きっと明日も
買い物の帰り道。
街中は綺麗な夕焼けの、
オレンジ色に染まってた。
街を行き交う人々は、
何処か急ぎ足。
きっと大切な人の待つ家に、
帰るんだろう。
だけど、俺は…。
独りぼっち。
俺の隣は、ずっと空いたまま。
失恋の傷跡がちくりと痛む。
空を見上げると。
夕焼け色の空は、
少しだけ夜に近付いてて、
一番星が、輝いてた。
だから。
『きっと明日も、
良い日になるよ』って、
涙堪えて、茜色の空を眺めて、
そっと、呟いてみる。
『ほらね?
さっき迄あんなに悲しかったのに、
不思議と元気が出て来たでしょ?』
俺は俺に、魔法をかける。
きっと明日も、
…良い天気。
静寂に包まれた部屋
独り、書類に向かい合います。
窓の外は、夜の闇を纏い、
半月は、西の空へと傾き、
星々が煌めいています。
私の目の前には、
山程の領収証と帳簿。
見たくない赤い数字。
深夜になっても、
終わらない書類の山。
皆が寝静まる深夜。
襲い来る疲労感。
耐え難い眠気。
思わず、溜息が溢れます。
空に瞬く星の様な、
貴方の美しい瞳を。
初夏の木漏れ日の様な、
貴方の明るい微笑みを。
護る事が出来るのなら。
どんな辛い事も、
私は、耐える事が、
出来るのです。
夜の静寂に包まれた部屋に、
私の声が、小さく響きます。
普段は決して、
言の葉に乗せてはならない、
そんな想いを。
今だけは、口にする事を、
許して下さい。
貴方を…愛しています。
別れ際に
久しぶりに再会した、
懐かしい、幼馴染。
子供の頃から、君の事を、
憎からず思ってたけど、
ずっと言えないまま、
それぞれ、大人になって、
それぞれ、故郷を離れた。
何年も経って再会した君は、
すっかり大人になってた。
泣き虫で、怖がりで。
直ぐに俺の背中に隠れてた君は、
何時の間にか、優しくも、
しっかり者になってた。
俺は君の事を、
忘れられずに居たけれど、
気になってたのは、
俺だけだったみたい。
暫く会わない間に、
君には、恋人が出来てた。
君との別れ際。
思わず『またね』と言いそうになって、
慌てて、言葉を飲み込む。
君と俺。
これから二度と交わらない道を、
歩いて行くんだから。
別れ際に贈る言葉は、
『さよなら、元気でね』。
…君の幸せを、
遠くから、祈るよ。
通り雨
街で偶然見掛けた、
昔の恋人。
彼の隣には、
優しい笑顔で微笑む人。
絡める様に手を繋ぎ、
親しげに話しながら、
街を歩いて行く。
独りきりで眺めている私になんか、
気付く事もなく、
想い出のあの人は、
新しい恋人と街に消えて行った。
私の頬を、涙が伝う。
もう、忘れた心算だった。
涙なんか疾くに涸れたと思っていた。
なのに、涙が零れ、胸は痛む。
通り雨が降り出す。
さらさらと僅かに音を立てて、
街を、道を、木々を、
そして、私を。
別け隔てなく濡らす。
傘を差すことなく、
街を歩き続ける。
雨粒が、情けなくも涙に濡れた、
私の頬を隠してくれる。
そんな気がした。
止まぬ雨は無い。
そんな言葉なんて、
今の私には、到底、
信じる事は出来ない。
秋🍁
冬は、死の季節。
緑は枯れ、葉は落ち、
…そして朽ちる。
そんな冬を前に、
生き物は、秋という季節に、
限られた生を享受する。
秋の赤や黄色に、
美しく彩られた景色は、
まるで、モノクロの冬を迎える前の、
最後の晩餐の様だ。
秋は…美しい。
風に揺れる曼珠沙華、
それは、忍び寄る、
冷たい冬という死の気配。
でも、きっと。
大切な君と一緒なら。
死の国の、地獄の業火さえ、
この見事な、秋の赤の様に、
美しく見えるだろう。
私は、大丈夫だよ。
君が望むなら、
私は、何処へでも、
一緒に行くから。
だから。
繋いだこの手を、
決して、離さないと、
約束して欲しい。