霜月 朔(創作)

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6/16/2024, 6:06:12 PM

一年前


子供の頃は、一年がとても長くて、
前の年の出来事やイベントは、
遥か昔の事のように感じていたのに。

大人になった今では、
一年前の事は、然程遠い過去では無く、
まるで先月の事の様に感じてしまいます。

子供の頃も、大人になった今も、
一年は365日で、一日は24時間であることは、
変わらない筈なのに。
時の流れの速さが違って感じるのは、
何故なのでしょうか。

長いようで短い、一年間。
仕事に、暮らしに忙殺されて、
変わり映えの無い日々の繰り返し。
そんな私には、一年前の私が、
何をしていたのかも、
碌に思い出せはしません。

ただ一つ。
一年前、私が願っていた願い事だけは、
覚えています。
…何故なら。
今日も未だ、同じ事を願っているのですから。


6/15/2024, 6:13:41 PM

好きな本


幼い頃、家が貧しかった俺は、
殆ど本を持っていなかった。

それでも、俺には、
お気に入りの本があった。
少年が不思議な世界に迷い込み、
様々な冒険をする話だった。

時が流れ、俺は大人になっていた。
忙しい日々に忙殺され、
本を読む余裕なんて無くなっていた。
だから。
『好きな本、何かな?』
お前にそう聞かれた時、
俺は、答えに困ってしまった。

子供向けの本の名を、
大人の俺が答えるのは、
恥ずかしかったが、
子供の頃に好きだった、
あの冒険物語の名を答えた。

するとお前は、満面の笑顔で、
『俺もあの本、好きだよ』
と言ってくれた。

その日から。
俺はあの本がもっと好きになった。
幼い俺と、少し前の俺の、
大切な思い出が詰まった、
俺の『好きな本』。




6/14/2024, 7:12:23 PM

あいまいな空


今日は朝から、曇り空だった。
空を見上げただけでは、
雨が降るのか、降らないのか、
解らない様な、曖昧な空。
俺は傘を持たずに、家を出た。

街を歩いていると、
ポツリポツリと、
空から雨粒が落ちてきた。

だが。
俺は、傘を買う気にも、
雨宿りする気にもなれず、
少しだけ足早に歩き続けた。

見上げると、空は相変らず曖昧な色で、
落ちてくる雨粒は涙の様で。
まるで、今の俺の心の様だと、
一人苦笑いする。

急に。
青空が恋しくなった。
こんな俺のような曖昧な空の色じゃない、
アイツの笑顔の様な、青空が見たい。

家に帰ったら。
アイツに手紙を書こう。
『今度の休みに、一緒に出掛けないか?』
と。

6/13/2024, 5:59:13 PM

あじさい



湿度が高くて、蒸し暑い日が続く、
憂鬱な梅雨の時期の、数少ない楽しみ。
それは、
…街に咲く、紫陽花の花。

どんよりとした重い灰色の空と、
飽きもせずに、滴り落ちる雨の雫に、
ぼんやりと霞んで見える街の景色の中で、
紫陽花だけは、
その花の青色と葉の濃緑色を、
はっきりと纏っている。

雨の中、一人、
道端に咲く紫陽花を眺める。
傘を叩く雨粒の音も、
今だけは、心地良く感じる。

不意に。
紫陽花には毒があるから、
気を付けて、と。
嘗ての恋人の言葉が、脳裏に蘇り、
ズキリと胸が痛んだ。

そうだ。
私の想いを、花言葉に託し、
彼に青い紫陽花を贈ろうか?
有毒植物である紫陽花を。

青い紫陽花の花言葉は…。
『美しいが、冷酷』

雨粒が、ポツリと一粒、
私の頬を濡らした。


6/12/2024, 6:33:19 PM

好き嫌い



野菜が苦手とか。魚が苦手とか。
甘いものが苦手とか。
嫌いな食べ物の事を、
『好き嫌い』と言います。

『好き嫌い』という言葉の中には、
『好き』という単語と、
『嫌い』という単語の、
両方が入っているのに。
『好き嫌いはある?』と問われると、
何故か、皆さん、
嫌いな食べ物の話だけをして、
好きな食べ物の事は、言いません。

『嫌い』と言う時より、
『好き』と言う時の方が、
幸せだと思うのですが。
人間とは不思議な生き物です。

でも。
『好き嫌い』が出来ることは、
幸せな事だとも、思います。
何故なら、
食べ物に困っていないから、
食べ物を選り好み出来るのですよね。

ほら。
嘗ての私のように、酷く貧しければ、
好き嫌いも言えず、
ゴミの中の残飯を漁り、
毒の無い野の草や草の根を齧って、
飢えを凌ぐしか、無いのですから…。

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