まだ見ぬ世界へ!
最後の声
貴方は、どうして、
こんな醜い世の中で、
傷付き、苦しみながら、
生きようとするのですか?
世の中から弾き出され、
人として生きる事が出来ずにいた、
傷だらけの私に、
救いの手を差し伸べ、
私を人間にしてくれた、貴方。
そんな貴方は、
私の全てとなったのです。
貴方の為なら、私は、
悪魔に刃を向け、
天使を殺める事さえ、
躊躇わないでしょう。
しかし。
残酷な人間ばかりが蔓延る、
現し世に生きていくには、
貴方は優し過ぎたのです。
ですから。貴方に、
永遠の安寧を与えましょう。
この世に別れを告げ、
私と共に彼方へ行き、
永遠を生きましょう。
貴方の魂を救う為に、
貴方の身体に、
銀色に輝く刃を沈めます。
貴方の呼吸は小さくなり、
鼓動は緩やかに止まります。
貴方の口唇が、
言の葉を紡ごうと、
小さく動きます。
貴方から溢れる最後の声は、
私への愛の言葉である事を、
願いながら、
私は貴方に微笑み掛け、
この世に別れを告げます。
小さな愛
幼い頃は、
ずっと君と一緒にいた。
嬉しいことも、楽しいことも、
一緒に体験して、
辛いことも、悲しいことも、
一緒に乗り越えて。
泣き虫だった君を護ろうと、
繋いだ君の手は、
少しずつ、大きくなって。
気が付けば、君は、
すっかり大人になって。
君の隣には、
俺の知らない男がいた。
ずっと子供の頃のままの俺。
すっかり大人になった君。
兄弟の様に一緒にいた、
柔らかい二人の時間は、
セピア色の記憶の彼方。
子供の頃のように、
ずっと君を護りたかった。
そのことに、
漸く気が付いたけど、
もう、戻れない。
せめて。兄として、
君の幸せを見守りたいから。
君を奪いたい衝動を、
心の泉の底に沈めて、
大人の振りをして、
君に微笑み掛けるんだ。
それでも、
どうしても、忘れられない。
小さかった君の手のひら。
優しい温もり。
そして、小さな愛。
空はこんなにも
私の知っている空は、
いつも人の憎悪が渦巻き、
薄暗い灰色の雲に、
覆われていました。
世の中は、
私の様な歪な人間を、
忌み嫌い、排除し、
青い空を見る自由さえ、
与えてはくれません。
貴方は、そんな私に、
救いの手を伸ばしてくれました。
私は少しずつ、
人間になろうとしていました。
ですが。
傷付いた私や貴方が、
生きていくには、
この世は、綺麗過ぎました。
だから。
私は貴方を連れて行きます。
私と貴方が、
生きることを赦される、
彼方の世界へ。
もう、これ以上、
人の憎悪の刃に、
傷付かなくていいように。
貴方の胸の音が止まるのを、
身体で感じながら、
貴方の呼吸を奪います。
そして、
何故か溢れる涙を堪えて、
天を仰ぎます。
最期に貴方と見た、
空はこんなにも、
高くて、青くて、
そして、とても残酷でした。
もうすぐ、私も。
貴方の元に…。
子供の頃の夢
お腹いっぱいご飯を食べたい。
温かい部屋で眠りたい。
優しく抱き締められたい。
幸せな子供には、
当たり前の願いさえ、
要らない子のボクには、
手の届かない、
綺羅星の様な願い事。
いつの間にか、
願う事さえ諦めた、
小さな夢の欠片たち。
何処かに無くしてしまったと、
思っていたのに。
闇の中で過ごしてきて、
何度も、生きる事さえ、
諦めそうになって。
人の悪意と憎悪の汚泥の中に
漸く見付けた、
僅かな、光。
その光に憧れて。
痩せた大地の中から、
芽を出そうと藻掻く
小さな若芽の様に、
ボクは必死に手を伸ばす。
小さな、小さな、光。
きっと。これは、
ボクが抱くことさえ、
許されなかった、
……子供の頃の夢。