梅雨
梅雨の名前の由来を、ご存知ですか?
そう尋ねたら、貴方からは、
…黴がよく生える時期だから、
『黴雨(ばいう)』と呼んだんだろ。
と、云う答えが返ってきて。
私は、梅雨の名の由来は、
…梅の実が熟す頃が雨期なので、
「梅」の字を使うようになった。
だと、思っていたのですが。
古い言葉の由来なんて、
諸説あっても、
何ら不思議ではないのですが。
それでも。
黴と梅では、
余りにもイメージが違い過ぎて。
それが、貴方と私の、
違いである気がして。
でも、それが、
決して嫌ではなく。
二人の小さな違いを見付ける度、
何処か楽しくて。
梅雨。
故郷では、梅仕事の季節。
今年は、遠い故郷を思い、
梅干し作りでもしましょうか?
…梅仕事って言えば、梅酒だろ?
きっと貴方なら、
そう言うのでしょうね。
無垢
産まれたばかりの赤ん坊は、
皆、無垢なのだろう。
そして、
赤ん坊から子供、
子供から大人になる過程で、
邪念や煩悩が沸き起こり、
穢や罪を知り、汚れていき、
無垢では無くなっていく。
当たり前だ。
無垢のままでは、
この腐り切った人間社会を、
生きていける筈がない。
無垢であること。
それは時に、
他者を、そして自分をも、傷付ける。
ならば、
大人になっても尚、無垢であるが故、
酷く傷付き、苦しんでいる君を、
私は慰め、護ろう。
…君が無垢なままで生きられる様に。
それとも。
君を護ってきたこの手で、
私が君を汚してしまおうか。
…君が無垢では無くなる様に。
終わりなき旅
どんなに辛い事も、
手の届く所に終わりがあれば、
結構、耐えられる。
そして、辛い事は、
その終わりが見えなければ、
耐えるのは、苦しい。
ならば…。
眼の前の辛い事に、
終わりがないとしたら?
終わりなき旅は、只の苦行だ。
独りで歩くには、余りにも辛い。
その先に、明るい光が見えなければ、
尚更だ。
だから。
戻る事も逃げる事も許さない、
この終わりなき旅を、
俺が何とか歩いて居られるのは、
お前が隣を歩いてくれているから。
…そう思う。
「ごめんね」
君と、酷い喧嘩して。
ホントは仲直りしたかったのに、
素直に謝れなくって。
悪いとは思ってない、とか。
自分は間違ってない、とか。
そんな事ばかり言って。
別れたくなんか、なかった。
そんな事を思う事さえ、
何だか悔しくって。
向こうから謝ってくれないかな、
…なんて。
虫の良い事を考えたり。
でも。
喧嘩してから、時間が経てば経つ程、
二人の溝は深まっていって。
言葉を交わすどころか、
視線を合わす事さえ、無くなって。
もう一度、話したい。
出来る事なら、
もう一度、抱き締めたい。
だけど。
そんな希望は、叶う訳もなく。
だから…。
「ごめんね」
喧嘩した日からずっと、
空っぽのままの手を握り締めて、
君に告げられずにいる言葉を、
遠くに見える君の背に向けて、
そっと呟く。
いつか、君は。
こんな私を、赦してくれるかな?
半袖
夏は苦手です。
太陽の光は、容赦なく照り付け、
そのギラギラとした眩しさに、
私の暗い心は、ますます闇を濃くして。
照り付ける夏の太陽の下で、
陽気に燥ぐ、幸せな人々の声は、
容赦なく、私を追い詰め、
思わず、この世から、
逃げ出したくなってしまうから。
そして夏は、
私に半袖の服を着ることを、
強要してくるのです。
長袖の下に隠れている私の手首。
そこには無数の傷跡があります。
何年たっても消えない、
私の苦悩の跡。
夏は。半袖の服は。
私の過去の痛みの跡を、
死にきれなかった意気地の無さの証を、
白日の元へと晒すのです。
だから。
夏は…苦手です。