霜月 朔(創作)

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5/7/2024, 4:24:34 PM

初恋の日


お前の墓に花を手向けるのが、
いつの間にか、俺の日課になっていた。
 
お前の墓の前で、
俺は、お前に語り掛ける。
嬉しい事だけじゃない。
辛い事も、悲しい事も、
全てお前に、ぶち撒ける。

お前が居なければ、
俺はきっと、野垂れ死んで居ただろう。
お前が居たから、今の俺があるんだ。

いつもお前に手向ける花は、
決して華やかなものばかりじゃない。
それでも。
お前の誕生日、お前の命日、
そして、俺とお前が出逢った日は、
少しだけ華やかな花を手向ける。

俺がお前と出逢った日。
それは、
俺の…初恋の日、だから。

5/6/2024, 4:03:16 PM

明日世界が終わるなら


罪悪感に雁字搦めになって、
まるで寝付けない、夜中。
寝床から這い出し、外に出る。 
今夜は厚い雲が空を覆い、
月も星も、その姿を隠していた。

だが、月も星も見えない夜に、
私は心の何処かでほっとした。
月の灯りも、星の煌めきも、
こんな私には、余りに眩し過ぎるから。

そんな、星も月も姿を隠す夜の闇が、
私の罪や愚かさや後悔や醜さも、
覆い隠してはくれないだろうか。
そんな自分勝手な事を思う自分に、
呆れ果て、深い溜息を吐く。

明日など、来なければ良いのに。
眠れぬ夜が訪れる度に、そう思う。
もし、明日世界が終わるなら、
今夜だけは、
この、過去からの罪悪感からも、
今日の絶望感からも、明日への焦燥からも、
全ての苦痛から目を背けて、
眠りに就く事が出来るだろうに。

だが。
もし、本当に、
明日世界が終わるなら。
その時は、彼奴に一言だけ伝えたい。
…私と出逢ってくれて、有難う。
と。



5/5/2024, 5:56:15 PM

君と出逢って


俺は昔から何をやっても、
全然、駄目な人間で。
こんな俺なんか、
何の役にも立たないなって、思ってて。

本を沢山読んで、知識を蓄えても、
失敗するのを恐れて、何も出来なくて、
普段の生活や仕事に、生かせないし。
身体を鍛えて、筋力をつけても、
実際のトラブルに遭遇すると、
怖くて、身動ぎ一つ出来やしない。
ホントに弱い人間なんだ。

だけど、君と出逢って。
俺は、少しだけ強くなった。

仕事が出来て、スポーツ万能で。
コミニュケーション能力もあって、
先輩からも後輩からも一目置かれる。
そんな君に、俺は憧れて。

少しでも君に近付きたい。
少しでも君に相応しい人間になりたい。
…そう思ったら。
少しだけ勇気を出して、
チャレンジ出来る様になったんだ。

だけど、一つだけ。
俺には、君と出逢って、
とても怖くなった事があるんだ。

それは。
…君に嫌われること。

こんな俺って。
やっぱり、駄目な男だよね。


5/4/2024, 3:11:36 PM

耳を澄ますと 


巻貝に耳を近付けて、耳を澄ますと、
波の音が聞こえるんだよ。

幼い私にそう教えてくれたのは、
まだ少年だった貴方でした。
当時の私は、海を見たことが無かったので、
本当の波の音を知りませんでした。
だから、巻貝の中から聞こえてくる音が、
幼い私の中では、本当の波の音でした。

あれから、時が過ぎ、
私は大人になって、本当の海を見ました。
そして、実際の波の音を聞きました。
色々な場所に旅をして、沢山の海に出会い、
様々な波の音を聞きました。

それでも。未だに。
私にとっては、幼い日に、
見たことのない大海原に憧れ、
巻貝にそっと耳を近づけて聞いていた、
あの偽りの波の音が、
『本当の波の音』なのです。

今夜も、静かなこの部屋で、
私は貴方の帰りを待ちながら、
巻貝をそっと耳にあて、耳を澄ませます。

聞こえてくるのは、小さな波の音。
そして。
…幼い私と貴方の声。

5/3/2024, 3:53:06 PM

二人だけの秘密


私の掌の上には、
傷だらけの指輪が一つ。

鈍く光る指輪の内側には、
懐かしい君のイニシャルが、刻まれてる。
まだ、君と私が恋人だった頃の、
ペアリングの片割れ。

私と君の関係は、世間的には、
決して褒められる事ではなかったから。
お揃いの指輪を買っても、
堂々と指に嵌める事は出来ない。
それでも良いからと、
無理に買ったペアリング。
それは、切なくて甘い、二人だけの秘密。

だけど。ある日、君は私の元を去り、
私と君は、只の同僚に戻った。

あれから、年月が経って。
今は、あの頃と違って、
お互い立場もあるし、守るべきものも出来た。
だから。
私が幾ら、あの頃の関係に戻りたいと願っても、
叶わない事は、嫌という程分かってる。

それでも。私は。
今でも『二人だけの秘密』の片割れを、
棄てられずにいるんだ。

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