霜月 朔(創作)

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小さな愛


幼い頃は、
ずっと君と一緒にいた。

嬉しいことも、楽しいことも、
一緒に体験して、
辛いことも、悲しいことも、
一緒に乗り越えて。

泣き虫だった君を護ろうと、
繋いだ君の手は、
少しずつ、大きくなって。

気が付けば、君は、
すっかり大人になって。
君の隣には、
俺の知らない男がいた。

ずっと子供の頃のままの俺。
すっかり大人になった君。
兄弟の様に一緒にいた、
柔らかい二人の時間は、
セピア色の記憶の彼方。

子供の頃のように、
ずっと君を護りたかった。
そのことに、
漸く気が付いたけど、
もう、戻れない。

せめて。兄として、
君の幸せを見守りたいから。
君を奪いたい衝動を、
心の泉の底に沈めて、
大人の振りをして、
君に微笑み掛けるんだ。

それでも、
どうしても、忘れられない。
小さかった君の手のひら。
優しい温もり。
そして、小さな愛。

6/26/2025, 7:28:47 AM