は、きっとこの日の事を、一生忘れないだろうと思った。


おわり

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