冬になったら
秋色に染まる街角を、
冷たい秋風が、
静かに吹き抜けていく。
風が運ぶ冷たさが、
私の心も、凍えさせる。
冬の足音が聞こえる街で、
今年も私は、独りきり。
嘗て隣にいた、貴方の温もりは、
もう、遠い記憶の向こう側。
「二人なら寒くないね」と、
寒がりの貴方を抱き締めた日々。
触れる度に、少し恥ずかしそうに、
微笑むその顔が、今でも愛おしい。
抱き寄せた貴方の温もり。
指先から伝わる優しさが、
まるで昨日の事の様に、
胸の奥で蘇り、心を締め付ける。
けれど。
どんなに願っても、
もう二度と戻れない。
貴方が隣に居てくれる、
温かくて幸せな日々。
今でも、貴方を愛してる。
この気持ちを、
そっと呟いてみる。
だけど、その声は、
きっと貴方には届かない。
冬になったら。
貴方は思い出してくれるかな?
…貴方の隣にいた私を。
…あの、幸せだった日々を。
冷たく、孤独な季節が、
私の心を、静かに覆い尽くす。
貴方の居ない冬が、
また、静かに巡ってくる。
はなればなれ
君に初めて出逢った日から、
君は、俺の憧れの光だった。
友達になっても、
その光は消えることはなく、
心の奥でずっと輝き続けてる。
幾つもの偶然と奇跡が重なって、
君と俺は出逢ったけど、
本当は交わる筈のない二人。
君と俺の生きる世界は、
本当は、離れ離れだって、
そんな想いが、俺を縛ってる。
それでも今は、
君の近くにいられる。
真剣な眼差しで、未来を見据える、
君のその横顔を、
近くで見詰められるだけで、
俺は、心が満たされるんだ。
君の隣に立つ資格なんてない。
それでも、君の近くで、
君の影のように生きていける。
それで、俺は幸せなんだと、
自分に言い聞かせる。
けれど、もし。
これから先、君と俺が、
離れ離れになる日が来ても、
君を想うこの心だけは、
永遠に、変わらないから。
君に出逢えたという、
この奇跡を抱き締めて、
ずっとずっと。
君の幸せを願うよ。
子猫
暖かな休日の昼下がり。
お前の膝の上で、
一匹の子猫が遊んでる。
気儘に動き回る小さな身体に、
お前の心は奪われ、
優しく笑っている。
肉球がふにふにだ、とか、
瞳が硝子玉みたいに綺麗だ、とか。
愛らしい子猫の、
仕草のひとつひとつに、
お前はすっかり夢中だ。
そんなお前を見詰めながら、
お前の笑顔は、オレにとって、
こんなにも、大切で、
愛おしいものだったんだ、と。
改めて、思い知らされたんだ。
…可愛いな。
つい、漏らしたオレの言葉に、
お前は、子猫を抱き締め、
…本当に可愛いな、と、微笑む。
きっと、お前は、
考えもしないだろう。
オレが可愛いって言ったのは、
その、小さな命じゃなくて、
お前のその無邪気な笑顔のこと。
…だ、なんて。
お前も…いつかは、
気付いてくれるのかな。
オレが、ずっと見てるのは、
お前の笑顔だ、って。
秋風
秋風が冷たく吹き抜ける。
凍えた私の心に、
更に、冷たさを刻む様に。
街はすっかり秋色に染まり、
冬の気配を纏う秋風が、
無遠慮に頬を撫でる。
肩を寄せ合う恋人達。
手を繋ぐ親子連れ。
その温もりを確かめるように、
足早に行き過ぎる。
そんな人の波の中。
私は…ただ独り。
私の隣に『彼』がいた日々は、
遥か遠い記憶の中。
寒がりの私を包み込み、
「二人なら寒くないね」と、
優しく微笑んでくれた、
彼の温もりは、もう戻らない。
掌に残るその感触だけが、
今も鮮やかに蘇る、
愛しく切ない想い出。
だが。
『彼』はもう、
私の隣にはいない。
季節が幾度巡っても、
空いたままの…私の隣。
「独りでも大丈夫」と。
自分に嘘を吐く事にも、
すっかり慣れてしまった。
秋風が冷たく吹き抜ける。
彼の居ない寒く冷たい冬が、
また、静かにやって来る。
また会いましょう
貴方は私の全てでした。
私に色々教えてくれた、
温かい声。
私の頭を撫でてくれた、
優しい手。
私を見守ってくれた、
穏やかな瞳。
私に注がれた、
貴方からの全ての愛。
それが、絶望に居た私を、
生かしてくれたのです。
私は貴方を愛しています。
ですが。
貴方にとって、私は、
可愛い教え子でしか、
なかったと知りました。
貴方の心には、
私ではない男が住んでいて。
その男が、
貴方の心を守っていたなんて。
でも、大丈夫です。
これからは、私が貴方を守ります。
貴方の隣に立つのは。
貴方の心を守るのは。
あんな男より、
私の方が相応しい事を、
貴方に教えてあげます。
私と別の世界へ行きましょう。
そこには、
貴方を苦しめる世間も、
私から貴方を奪う男も、
私を狂わせる悪魔も、
居ない筈、ですから。
真っ赤に染まる貴方。
閉じられた瞳。
冷たくなっていく身体。
私は貴方の血で、
真っ赤に染まったナイフを、
自らの胸に押し当て、
目を閉じます。
新しい世界で、
…また会いましょう。