白井墓守

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11/7/2025, 2:02:02 AM

『冬支度』

「冬支度しようと思う」
「冬支度って、どういう意味か知ってる?」
「知らん」
「…………」

最近の季節の変わりようは、すごかった。
暑い夏が終わって秋が来るのかと思いきや、飛び越えて寒々しい冬が来たのだから。

押入れから冬用の厚みのある布団を取り出し、クローゼットにしまった半袖を長袖に取り替えていく。
薄手のコートを取り出しつつ、マフラーと手袋は今はまだ良いかと横に避けつつも直ぐに取り出せるように前の方へ仕舞った。

「で、冬支度って言ってたけど、君は何をするの?」

隣で腕を組みながら頭を抱えて唸る彼に対して、僕は着なくなった夏服を折りたたみつつ、そう聞いた。

「アレだな……冬といえば……」
「冬といえば?」

カッと、目をかっぴらく彼。
うん、こわい!

「鍋、だな」
「…………な、べ???」

呆気に取られる僕に対して、彼は自分のスペースからモリを取り出す。随分と立派で手入れされているそれは海で使う物のようだ。

「え、まって、待って。な、な、なに? え??」
「ん? ほら、鍋の材料を狩ってこないと、だろ」

僕が慌てて止めると、彼は不思議そうに首を傾げてみせる。

――なんでお前が自分で狩ってんだよ。

「あー、うん。まだ、鍋はちょっと、はやいと思う」
「そうか?」
「…………うん」
「そうか、わかった。食べたくなったら言ってくれ、狩ってくる」

いや、買って来てくれ。頼むから。

何も言わず無言で苦笑いする僕。

どうやら、うちの同居人の冬支度は胃袋に限定され、かつ自分で食材を狩ってくるのが基本スタイルらしい。

「ぼく、いつのまに、バーバリアンとシェアハウスしたんだろう……?」
「ん? なにか言ったか?」
「いえ、べつに、ナンデモナイヨ、ハハハ」

乾いた僕の笑い声だけが、晩秋の空に溶けていった。


おわり


11/5/2025, 11:10:22 PM

『時を止めて』

時を止めて何ができると言うのか。

思考というものが、脳伝達によるものだというのならば、きっと時が止まった空間で、我々は思考すら出来ないだろう。
いや、もっと言うなれば……。

――我々は、時が止まった事にすら気がつけないだろう。

「だから、時が止まっても無意味だ」
「あなたって、ときどき無性に情緒に欠ける発言をするわねぇ……今ここで時が止まれば良いのに、は比喩表現だというのにねぇ……」

「残された時と未来を、今を大事にして生きていたい。君と思い出を紡ぎたい……架空の意識もない永遠というものより、私は具体的な実現性のある未来を君と描きたいのだが」
「あら、素敵。惚れ直しちゃうわ」


おわり

11/5/2025, 12:42:46 AM

『キンモクセイ』

「キンモクセイって、なーんだ?」
「ええ、クイズのレベル低すぎだろー」
「はは、やっぱり分かっちゃうかぁ」
「そりゃ、知らない方がヤバイからなぁ……」

「「この星の名前、禁木星!!」」

これは、随分と先の地球の未来。
木の資源が枯渇しそうになり、木製の物が禁じられた世界。
割り箸は愚か、家や椅子などの家具すらも木製から別の素材になった世界。
禁木星と呼ばれるようになった星に住む、未来に住む世界の人々の話。

……続かない。

おわり

11/3/2025, 12:07:19 AM

『秘密の標本』

秘密の標本というものがある。
誰しもが秘密を抱えている。

そんな秘密の標本を眺める事が出来る。
標本室への鍵を――僕は持っている。

逢魔が時。
僕は手渡された。
ただ道を聞かれて教えただけの仲で、たった数分話しただけの仲で……そして、数秒前に呆気なく頭を銃で撃たれて死んだ人に、僕は手渡された。

次の継承者は……君だ、と。
僕に手渡された、それが……秘密の標本室へ鍵だ。

これを使えば、どんな有名人の秘密をも握って、世界を自分の意のままにする事が出来る。
だからこそ……この鍵を狙う悪人が多く存在するって事だ。

どうして、どうして僕なんかに?
僕は至って普通の高校生だ。
他のクラスメイトのように学校から表彰されるような事はした事がないし、実はちょっとビビリで小心者だ。

でも、鍵は僕の手の中にあった。

……どうしよう、どうすれば良いのだろう。
僕は頭を抱えながらもとりあえず学校へと向かう。

その姿を付け狙う視線に気が付かないまま。


これは、僕が新たに出会う仲間を始めとして、みんなと悪から秘密を守るために戦う話だ。


おわり

11/2/2025, 6:10:17 AM

『凍える朝』

凍える朝がやってきた。
昨日の出しておいたボールに入っていた水の、表面が薄く凍っている。
窓のしたにはつららが生まれてきていた。
小さな片手鍋でお湯を沸かして、ココアを飲む。
ひんやりとした身体に染み入るような甘さと暖かさ。

そう、こんな日々がつい、つい先日……から?

「で、こんな冬の朝が2年も連続で続くのって可笑しくない?」
「いや、気づくの遅すぎか」


おわり

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