世界の終わりに君と
世界の終わりに君と私、二人が生き残る。
手元にはパンが一つある。一つ食べれば、一人が一日ほど生きのびられる。
君は私よりずっと子供で、腹を空かせている。でも自分で思っているほど悪い子ではないから、駄々をこねたりはしない。
私は「半分こしよう」とパンを割る。君はすぐに食べてしまう。
もう半分を差し出すと、君は首を振る。私はパンをもう半分に割る。
「今お腹空いてないから、食べなさい」
そう言うと、君はやっとそれを受け取って食べる。眠くてたまらない。
「ちょっと疲れたから横になる。その間にお腹が空いたら、それも食べていいから」
君は応えない。目を閉じていても、君が食べたいのを我慢しているのがわかる。そう、君は必死に我慢している。君は自分が思っているほど、駄目な子じゃない。
翌朝、空腹のあまりパンに手を伸ばした君は、私が冷たくなっていることに気づく。
君がなるべく悲しまないことを、あまり苦しまないことを願っている。
こんな風に人に与える人を
昔 亡くしたことがあります
失恋
たぶん恋をしたことがないので
よくわかりませんが
「読まなければいけない本」が
全然面白いと思えない時が
それに 近いのではないかと思っています
裏切られたような気分と
良さが見出せないのは
自分に問題があるのではという気分とで
何だか 背筋が屈みます
こんな時は ちょっとだけ
この仕事が嫌になります
正直
正直に白状します
いただいた❤︎の数を
作品数で割ったことがあります
想像より少しだけ 多かったです
でもなんだか
大事なものをすこし
失くしたような気がするので
もうしません
梅雨
皆であなたを連れて帰ってきて
誰かが庭の花を一枝切って枕元に活けた
白くて上品な花だった
翌朝 花は落ちていた
あなたが死んだということを
なぜかその時理解した
お葬式も四十九日も
何故かその日だけは晴れていた
あなたの命日を
いつもはっきり思い出せない
ただ夏椿を見るたびに
梅雨時にあなたがいなくなったこと
それだけいつも思い出す
終わりなき旅
物語る、とはずっと旅を続けているようなものなのだろうと思っていた。
それができなかった自分のための覚書:
◯あなたはうっすら憧れたものにはなっていない。それだけの衝動がなかったからだ。
だがあなたはまだ物語が好きで、誰かの物語を世に出す手伝いをしている。仕事はやりがいがあり、あなたは適度に幸福である。
◯誰もがずっと描き続けられる訳ではない。現にあなたが大好きなジュブナイルSFの作者は、あなたの知る限り他に作品を書いていない。
でもそこにはおそらく、その人の書きたかった全てがあった。ずっと未知の場所を旅し続ける必要はない。読み返せば大切な物語はそこにあり、あなたは何度でも旅に出られる。
◯仕事をしていて気づいたことの幾つか。優れた語り手は、あなたにないこんなものを持っている。
・圧倒的な個性や斬新な世界観:多少の矛盾すら吹き飛ばしてしまう。
・(上と矛盾するが)自分が何を書いたか、ちゃんと覚えている能力:自分の世界の法則や時間軸、このキャラクターは何をしようとしていて、何が好きか、誰にどんな台詞を言ったか。それをしっかりと覚えていれば、人物の行動や展開は無理のない、パズルのピースがぴったりはまったような印象を与えるものになる。
・「推敲する能力」:「彼女はまるで◯◯のような××色の髪と△△のような◻︎◻︎色の瞳の持ち主で肌はまるで〜〜産の⚫️⚫️のよう云々」と、外見上の特徴を一気に並べ立てない(※ジャンル上必要である場合を除く)。無駄な描写と繰り返し(「何だって⁈」と私は大声で叫んだ、のような文において、誰が喋っているか自明な場合の『と私は〜』にあたる部分)は思い切って削り、「印象づけたいもの」を描写する。
◯あなたがここに何かを書き込んでいるのは日記や独り言や、昔書いてみたかったものの断片を吐き出してすっきりしてみたかったからである。案の定、日記とポエムとストーリーのない何か(おそらく世間では黒歴史と呼ばれるもの)が積み上がりつつあるが、今のところ一つだけ書いて良かったものがあった。24時間以内の短い旅だったが、それを吐き出せただけで、あなたは前より少し幸せである。
終わりなき旅を続けるすべての方へ。あなたの旅が良きものでありますように。
いつの日か原稿を介してお会いすることがあるかもしれません。私は良い書き手ではないけれど、仕事はちゃんとしているのでその時はどうかよろしくお願いします。