霜月 朔(創作)

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好きな本


幼い頃、家が貧しかった俺は、
殆ど本を持っていなかった。

それでも、俺には、
お気に入りの本があった。
少年が不思議な世界に迷い込み、
様々な冒険をする話だった。

時が流れ、俺は大人になっていた。
忙しい日々に忙殺され、
本を読む余裕なんて無くなっていた。
だから。
『好きな本、何かな?』
お前にそう聞かれた時、
俺は、答えに困ってしまった。

子供向けの本の名を、
大人の俺が答えるのは、
恥ずかしかったが、
子供の頃に好きだった、
あの冒険物語の名を答えた。

するとお前は、満面の笑顔で、
『俺もあの本、好きだよ』
と言ってくれた。

その日から。
俺はあの本がもっと好きになった。
幼い俺と、少し前の俺の、
大切な思い出が詰まった、
俺の『好きな本』。




6/15/2024, 6:13:41 PM