街の明かり
この山の中腹から、見下ろせる街には、
夜になると、暖かい色の明かりが、
幾つも灯ります。
暖かな明かりの数だけ、
幸せな家庭があるのでしょうか?
家族が仲良く食卓を囲み、
親と子が楽しく語らい、
夫婦がそっと肩を寄せ合う…。
そんな街の明かりを、遠目に見下ろし、
今宵も私は山の中に、独りきり。
私も、私の為に明かりを灯します。
野生動物から身を護る為にも、
不可欠な焚火の明かりは、
真っ暗な山の木々を、黄橙色に照らします。
孤独な私をも照らす焚火の炎は、
街の明かりにも似て、
こんなに暖かな色をしているのに。
その明かりに照らされている私は、
全く、幸せではないのです。
何時か。こんな私でも。
街の片隅に住処を持ち、
大切な人と、部屋に明かりを灯して、
あの、切ない程に幸せそうな、
街の明かりの一つになれる日が、
来るのでしょうか?
そんな、叶わぬ夢を抱いて、
今夜も一人、焚き火の明かりの元、
冷たい土の上に眠るのです。
七夕
七夕の夜は晴れて欲しい。
と君は云う。
その君の言葉に、俺は、
天の川に隔てられる、
哀れな牽牛星と織女星に、
君自身と君の想い人との関係を、
重ねているのかと思い…。
君にそこまで慕われる相手は、
どんな人なのか。
俺は知らないし、知りたくないけど。
俺は、君への恋心を押し隠し、
ズキズキと痛む胸の痛みを堪えながら、
笑顔の仮面を被って。
俺が君達の鵲になろうか。
と告げたんだ。
すると君は、
急に顔を朱に染めて、
年に一度しか会えない彦星と織姫が、
雨が降って会えないのは、
気の毒だと思っただけだ。
なんて、余りに優しい事を言うから。
雨の所為で彦星に逢えなくて、
織姫が流す涙が雨になる。
それが七夕の雨…催涙雨だなんて。
優しい君には悲しいだろう言い伝えは、
心の中にしまっておいて。
七夕に雨が降っても、
彦星と織姫が逢えるように、
鵲は毎年頑張ってるんだよ?
と、俺は君に嘘を吐く。
そんな俺の言葉に。
それなら安心したと、微笑む君が、
俺には余りに眩しくて。
俺は君の彦星にはなれないだろうけど。
雨の七夕でも、君を彦星の元に送り届ける、
鵲にはなりたい、と。
哀しみを堪えて、微笑むんだ。
友だちの思い出
幼い頃からずっと。
私には友達が、居ませんでした。
その所為か、私は、
友達という関係の存在を、
知識としては知っていても、
感覚としては、理解出来ずにいるのです。
友達とは、何なのでしょう?
同僚、知り合い、顔見知り…。
それらの人とは、何が違うのでしょう?
家族でもない人に、
心にも身体にも、鎧を着ていない、
無防備な姿を曝す等、
余りに危険な行為ではないのでは、と、
私は考えてしまうのです。
友達の居ない私には、
友達の思い出はありません。
でも。
貴方が、貴方以外の人と過ごす事も、
大切な事だと教えて下さったので、
頑張ってみようと思います。
…もし。
私に、友達との思い出が出来たら、
貴方は、私を褒めてくれますか?
星空
飽きずに振り続ける初夏の雨。
曇天の日が続く梅雨の季節。
その合間に。
ふと顔を見せる、星空。
何時もより、少しだけ貴重に思える、
夜半の星の煌めき。
一際明るい星。
目を凝らさなければ見えない小さな星。
ぼんやりと輝く星。
青い星、赤い星、白い星。
星空は、様々な星を、
全て受け入れて、
こんなにも美しい。
大人も子供も。
豊かな人も貧しい人も。
善人も悪人も。
夜空を振り仰ぎ見れば、
星達は、等しく輝いてくれるんだ。
その事が、俺の不甲斐無さを、
星達が受容してくれているみたいで、
明日は会えないかも知れない綺羅星に、
そっと、溜息を零す。
こんな駄目な俺でも。
星だけは赦してくれるんだって。
星空の下で、少しだけ自惚れてみるんだ。
神様だけが知っている
何故、自分は生きているのだろう。
戦いに明け暮れ、
何度も酷い怪我を負った。
だが、死ななかった。
身体の一部を失い、
生死の境を彷徨った。
それでも、死ねなかった。
昨日迄俺の隣で戦っていた仲間は、
傷付き、倒れ、
いとも簡単に、この世を去った。
櫛の歯が抜ける様に、
仲間が鬼籍に入り、
俺は、身体も心もボロボロで、
何処も彼処も傷跡だらけなのに、
俺は未だこの世に齧り付く。
こんな俺が、
何故生かされているのか。
それは。
神様だけが知っている、
のだろう。
ならば俺は。
この命尽きる迄、
歯を食い縛り、藻搔きながら生きてやる。