霜月 朔(創作)

Open App
6/1/2024, 5:05:47 PM

梅雨


梅雨の名前の由来を、ご存知ですか?
そう尋ねたら、貴方からは、
…黴がよく生える時期だから、
『黴雨(ばいう)』と呼んだんだろ。
と、云う答えが返ってきて。

私は、梅雨の名の由来は、
…梅の実が熟す頃が雨期なので、
「梅」の字を使うようになった。
だと、思っていたのですが。

古い言葉の由来なんて、
諸説あっても、
何ら不思議ではないのですが。

それでも。
黴と梅では、
余りにもイメージが違い過ぎて。
それが、貴方と私の、
違いである気がして。

でも、それが、
決して嫌ではなく。
二人の小さな違いを見付ける度、
何処か楽しくて。

梅雨。
故郷では、梅仕事の季節。
今年は、遠い故郷を思い、
梅干し作りでもしましょうか?

…梅仕事って言えば、梅酒だろ?
きっと貴方なら、
そう言うのでしょうね。

5/31/2024, 5:29:03 PM

無垢



産まれたばかりの赤ん坊は、
皆、無垢なのだろう。
そして、
赤ん坊から子供、
子供から大人になる過程で、
邪念や煩悩が沸き起こり、
穢や罪を知り、汚れていき、
無垢では無くなっていく。

当たり前だ。
無垢のままでは、
この腐り切った人間社会を、
生きていける筈がない。

無垢であること。
それは時に、
他者を、そして自分をも、傷付ける。

ならば、
大人になっても尚、無垢であるが故、
酷く傷付き、苦しんでいる君を、
私は慰め、護ろう。
…君が無垢なままで生きられる様に。

それとも。
君を護ってきたこの手で、
私が君を汚してしまおうか。
…君が無垢では無くなる様に。

5/30/2024, 4:05:56 PM

終わりなき旅


どんなに辛い事も、
手の届く所に終わりがあれば、
結構、耐えられる。
そして、辛い事は、
その終わりが見えなければ、
耐えるのは、苦しい。

ならば…。
眼の前の辛い事に、
終わりがないとしたら?

終わりなき旅は、只の苦行だ。
独りで歩くには、余りにも辛い。
その先に、明るい光が見えなければ、
尚更だ。

だから。
戻る事も逃げる事も許さない、
この終わりなき旅を、
俺が何とか歩いて居られるのは、
お前が隣を歩いてくれているから。
…そう思う。

5/29/2024, 5:59:15 PM

「ごめんね」



君と、酷い喧嘩して。
ホントは仲直りしたかったのに、
素直に謝れなくって。
悪いとは思ってない、とか。
自分は間違ってない、とか。
そんな事ばかり言って。

別れたくなんか、なかった。
そんな事を思う事さえ、
何だか悔しくって。
向こうから謝ってくれないかな、
…なんて。
虫の良い事を考えたり。

でも。
喧嘩してから、時間が経てば経つ程、
二人の溝は深まっていって。
言葉を交わすどころか、
視線を合わす事さえ、無くなって。

もう一度、話したい。
出来る事なら、
もう一度、抱き締めたい。
だけど。
そんな希望は、叶う訳もなく。
だから…。

「ごめんね」

喧嘩した日からずっと、
空っぽのままの手を握り締めて、
君に告げられずにいる言葉を、
遠くに見える君の背に向けて、
そっと呟く。

いつか、君は。
こんな私を、赦してくれるかな?

5/28/2024, 6:09:55 PM

半袖



夏は苦手です。

太陽の光は、容赦なく照り付け、
そのギラギラとした眩しさに、
私の暗い心は、ますます闇を濃くして。

照り付ける夏の太陽の下で、
陽気に燥ぐ、幸せな人々の声は、
容赦なく、私を追い詰め、
思わず、この世から、
逃げ出したくなってしまうから。

そして夏は、
私に半袖の服を着ることを、
強要してくるのです。

長袖の下に隠れている私の手首。
そこには無数の傷跡があります。
何年たっても消えない、
私の苦悩の跡。

夏は。半袖の服は。
私の過去の痛みの跡を、
死にきれなかった意気地の無さの証を、
白日の元へと晒すのです。

だから。
夏は…苦手です。

Next