「ごめんね」
君と、酷い喧嘩して。
ホントは仲直りしたかったのに、
素直に謝れなくって。
悪いとは思ってない、とか。
自分は間違ってない、とか。
そんな事ばかり言って。
別れたくなんか、なかった。
そんな事を思う事さえ、
何だか悔しくって。
向こうから謝ってくれないかな、
…なんて。
虫の良い事を考えたり。
でも。
喧嘩してから、時間が経てば経つ程、
二人の溝は深まっていって。
言葉を交わすどころか、
視線を合わす事さえ、無くなって。
もう一度、話したい。
出来る事なら、
もう一度、抱き締めたい。
だけど。
そんな希望は、叶う訳もなく。
だから…。
「ごめんね」
喧嘩した日からずっと、
空っぽのままの手を握り締めて、
君に告げられずにいる言葉を、
遠くに見える君の背に向けて、
そっと呟く。
いつか、君は。
こんな私を、赦してくれるかな?
半袖
夏は苦手です。
太陽の光は、容赦なく照り付け、
そのギラギラとした眩しさに、
私の暗い心は、ますます闇を濃くして。
照り付ける夏の太陽の下で、
陽気に燥ぐ、幸せな人々の声は、
容赦なく、私を追い詰め、
思わず、この世から、
逃げ出したくなってしまうから。
そして夏は、
私に半袖の服を着ることを、
強要してくるのです。
長袖の下に隠れている私の手首。
そこには無数の傷跡があります。
何年たっても消えない、
私の苦悩の跡。
夏は。半袖の服は。
私の過去の痛みの跡を、
死にきれなかった意気地の無さの証を、
白日の元へと晒すのです。
だから。
夏は…苦手です。
天国と地獄
透けるように白い肌。
浮世離れした丁寧な所作。
世の中を知らない乙女の様に、
穏やかに微笑む君の姿は、
まるで、天使のようで。
けれど。
何処か物憂げな視線。
瞳の奥に揺蕩う絶望。
華奢でありながら、仄暗い心を、
押し隠して佇む君の姿は、
まるで、悪魔のようで。
そんな君との恋は、
余りに刺激的で。
まるで、天国と地獄を
行ったり来たりしてるみたいだ。
君の、紅を差した様に朱い、
その口唇から紡がれるのは、
天使の御告げなのか。
それとも、悪魔の囁きなのか。
今夜、私は。
天国と地獄の、
どちらに居るのだろう。
月に願いを
夜、外に出て、空を見上げる。
今日は満月の夜。
いつも夜空に無数に瞬いている星々も、
満月の前では、何処か脇役みたい。
よく晴れた夜には、
孤独な日々を送るボクを、
その輝きで慰めてくれる、
大好きなきらきら星たちに、
『今夜だけは、ごめんね』と呟いて。
天高く、神々しくも寒々しい光を放つ、
青白い満月に、願いをかける。
お月様。
どうか、ボクを助けて。
ボクを空に引き上げて、
あなたの周りで、毎夜キラキラと輝く、
数多ある星の一つにして。
月に願いを。
叶うことのない願いだけど。
今のボクには、祈る事しか出来ないから。
でも。
明日の夜から、また。
満月は、少しづつ欠けていって。
そのうち、消えてなくなってしまう。
…叶わないボクの願いと、共に。
降り止まない雨
今日は朝から雨が降っていた。
一人で過ごす雨の日は、いい。
騒がしい人の声も、外の喧騒も、
雨音が覆い隠してくれる。
なかなか降り止まぬ雨が格子となって、
私をここに閉じ込めてくれれば良いのに。
とさえ、思う。
私の心の中には、
ずっと、降り止まない雨が降っている。
それまで持っていた物も、立場も、
人間関係も、信頼も、愛情も、
全て捨て去った、あの日から。
窓の外を見ると、
先程より、雨脚は弱まり、
空が少しだけ明るくなってきた。
そろそろ雨が上がるのかもしれない。
雨を言い訳にして、
誰にも会わずにいられる時間も、
もうすぐ終わってしまうのかと思うと、
徐々に明るくなる空を、
つい、恨みがましい目でみてしまう。
窓の外の雨は、
直に降り止むだろう。
だが、
私の心の中は、尚も雨雲に覆われ、
雨が降り止む気配は、ない。