霜月 朔(創作)

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9/7/2025, 6:52:28 AM

誰もいない教室



夕暮れが迫る、
誰もいない教室。
貴方の教え子も、
貴方もいない教室。
酷く静かな、空間。

もし、私が。
ずっとずっと、
貴方の教え子で居られたら、
貴方は私だけを、
見続けてくれたのですか?

自分の名前もまともに書けない、
幼いままの私であったなら、
今でも尚、貴方は、
幼い貴方の教え子達のように、
繰り返し、私の手を取り、
文字を教えてくれましたか?

そんなことを言ったとて、
きっと貴方は、
少し困った顔をして、
視線と話を逸らせたでしょう。

だから。
貴方が、永遠に、
私だけを見てくれるように、
他の教え子に、
視線や心を向けないように、
貴方の時間を止めました。

私が銀色の刃を握り、
貴方の胸に、
真紅な薔薇を咲かせると、
貴方の生命の赤が、
止め処なく溢れ出し、
私の身体を朱に染めました。

誰もいない教室。
この教室に、貴方の声は、
二度と響きません。

だって、貴方は、
私と二人だけの世界で、
私だけの「先生」に、
なったのですから。

9/6/2025, 5:39:55 AM

信号



誰も居なくなった街に、
静かに流れるのは、
風が奏でる、滅びの歌。

人々が行き交い、
子供の笑い声が響いたのは、
もう、過去の事。

人間の去った街は、
自然へと還っていく。
人の気配は、
緑に覆われていく。

朽ちていく。
記憶と共に。
哀しみの涙の雨に、
崩れ行く街が滲む。

誰も居ない街に、
赤と青の灯りが、
孤独に光る。

誰にも見られない、
なのに、動き続ける信号。
私の心の中に、
赤と青が滲む。


9/5/2025, 6:05:55 AM

言い出せなかった「」



秋の空は、何処までも高く、
少し涼しくなった風が、
罅割れだらけの、
私の心を吹き抜ける。

どんなに後悔しても、
逆さに時は流れない。
なのに、私の心は、
そんな理さえ、
見えない振りをする。

お前は、あんなにも、
私に微笑みかけ、
側に居てくれていたのに、
言い出せなかった、
「お前を愛している」。

怒りで我を忘れ、
お前を傷付けておきながら、
自分の非を認められず、
言い出せなかった、
「私が悪かった」。

お前は、こんな私に、
再び手を差し伸べてくれたのに、
どうしても素直になれず、
言い出せなかった、
「もう一度やり直そう」。

私の心の中には、
お前に言い出せなかった、
「」達が、
瓦礫のように、
重たく積み重なっている。

そして、私は、
後悔に雁字搦めになって、
ただ、立ち尽くす。
言い出せなかった「」。
終わった恋の、墓標。

9/4/2025, 7:10:20 AM

secret love
 

私と君の恋は、
誰にも言えない、
秘密の恋。

だって。貴方と私は、
周りから見たら、
恋人同士じゃない。
只の友達なんだから。

偽りの恋を飾るように、
作り物の愛の言葉を紡ぐ。
それはまるで物語のように、
美しい紛い物の宝石。

私は君を抱き締める。
過去の恋から逃れたくて、
今、眼の前にいる君が、
本当の恋人だと、
自分自身に魔法をかける。

君の瞳は、
過去の恋を見たままで。
君の心は、
過去の誰かを愛したままで。
それでも私の腕の中で、
甘く蕩けた声を溢す。

何処にも存在しない。
でも、
今、ここに確かに存在する、
罅割れた心を埋めるだけの、
秘められた恋。

それでも。
君を愛してる。
君の耳元に、そっと、
媚薬のような言葉を囁き、
今夜も永遠の夜に倒れ込む。



9/3/2025, 9:39:16 AM

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