生きる意味
私に生きている価値はない。
これ以上生きていても、
見苦しいだけだ、と。
自らの喉元に、刃物を突き付ける。
ふと。
庭の桜の木の花の蕾が、
少し膨らんでいた事を思い出し。
最期に桜の花を見てから、
この世に別れを告げようと、
ナイフを下ろした。
この世に未練など無い筈なのに。
私はこんな事を繰り返す。
ある時は、
教え子が文字を書けるようになる迄は、と。
またある時は、
後輩が仕事を覚える迄は、と。
そしてまたある時は、
借りた本を返す迄は、と。
人から見れば取るに足らないだろう、
些細な理由を見つけては、
さも大事の様に、自らに振り翳す。
私に生きている価値は無い。
しかし。
死を選ぼうとする度に、私は、
無理矢理、生きる意味を見つけては、
生き恥を晒している。
善悪
私は、貴方を殺します。
でも、それは。
穢れ切った世の中が吐き出す蠱毒に侵され、
私の眼の前で、藻掻き苦しむ貴方を、
助けてあげたい。只、それだけです。
本当は貴方を殺したくはないんです。
でも、貴方を救う手立ては、
腐臭漂う、この腐り切った世の中を、
破壊するしかないと知り。
世の中を壊すなんて。
それは、悪い事ですよね。
少なくとも貴方なら、そう言うでしょう。
ならば。
血反吐を吐き、苦しむ貴方を救う方法は…。
貴方をこの世から逃がしてあげる事。
私は貴方を殺します。
人を殺す事は悪い事だと、
貴方は私に教えてくれました。
でも。
きっと、貴方は。
私が貴方を殺める事を、
悪い事とは言わないでしょう。
大丈夫です。
私は。貴方の教えを受けて、
善悪の判る人間になったのですから。
流れ星に願いを
密かに、貴方に想いを寄せるようになってから、
どれだけの時が過ぎたのでしょう。
大人になっても何処か純粋で、
未来を夢見る少年の様な、
純粋な心とキラキラした瞳で、
屈託なく笑う、その笑顔が眩しくて。
でも、私には、
貴方に想いを打ち明けるどころか、
気軽に声をかける事さえ躊躇われて。
きっと、貴方は私の事を、
口煩い先輩としか思っていないのでしょう。
それでも。貴方は私を、
仕事では信頼してくれている。
それで満足しなければ、と、
自分で自分に言い聞かせています。
ふと見上げた星空。幾つも瞬く星々。
夜空で一際輝く星に、貴方を重ね、
言葉に出来ない想いを、独り呟き、
じっと星を見つめていました。
突然、一筋の流れ星。
咄嗟に貴方へ想いが伝わるようにと、
願い、真剣に祈っていました。
流れ星に願いを…。
流れ星に向けて、必死に願い事を、
祈っていた自分が、恥ずかしくて、
思わず俯き、溜息を吐きました。
流れ星に願いを。
そんな、酷くロマンチックな感情が、
未だ、私自身の中にあるだなんて。
貴方に恋して、初めて知りました。
ルール
ボクより賢くて、いろいろ出来るからって。
いつだって、お前は、
ボクに上から目線で接してきて、
なんか偉そうにしてて。
ホントは、きっとボクの気持ちになんて、
お前は、とっくに気付いてて。
このまま放っておいても、
どうせ、ボクが痺れを切らせて、
自分から思いを打ち明けるだろうって。
高を括ってるんだろうけど。
だけど。
お前の思い通りなんかには、させない。
もっと、お前を焦らせて、
本気でボクを捕まえたいって、
思わせるように…。
ルール違反な所まで、近づいて。
ルール違反な事まで、踏み込んで。
お前の立場なんか、考えてやらないから。
ルールを守ろうとする、お前には、
真似出来ない様な事だって、
ボクは余裕でやってみせる。
…だって。
ちゃんとルールを守ってたら、
お前には絶対勝てないから。
今日の心模様
今日は朝から気分が良かった。
何故かというと…。
朝ご飯が、フレンチトーストだったから。
そんな、単純な理由で、
俺は、ご機嫌だった。
そんな日だから。
いつもは鬱陶しいと思う、
あいつのお節介にも、
今日は、何だか、
少しは応じてやってもいいかなって。
あいつは、今日も変わらず、
俺に微笑みかけてきて、
まるで子供の面倒を見る様に、
俺の世話をしようとする。
俺を見るあいつは、何時も、
何だかマシュマロみたいに、
ふわふわしてて、甘過ぎて。
それが余りに気恥ずかしくて、
あいつの前から逃げ出したくなるのに。
今日は、少しだけ。
悪い気はしなかった。
今日の心模様は、
フレンチトーストみたいに、
ベタベタに甘くって。
マシュマロみたいに、
ふわふわっと甘くって。
偶には、こんな日も有りかな?
俺は、あいつの笑顔に包まれ、
少し頬を朱に染めながら、
ふと、思った。