好きじゃないのに
知ってるよ。
お前は、ボクに同情してるだけだって事くらい。
お前が、友達が居ないボクを、
密かに見守ってくれるのも。
ボクが仕事でやらかしたミスを、
こっそりフォローしてくれてるのも。
全部全部…同情。
気付いてるよ。
お前が、ボクを哀れんでるだけだって事くらい。
ボクが母親に捨てられた子だったから。
ボクは愛を知らずに生きてきた人間だから。
ボクは陽の光の当たらない場所でしか、
生きていけない存在だから。
全部全部…憐憫。
どうせ、お前は、
こんな塵屑みたいなボクに親切にする事で、
優越感を覚えているだけだろ?
ボクの事、好きじゃないのに、
優しくなんかするなよ!
だって。
そんなに、優しくされたら。
勘違いしちゃうじゃないか。
もしかしたら、ホントにボクの事を、
好きなんじゃないか、って。
辛いだけだから、夢を見させないでくれよ。
もしかしたら、ホントにボクと、
ずっと一緒に居てくれるんじゃないか、なんて。
ところにより雨
お前はずっと俺の隣にいて。
一緒に美味いものを喰ったり、
一緒に楽しい事やったり、
一緒に辛い事を乗り越えたり、
いつでも『一緒』が普通だと思ってる。
そりゃ、文句が全く無い訳じゃない。
時々不機嫌になることもあるし。
偶に、喧嘩だってするし。
それでも。
俺達の絆は、揺るぎないものだと思ってるし、
俺はお前の一番の理解者だと思ってる。
だけど…。ふとした瞬間。
お前の心の中に、元彼との思い出が、
今も色鮮やかに残って居ることに気付かされると、
俺の心は俄に掻き曇り、雨模様になり…。
そして、大粒の雨粒が落ち始め、次第に大雨になる。
だけど、俺はそれに気付かない振りをする。
…ほら、晴れてるじゃないか。
雨なんか、何処にも降ってない、と。
俺の心は、
晴れ時々曇…ところにより雨。
でも、こんな時こそ俺は、
眩しい程の快晴の笑みを浮かべて見せるんだ。
特別な存在
私にとって貴方はどんな存在か、と問われれば。
友人である…と答えるのが最適でしょうか。
知り合いという程、縁が遠くはなく。
親友という程、親しいとは言えない気がします。
ですが、私は…。
沢山の友人に囲まれ、その中心で笑う貴方を、
想いを隠し、素知らぬ顔をして、
密かに、憧れの眼差しで見ているのです。
そう。
私にとって、貴方は特別な存在。
ですが。
それを認める訳にはいかないのです。
他人に対しても。
貴方に対しても。
…自分に対しても。
だって。
悔し過ぎるじゃないですか。
貴方にとって私は、
数多く居る友人の1人に過ぎないのですから。
バカみたい
君は皆の憧れの存在だった。
真面目で誠実、そして強くて優しい。
仕事が出来て、リーダーシップもある。
後輩から頼られ、先輩から一目置かれて。
そんな君に、俺は恋にも似た憧れを抱いていた。
君と友達になりたい。出来れば親友になりたい。
何時からか、そう願う様になっていた。
今は未だ、君にとって俺は、
何人も居る同僚の1人に過ぎないだろう。
でもいつか。
君の隣で、共に泣き、苦しみを乗り越え、
一緒に笑い合いたい。
不意に意識が、空想から現実に引き戻された。
溜息一つ。俺は、冷静に現実を直視する。
鏡に写る現実の俺は、何処にでもいる冴えない男。
バカみたい。
こんな俺が、君の友達なんかになれる訳がないのに。
二人ぼっち
窓も無いこの暗い部屋には、私と貴方の二人だけ。
私は貴方の寝顔を見つめている。
ずっとずっと。
貴方は、私の夢を見てくれているのでしょうか?
幼い日の暖かな思い出の中に居るのでしょうか?
それとも…。
眠りに就く貴方に、私はそっと語り掛けた。
答えは返っては来ない。
然程広くない部屋の中に、私の声が虚しく響くだけ。
それでも、私は貴方に語り掛けた。
誰も訪れることのない、この牢獄にも似た場所で。
貴方は眠り続けている。
ずっとずっと。
貴方が居れば、他は何も要らない。
この部屋の中が私の全て。
貴方と私…二人ぼっち。
私と貴方が陽の光の下で過ごしていたのは、
もう余りに遠い日の事。
太陽の眩しさも、星の煌めきも、月の満ち欠けも。
風の涼しさも、土の温もりも、炎の激しさも。
最早、遠い日の記憶になっていた。
私は貴方の隣で、貴方の目覚めを待っている。
何時訪れるとも知れないその時を待っている。
ずっとずっと。